仕事終わりの日課

白椿

仕事終わりの日課

美波は数学学者として仕事をしている。そのため多忙な日々ではあるのだが、仕事終わりの日課が彼女にとっては良い気分転換になるのだった。美波はいつも仕事を終えると行きつけのファストフード店に寄る。とは言っても、そこでポテトやらハンバーガーやらを食べるのではなくて、Lサイズのシェイクを飲みながら夜景を眺めるのが日課なのだ。彼女の日課を知らない人が見たらそれは高みの見物も同然なのだが、高みの見物などでは決してなく、美しい夜景を目に焼き付けて1日頑張った自分自身を労おうとしているだけである。毎日この店にやってきているため、この店の店員にとっては顔馴染みも同然だ。いつものように店へとやってきた美波に店員が声をかける。

『いらっしゃいませ!また来てくださったのですね』

『そうですね』

美波は口数も少なく会話しながらいつものシェイクを注文する。商品を受け取ると、美波は2階席に繋がる階段を登った。いつもの席に荷物を置くと、美波は座席に腰掛け

『ふうっ、』

と息をついた。伸びをして凝りをほぐした後、外に広がる夜景を眺める。スマホを取り出すと、YouTubeの新着動画がないかどうか、また新着動画があれば、ワイヤレスイヤホンをつけた後、そのYouTubeを聴きながらシェイクを一口、また一口と飲む。そうしてある程度飲んだら次はパソコンで趣味の一つである小説の投稿を始める。カタカタとキーボードを打つ音が静かな店内にこだました。そうして黙々と小説を投稿する作業を1時間ほど続けた後、美波は残った分のシェイクを飲み干して席を立った。外はそれはそれは美しく幻想的だ。夜の間と建物の灯りが見事にマッチしている様は星空そのものだ。美波はそんな景色にふっと静かに微笑むと店を後にした。美波が先ほど店の中にいる時に書いた小説はこの夜空によって自らの心が洗われる感覚や、いつまでもこのような何でもない平和な日が続くことを望む言葉、そしてその美しい世界の中へ生きる汚らわしい人間たちへの怒りの節、いずれは尽きる人間の命の儚さを嘆く旨などが包み隠すことなく、赤裸々に綴られていた。美波は小説家としての面も持っていたから、何か読者の心を打つ小説が書ければ良いと思っていた。作り話でももちろん良いのだが、ノンフィクションの方がより現実味を帯びていて良いだろうと言う彼女なりの考えだ。それでも自身の書いたこの小説が少しでも人生の教訓、生きていくための活力としてもらうことができれば幸甚に思う。美波はそんなことを密かに思いながらこの夜の街を歩き、帰路へと着くのだった...

END

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仕事終わりの日課 白椿 @Yoshitune1721

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