布団のダンス

数多 玲

本編

「……布団を使ったダンス、ですか?」


 企画の主旨を聞いてクエスチョンマークしか浮かばない。


「そうです。斬新でしょう?」


 これしかないでしょう、という得意げな顔をしているクリエイターだが、正直全く想像がわかない。


「……斬新すぎて全く想像ができm」

「使用する布団はこの『チョカル』でよろしくお願いしますね」

「どんどん話が進みますね」

「この『チョカル』は、羽根布団界隈でが天下無双と言われるほどの肌触りの気持ちよさがたまらないという逸品でして」

「軽さがウリではないんですね」

「この布団に一緒に入ったカップルは必ず結ばれるというすごいジンクスがあるのでも有名で」

「そらそうでしょうよ」

「相手役の女優さんがOKなら結ばれてもいいという許諾も向こうの事務所さんからいただいています」

「それはもはやダンスではないですね」

「OKならばプライベートは任せますという言葉をいただいています」

「プライベートではなくCMの撮影ですよね?」

「むしろ結んじゃってください」

「それはかなりアウトな発言ですね」

「CMは、スカイダイビングバージョンとスキーバージョンと将棋バージョンをひとまず用意しています」

「……布団のCMですよね?」

「それぞれ15秒バージョン、30秒バージョン、60秒バージョンを撮りたいと思っています」

「長めに撮ってそれを編集してそれぞれの長さに合わせるのではないんですね」


 すべてを理解することはできないと思った。何なら、今回のCMについて一部分でも理解することは難しいと思った。たぶんクリエイターの頭の中には完成形のイメージがあるのだろうということで、こちらが理解をしようと努力するよりも相手の要求に忠実に動く方が得策だろうと判断した。

 その後も剣を持ってだのワインを飲みながらダンスするだの布団のCMとして想像する事柄の斜め上の話をされたが、正直すべてを覚えることはできなかった。


 撮影当日、どんな要求でも応えてやろうという決意をもって撮影所に入ったところで、相手役の女優が出演を断っていたことがわかり、撮影は流れた。


「1人になってしまったので、将棋バージョンはなかったことに」


 ちょっと断ったほうがいいかもと思った。

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布団のダンス 数多 玲 @amataro

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