5

 あの日から、私の夢の残骸は、もう一度夢に戻って、追いかけるようになった。

 親とも話し合った結果、「きちんと大学に入って収入も自分で稼ぐのであればいい」って言われて。

 話し合う、に行き着くまでに、全員怪我はなかったけれどバトルをした。壁にいくつも穴を開けて、床は強盗が入ったんじゃないか、ってくらいの有様になるまで。それぐらいに本気だった。小鳥遊さんが、背中を押してくれた。

 ――

 小鳥遊さんと話したのはあの日だけ。後はクラスも変わってしまったから、学校生活で関わることはなかった。ただ、やっぱり噂は聞こえてきて「オーディション番組に出ることが決まった」とか。卒業式で姿を見たのが最後だった。


「山田さん、絶対すごい漫画家になれるよ!」


 それでも、その、たった一言が、いつも、私の背中を押してくれた。誰に言われた言葉よりも、小鳥遊さんのあの言葉が私の中に響いていて。

 だから、頑張れた。

――

 高校を卒業してから10年が経つ。私は駅までの道を歩いていた。

 大きなビルに映し出されているCM。白とピンクのふわふわとした衣装で踊る彼女が目に入る。名前は違うけれども小鳥遊さんだった。アイドルグループ『スマイルパルフェ・イチゴ乗せ』のセンター。Miyuri。モニターを眺めてしまった。思わず口角が上がる。

 彼女は、あの日、私に向けてくれたパワーを、日本中に、全世界に向けて放っていた。

 ありがとう。小鳥遊さん。小鳥遊さんのおかげで、ちゃんと、夢、叶えたよ。


「反響、どうですか……?」

「心配いりません……! もうすごいですよ! 第一話からすっごい反響で……! さすが期待の新人、山田羽子先生!」

「ありがとうございます……! 恐縮です……!」


 プレゼント用のサイン色紙を描きに編集部に来た。みんなを元気にするアイドルの話。その主人公のイラストとサインを書いた。サイン、と言ってもあの時書いたような崩さない名前。いつのまにかそれがサインになってしまった。


「そうだ! ファンレター来てるんですよ! 第一号ですね! 本当はまとめて渡すことが多いんですけれども……!」

「本当ですか……! 嬉しいです!」


 担当さんは、早く渡したい、と言わんばかりにファンレターを持ってくる。小さな紙袋に入ったファンレターを受け取る。白い封筒。ちらり、と見えた名前。少しの驚き、そして嬉しさが走った。

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最高のアイドルと私 雨宮ロミ @amemiyaromi27

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