第4話 乗っ取り
2024年11月、株式市場は令和のブラックマンデーの混乱から徐々に回復しつつあった。大暴落から3ヶ月経過し、多くの投資家は、痛みを感じつつも市場の底を確認し、少しずつ安定を取り戻し始めていた。投資家たちはここぞとばかりに株を買い漁り、株価が安定し始めたことを歓迎していた。
しかし穏やかな空気は突如として破られた——
11月10日午前、東京証券取引所
ニュース速報が掲示板や金融ニュースに流れ始めた。中でも驚愕すべき内容が掲げられていた。
『超越者キャピタル、軍事関連四葉重工とHIH、シリコンウエハの世界シェア1位の上越化学工業、先端半導体検査装置を提供するビームテック、銅の採掘権を持つ純友金属鉱山、メガバンク三行の株式の過半数を取得』
この発表は瞬く間に市場に波紋を広げた。特に軍事、半導体、鉱業、金融といった戦略的にも経済的にも重要な分野を一度に押さえた超越者キャピタルの動きに、投資家たちの間に強い興奮と不安が交錯した。
どうやら超越者は『令和のブラックマンデー』の混乱に乗じて大量に株を買い集めていたらしい。空売りで利益を出し、日本の重要な企業の株を買い占めていたのだ。まさに〝企業の乗っ取り〟である。
この恐ろしいニュースは投資家を垣根を越え、投資に興味の無い一般人をも巻き込んでいった。
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「子供部屋おじさん」のタツマは、ベッドに仰向けになり、天井をぼんやりと見つめながら心の中である言葉を繰り返していた。
「俺は悪くない、悪いのは社会。俺は悪くない……」
学校でいじめられたのも、アルバイト先で年下の先輩にこき使われたのも、全部周りのせいだ。俺は自分なりに頑張っていたのに周りが俺を評価してくれない。そんな環境じゃ何をやっても無駄じゃないか。いじめられなければ学校にだって通えた。いじめる奴が悪いんだ。あいつらが死ねば俺は幸せになれたのに!
「なんで悪人のために自分が変わらなきゃいけないんだ?」
心の中で不満が渦巻く。学校が悪かった、職場が悪かった、環境が悪かった、すべての問題は他人にある。
「タツマさん、八つ当たりはいいっすけど、店のモノ壊さないでくださいね。自分でやったんだから弁償お願いしますね」
タツマはその記憶を思い出すたびに、ムカムカした。結局、自分で払えずに親に弁償してもらった。平謝りする親を見ていたら恥ずかしくて仕方なかった。
「俺だって、環境が違えばうまくやれてたはずなんだ。」
社会のせいにすることで、タツマは何も変わらない自分を正当化し続けていた。
「あーあつまんねーな…」
タツマは、画面に映るキラキラした世界の全てが憎らしかった。しかし、目に飛び込んできたのは、そんな退屈な日々に刺激を与えてくれる衝撃的な内容だった。
『超越者キャピタル、軍事関連四葉重工とHIH、シリコンウエハの世界シェア1位の上越化学工業、先端半導体検査装置を提供するビームテック、銅の採掘権を持つ純友金属鉱山、メガバンク3行の株式の株式の過半数を取得』
「超越者キャピタル……?なんだこれ。」
彼はニュースの詳細を読み進めるが、専門的で意味がわからない。しかし、どこかで感じるものがあった。巨大企業が次々と買収されていく。しかも、軍事関連だの半導体だの、世界を支える重要な産業に食い込んでいるらしい。
「なんか凄いことになってるな!」
タツマはテンションが上がる。
SNSではこのニュースの話題で持ちきりだった。
「株の過半数を持ってると会社を支配できちゃうから危険。もうこの企業たちはみんな超越者キャピタルの言いなりだよ」
「シリコンウエハのシェア8割を持つ上越化学工業が無いと世界の半導体は作れない。これだけでも戦争になるレベル」
「軍事企業も買われちゃったんだ。戦争くるー?」
SNSの反応を見て、タツマはさらに元気が出てきた。なんだか、社会が良くない方向に進んでる気がするからだ。
社会が壊れれば「自分の世界ランク」が上がる。タツマはそう考えていた。
「全部ぶっ壊れろ。死ね死ね死ね!みんな死ね!」
嬉しくなってベッドの上で”タツマ流「歓喜の舞」”を踊ってたら汗が出てきた。
「タツマー!静かにしなさーい!」
階段の下から母親に怒られた。
「うるせーばばぁ(小声)」
タツマは精一杯の反撃を企てるが、決して声が聴こえないように静かに反抗した。
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