こういう物語、人間に必要だと思う。
- ★★★ Excellent!!!
静かで透明な幸せを詰め込んだような、濁りのない物語。
服飾店で働く主人公があるカフェで出会った、腕の良い焙煎士の青年。彼にはちょっと不思議な秘密があるのですが——その秘密が、日常の中になんとも心地良く混ざり込み、不思議なことなど何一つないかのようにさらさらと描かれます。
二人の間に、やがて穏やかに育っていく感情。時の経過の中で、彼らの日々が温かく細やかに描かれていきます。
雨の匂いと湿度が作品に常に漂い、日々の生活に乾き疲れている読み手の感覚を潤すようです。しっとりと穏やかなこの世界から出たくない。気づけばそんな不思議な感覚に陥っている自分に気づきます。
ごちゃごちゃとした色や雑音を全て遮断して、静かに澄んだ幸せだけを味わっていたいときがある。そんな時に、手許にこういう物語が必要だと——何か強くそんな思いを噛み締める、独特な魅力に満ちた物語です。