世界を渡る哲学者

まさか からだ

第1話 言霊の国への旅立ち

 乾いた風が大地を駆け抜ける。遠く、砂漠の彼方に浮かぶのは蜃気楼か、それとも本物の都市なのか。そこは「言霊の国」と呼ばれる不思議な場所。人々の信念が具現化し、言葉に込められた意志が現実を変える世界——それがこの国の理だった。


 旅の哲学者・エリオは、この国に足を踏み入れた。彼は射手座の加護を受けた存在であり、言葉に宿る真理を探求する者だった。


 街の入り口には、壮大な石造りの門がそびえていた。門にはこう刻まれている。


 「汝が語ること、即ち現実となる」


 エリオはゆっくりとその言葉をなぞりながら、微笑んだ。


 「面白い。この国では、思考が形を成すというわけか」


 門をくぐると、街は驚くほど活気に満ちていた。商人たちは大声で商品の価値を語り、それに応じて果物が輝きを増し、布がより上質なものへと変化する。吟遊詩人は愛の詩を歌い、その言葉が宙に浮かぶ光となって人々の心に染み込んでいく。




 そんな中、広場で激しい口論が繰り広げられていた。


 「戦争は必要だ! 強い者こそが正義を示すべきだ!」


 「いや、対話こそが平和を生む! 力ではなく、理解こそが真の正義だ!」


 論争の中心には、一人の若き兵士と学者らしき男がいた。彼らの言葉がぶつかり合うたびに、空には剣と本の幻影が浮かび、互いを打ち砕こうとしていた。


 エリオは足を止め、静かに言葉を紡いだ。


 「正義とは、誰のためにあるものなのか?」


 その声は、まるで矢のように空気を裂き、周囲に響き渡った。その瞬間、剣と本の幻影が砕け散り、広場は静寂に包まれた。


 学者も兵士も、そして周囲の人々も、一様にエリオを見つめていた。


 「……お前は何者だ?」


 兵士が問う。エリオは微笑しながら答えた。


 「私は旅の哲学者。言葉の行方を見届ける者だ」


 そして、エリオの旅が始まる。言葉の力が現実を変えるこの国で、彼は何を見つけ、何を問いかけるのか——。

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