第16話

そうして、三つ目の選択肢、ナイトドレスとガウン、長い髪も束ねることなくそのままの姿で食堂に顔を出すと、ハンナは何度も目をパチクリとさせ、最後には盛大なため息をつかれてしまった。


「まあ、いいでしょう。奥様のお席はこちらです」


 しぶしぶといった様子で、食事を出してくれる。

 スープと固いパンの簡単な食事だったが、地味な見かけから想像したよりずっと味は美味しく、温かい食べ物はオデットの空腹を満たしてくれた。


「旦那様は午後お戻りになるそうです。お客人もご一緒ということなので、今度こそお支度をおねがいしますね。お手伝いいたしますか?」


 もしかしたらハンナも仕方なく、オデットが頼みやすい状況を作ってくれているのかもしれない。

 ここで一言、「頼む」と言えばいいのだろう。だが、オデットには素直になれない別の理由があった。


「……わたくしは誰にも会わない」

「まあ、そんなわがままを!」


 わがままなものか。話が通じない苛立ちを抑え、オデットは立ち上がった。


「ごちそうさまでした。たいへん美味しかったです」


 妥協できることと、できないことがあるのだ。

 ただのわがままでないと、そう主張したくて、オデットは彼女が望んだ女性らしい言葉遣いで礼を言って、早足で部屋に逃げ込んだ。

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