帰るとき 帰れば

灘乙子

✳︎

 一緒に帰ろうか。

 一緒に帰ろうか。


 お互いが顔を見合わせて、この一言がいつも通りの一言ではないことを、お互いに悟る。


 あかんと思う。

 ああ。あかんのかな。

 不幸になるよ。まず周りが不幸になる。

 そやな。

 泥沼になる。

 泥沼。

 なるよね。

 まあ、なる。かな。

 なるって。一回限りで済むと思う?

 思わへん。

 やろ? だってわたし、ほんまに好きやから。で、田口君も、わたしのことがまだいい加減、好きやから。

 めっちゃ言うやん!

 笑けるよね。

 笑うわ。実際、そうやけど。

 そうやろ、だからあかんねん。

 せやんな。あかんよな。

 すごいよ。田口君ちはホーカイして、わたしは婚約破棄やで。挙式二ヶ月前で。

 すごいな。それは。

 やろ。だから、ほんまにもう一緒に帰ったらあかんわ。今、一緒に出たらあかんと思う。

 かもしれへんな。

 だから、わたし先に出るから、田口君はもうちょっと居て。

 わかった。オッケー。

 じゃあね。またね。

 うん、気をつけて。


 

 駅に着くまでの七分間で、わたしは二度、後ろを振り返る。さようなら。

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