第20話
「何をなさっているのですか!」
向こう側に呼びかけると、しっかりとした活力のあるオデットの声が返ってきた。
「今日、ひとついいことを発見した。小さい寝台は眠るのに適してはいないが、わたくしでも動かせる」
「小さいって……これが普通の大きさなのですが」
確かに彼女が今まで使っていただろう寝台とは大きさが違うかもしれない。身分の高い者が使う大きな寝台は、そもそも動かす構造になっていないだろう。それに比べて、ここに置いた寝台は一時的な間に合わせで、引きずるようにすれば、大人なら動かすことができる。
しかし、重い物など持ったことのないオデットにとっては簡単ではなかったはずだ。
「まさか怪我はしていませんよね?」
はやく無事を確認したくて、体重を乗せて強く扉を押すと、寝台が押し戻され一人分の隙間ができる。そこから部屋に滑り込むと、ハンナの言った通りのナイトドレスのままで、おそろしく機嫌の悪そうなオデットがいた。
「裏切者ばかり集まって何をしているのか知らぬが、わたくしを巻き込むな」
窓から見ていたのか、オデットはすでに訪問者について把握しているようだ。裏切者ばかりとは、なかなか辛辣だが、それは否定せず、彼女の手に傷がついていないかを確認していく。
「気安く触るな。……お前、まさかまじないのことをあの女に話したのか?」
「女性の魔術師で、クナイシュの呪いに詳しい人間はサンドラしかいませんから」
「誰が頼んだ!」
オデットは声を荒げる。
「貴方の身体をそのままにはしておけません」
「別に不自由はない」
「それでは私が不安なのです」
「お前が無体なことをしなければ、私は二度と苦しまずに済む」
確かにそうだが、無体なことと言われると、ユリウスは面白くない。
呪いに苦しめられるまでのオデットは、ただ酷いことをされただけの、哀れな女の反応ではなかったのに。
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