最高のアイドルと私
雨宮ロミ
1
「
入学式が終わった後の自己紹介。教壇の上、高く澄んだ声で、私のいる、教室の隅に届くくらいの大きな声で小鳥遊さんははっきりと宣言した。
その言葉で、教室がざわついた。この高校、大学進学率はそこそこでも、アイドルになった人、はいなかったから。もうみんな、現実的な考えになってしまっている。私もそう。
アイドル、って言う夢を口にする人はクラスの中では小鳥遊さんしかいなかった。
「みんな! 応援してね!」
けれども、そのざわつきを消すように、小鳥遊さんは言い放つ。可愛らしくウィンクをして。小柄な身体にぱっちりとした目。人形のよう、という比喩の似合うその顔でのウィンクは、可愛い、としか言えなかった。
けれども、私は、小鳥遊さんの自己紹介を聞いて、膿のような、汚い気持ちが湧き上がる。
馬鹿じゃないの? アイドル、なんて。この世界にアイドルになりたくてなれない人が何人いると思ってるの? 口先だけで注目を集めたいだけじゃないの?
そんな、嫉妬に似た気持ちがぐつぐつと沸いていた。
その瞬間、大きな拍手が巻き起こった。その言葉はきっと本当になる、と小鳥遊さんの背中を押すように、まるでライブのフィナーレのような大きな拍手が。私も手の平を上にした、気持ちのこもっていない形だけの拍手をした。
そして、私の番。名字が山田、だから五十音順で一番最後だから。教壇の上に立つと、
「
クラス中の視線を感じる。小鳥遊さんも私の方をじっと眺めている。何言うんだろう。みたいに口角を上げて。小鳥遊さんみたいに、夢を言ったらどうなるのだろうか。応援してもらえるのだろうか。本当は、ずっと抱いていた夢があったから。
「夢は……」
喉に貼り付いたものを取り出すようにして、私は、「夢は」と言いかける。夢は、の次に続く言葉を出そうとした瞬間だった。臆病な自分がそれを阻止してしまう。
「ありません。よろしくお願いします」
けれども、それは、出てくることなく、「ありません」という言葉で終わった。早口でよろしくお願いします、を口にして。
小鳥遊さんみたいに、本当の夢なんて、言うことなんて出来ず、全く盛り上がらない自己紹介をして、席に戻った。
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