第19話
「実際にお姫様だったのだから、仕方ないだろう。騎士の妻としてもやっていけるように、お前が厳しく導いてやってくれ」
「そうおっしゃるから、頭ごなしの命令は聞かないつもりで接していたら、お着がえもせず、長い髪もそのままにして、ふらふらと部屋から出てきましたよ。|頑《がん》として折れないつもりのようです」
「そうか」
「でも……食事を終えたら、おいしかったと大変不本意そうにお礼をいってくださいましたけれど」
その情景が目に浮かんできて、ユリウスは苦笑した。つられてハンナも笑う。
気位が高いのは、皇女という立場だったのだから当たり前だ。でも思うようにいかなくとも喚き散らさないのはさすがだ。そして本来の彼女は心根の優しい人間なのだ。
この先、オデットはいくらでも変わっていくことができる。ハンナもその可能性を期待しているのか、目が合うと大きく頷いた。
オデットを皇女に戻すつもりはない。マクシミリアン王も、二度と表舞台に立たせる気はないと明言している。もろもろ片付いたら、ユリウスは自分の故郷に連れて帰るつもりだった。
だが、そのためには、不安の芽は早めに摘んでおかなければならない。
「部屋を見てくる」
ハンナの口ぶりから察するに、オデットはまだ着替えもしていないのだろう。
連れてきた客人のうち、女のサンドラはともかく、既婚者といえどもジベールは男だ。ナイトドレスの危うい姿を見せるわけにはいかない。
部屋の前に立ち、扉を叩くが返事がなかった。まさか具合が悪くなったのかと焦って扉を押すと、ガンと強い音をたて何かが引っかかり、上手く開かなかった。
扉の向こうに、大きな障害物があるようだ。
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