第5話 制服選びは慎重に
短期の仕事で印象に残っているのは、学生服の採寸と販売のアルバイトだ。
それ以前にアパレルの仕事はしたことがあったので、それほど難しくはないだろうと思っていた。
しかし実際には、学生服の販売とアパレルの仕事はかなり内容が異なる。
まず中学であれ高校であれ、学生の制服は3年間使うものだ。
成長期である学生たちの制服は、購入時の体形にぴったり合うように販売すればいいというものではない。
そのため肩幅やウエストなど比較的細かく採寸を行い、採寸情報に一番合うサイズとひとつ上のサイズの試着を行うのだ。
また、それぞれの学校には校則があるので、学生本人が気に入るように調整して、それが校則に違反していればクレームになる。
当然、返品交換になってしまうので、そのあたりも気をつけなければいけない。
特に注意が必要なのが、女性のスカート丈。
学校によってスカート丈の規定は「膝がすべて隠れる長さ」「膝の真ん中までの長さ」「規定なし」などさまざま。
校則をよく読んで、確実に校則をクリアする制服を販売しなければならない。
お腹いっぱい食べたときには、スカート丈が上がって校則違反になってしまう、なんて可能性もあるため、ここは慎重に見る必要がある。
短いスカートを希望する学生には、とにかくにこやかに「皆さんベルトを使って調整しています」と繰り返すしかない。
反対に、男性のズボン丈は校則にはないが、靴を履いた状態で綺麗に見える丈に長さを調整するか、靴を脱いだ状態で、裾が地面につかないように調整するか、意外と判断が分かれる。
その場合、とにかく保護者の方に判断を委ねるのが一番!
ヘタに自分の意見を通したらクレームになる可能性すらある。
そう、制服は長く使うものであり、なかなか高い買い物だ。
とにかく対応は慎重にしなければならない。
そして、もうひとつ気をつけなければいけないことがある。
それは、その学生が本当にその制服を着たかったかどうか、わからないということだ。
私たちは、その学生がどこの学校に入学することになったのかはわかる。
ただ、それがその学生の第一志望の学校なのかはわからないのだ。
つまり、本当に行きたかった学校に合格せず、第二志望以降の学校に行くことになった可能性もある。
私たちはマニュアルで、接客を始める際「このたびはおめでとうございます」から入るのだが、そのときのテンションも決して明るすぎてはいけない。
淡々と、サラッと言うのが一番だと私は思っている。
ちなみに、学生服の販売は短期決戦の仕事だ。
ある時期に一斉にみんな買いに来るため、行列ができる中、並んで待っている学生たちに一人ずつスタッフが付いて案内し、採寸、試着、丈の調整をして販売まで行う。
行列は閉店までほぼ途切れることはないため、休憩時間以外はずっと学生とその保護者に付いて接客をしていることになる。
手が空く時間がないため、忙しい時期は本当に一日があっという間に感じるアルバイトのひとつである。
なかなか独特で面白いアルバイトだが、私が印象に残ったのは実はそこではない。
私が印象に残っているのは、仕事に入る前の研修だ。
研修では、どんな学校の制服を取り扱っているのか、学校によって何を販売しなければいけないのか、それに際してどんな校則があるのかを学ぶ。
私がアルバイトをしたのは百貨店だったため、扱っている制服の数は膨大。すべて覚えることは不可能だったので、ざっくりと全体を把握した。
そして、ある程度理解した後、行うのがロープレだ。
ロープレとは、実際の接客で経験するであろう場面を想定して行うトレーニング。
つまり、このアルバイトでは研修者同士でお互い順番に、制服を買いに来た学生になりきり、採寸してもらい制服を試着する。
これがなかなか恥ずかしい……。
ブレザーならまだいいのだが、セーラー服を着るのはなかなかの抵抗感があった……。
鏡に映るコスプレしているような自分の姿に「私は一体何をやっているんだろう……」と少し思ってしまった。
このロープレはどんな年代の人でもやるので、みんな若干のダメージを受けながら研修を乗り越えていた。
なので、仕事以上に研修の方が印象に残ったアルバイトは、これがぶっちぎりの1位!
以上!
学生服の販売スタッフ体験記!
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