第4話

違う。

 

 オデットが知っている男とは、何もかもが違う。彼は黒い髪の青年で、時折柔和な笑みを見せてくれていた。だから目の前の、凍るような冷たい目を持つ、銀色の髪の男と別人だ。

「オデットよ、どうかしたか?」


 オデットの動揺を嘲笑うように、マクシミリアンはわざとらしく問いかけた。しかしそんな声は届かないほど、オデットの心は、さらに近くへと歩み出てきた黒衣の騎士に注がれている。


「…………お前、ジョン」


 黒衣の騎士は、オデットが呼びかけても、表情ひとつ動かすことがなかった。

 やはりオデットの知ってる男とは違う。そう思いたいのに、魂がそれを否定する。


「第七騎士団、ユリウス・クロイゼル。昨日までなんと名乗っていたかは知らないが、それがこの男の本当の名だ。お前の夫となる男だ、覚えておくといい」


 全てを知っているかのように、マクシミリアン王は残酷に告げた。

 頭を殴られたような衝撃が走る。


 だって、何年も……彼は全く違う名前で、父のお気に入りとして、クナイシュ帝国の宮廷にいたのに。


 一体何を信じていたのだろう。

 こんな真実が待っているのであれば、なぜこの男は死んではならないと言ったのだろう。


 男の侮蔑するような視線に、その答えを見つけた気がした。

 もしかすると、この男はオデットが絶望する様子が見たかったのかもしれない。

 嘘だったのだ。優しさも、気遣いも、あの笑みも何もかも。 



 足元が崩れていくような錯覚が襲い、オデットは意識を失った。

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