私たちは食べるために働き、働くために食べている
浅野エミイ
私たちは食べるために働き、働くために食べている
朝四時。
今日もいつも通り、家業である仕出し弁当作りが始まろうとしている。夫と息子、そして私は従業員が来る前に食事を済ませてしまおうと朝食をかっこんでいた。
「ごっそーさん!」
一足早く夫が食事を終わらせる。私と息子は昨日の夕飯の残り物をまだ少しだけのんびりと食べていた。
「なぁ、母さん。この仕事やめたらとか考えたことないの? 一応俺という跡継ぎはいるじゃん?」
息子の意外な言葉に私は目を少し開くが、すぐにお味噌汁に集中した。
「まぁ、働くことしか知らない人生だったからね。今更引退も想像がつかないわ」
「母さん、今ネットで追加の弁当の予約が入った。なんか近所で会議があるとか」
「はいはい」
夫も私も相変わらず忙しい。息子は高校卒業後、「どうせ自分が跡を継がないといけないんだろう」と仕事をしてくれているけども……。
「あんたは? 何か別にやりたいことなかったの?」
「……俺たちがメシ作ってるから役所の人ら昼飯食えるんだろ?」
「それもあるけどね。どんなに偉い人だって、きちんと食事できなかったら意味ないもの。でも、あんたはあんたの幸せを探してもいいのよ?」
「俺が偉い奴らにメシを食わせてやってるんだっていう自負がある! 当然タダメシじゃないけどな! ごっそうさん!」
そう言い捨てて、キッチンにご飯茶碗と味噌汁椀を持って行く。息子の言い草に少し笑ってしまった。 さぁ、今日も働かなくては。だけど引退ねぇ……。セカンドライフなんて考えたことはないくらいの多忙だけども、働かなくては食っていけない。そしてもちろん、食べなくては働けない。
私たちは今日も食べるために働き、働くために食べているのだ。
私たちは食べるために働き、働くために食べている 浅野エミイ @e31_asano
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