第13話
呪いから発せられる痛みが完全に治まった夜更けに、ユリウスは「用事を済ませてきます」と部屋を出て行った。
それが都が落ちた日の隠し部屋での出来事と重なり、オデットの心を冷やしていく。
「もう二度と顔をみせなくていい」
そうすれば狭い部屋に取り残される不安など、二度と経験しなくてすむから。
去っていく背中に投げかけると、ユリウスは振り返り。困った顔で笑った。
「そうはいきません。あなたは私の妻ですから」
まただ。
今日、何度目かの「妻」という言葉にオデットは強い不信感を抱く。
少し優しくされたからといって、騙されてはいけないのだと、何度も何度も自分に言い聞かせ、慣れない寝台の上で身を丸くしながら、その晩眠りについた。
そうして、結局ここがどこなのか、オデットはこの先どうやって過ごしていけばいいのか何もわからないまま、一人で朝を迎えた。
そろそろと起き上がり、自分の置かれている状況を確認してみる。
オデットが今着ているナイトドレスは、ユリウスが去り際に着せてくれたものだ。肌ざわりは滑らかで、上質の生地だった。枕元にはガウンが畳まれていたので、それを肩に掛けて部屋の中を見渡した。
テーブルと、何の装飾もないドレッサーと、小さなクローゼットがある。
クローゼットの中を見てみると、いくつかの服がかけられていた。どれもオデットには馴染みのない地味なドレスだったが、誰かが着古したものではなく、新品のようで少しほっとする。
ひとつだけある窓のカーテンを開けると、目の前には小さな庭と、遠くには、数日前までのオデットの住まいであった宮殿が見える。オデットはまだ、都のどこかにいるらしい。
そこでふと、窓枠に目をとめた。鍵が潰されて開かなくなっている。
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