第25話

「すごいわ……やっぱり古代魔術ね、噂にはきいていたけれど、まだ使い手がいたなんて。これは魔術師長様が?」

「……そうだ」

「酷いわ、あの方は。……なぜ私に伝授してくれなかったのかしら?」


 サンドラは、心底悔しそうに言った。そこに無駄な色香はなく、純粋に魔術師として悔しがっているらしい。


「でもわからないわ、身籠ることができない呪術なんて、あなたの元の立場では不都合が多すぎやしない?」


 オデットには兄も弟もいない。誰もが不思議に思うことだろう。世継ぎをつくらねばならぬただ一人の皇女に、なぜこんなまじないを施したのかと。


「……クナイシュの建国からの言い伝えによると、皇女が子を産むと災いがおこるそうだ」


 オデットがそう説明すると、それまで黙っていたユリウスは握った手に力を込めてきた。


「馬鹿げています。それを信じてあなたに呪術を?」


 ユリウスは珍しく感情を露わにしている。まるで、オデットにこんなことをした、父と魔術師長に文句を言いたそうに。


「たとえどんなに愚かな言い伝えでも、信じる者がいる。だから、巻き込まれないようにするために、生まれてすぐに父が命じて施させたそうだ」

「……なぜ、その話を昨日先に言わなかったのですか?」

「言っただろう。知らなかったのだと。……生まれてからこれまでで、このまじないが発動したのは昨日がはじめてだった。わたくしも効力があるのか、正直疑っていた」


 昨日経験した、臓腑をかきまわされるような痛み。大きな力が働き、身体と自然の摂理を強制的に変えてしまっているようだった。これで効力はない、などということはないはずだ。


「サンドラ、はやく呪いを解いてください」


 ユリウスの言葉に、サンドラはあっさりと首を横に振る。


「無理よ……」

「時間がかかるのですか?」

「いくら時間をかけても解けないの。魔術師長様が生きていたら話は違ったかもしれないけれど」


 オデットはそうだろうと予想していたので驚かなかった。サンドラが簡単に解ける類のものであれば、呪術としても意味は薄くなってしまう。今更言われなくても、とっくに受け入れていた現実だ。


 なのに、ユリウスの顔が苦しそうに歪む。自分の身体のことではないのに。繋いだままの手からわずかに震えが伝わり、オデットはただただ戸惑った。

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