第8話:村の決意と影の足音


星の祠から村に戻った俺たちは、長老に全てを報告した。地下で結晶を目覚めさせたこと、カイが再び現れたこと、そして星の民の力が俺たち三人でなければ制御できないこと。長老は目を閉じ、長い沈黙の後に口を開いた。



「そうか……星の民の遺産が再び動き出したか。お前たちに感謝せねばならんな」


「感謝だなんて、長老。私たち、村を守るためにやっただけですから」



ステラが少し照れながら言うと、長老が微笑んだ。



「それでも、大きな責任を背負ってくれた。お前たちがその結晶を手に持つ限り、村の命運はかかっていると言っても過言ではない」


「命運って……そんな大げさな」



俺が呟くと、ミサキが肘で俺をつついた。



「ユウト、もっと真剣に受け止めなよ。私たち、ヒーローになったんだから!」


「ヒーローねえ……ヒーローがこんな疲れてるかよ」



俺が肩をすくめると、ステラとミサキが同時に笑った。長老が咳払いをして話を続けた。



「しかし、カイという者が再び現れたとなると、油断はできん。村人たちにも、この状況を伝えねばならんかもしれん」


「村人に? でも、そんな話、信じてもらえるんですか?」



俺の疑問に、長老が頷いた。



「ツキノハの者なら、星の民の伝説を知っておる。昔から語り継がれてきた話だ。昨夜の霧を見た者も多いから、受け入れる素地はあるじゃろう」


「じゃあ、私たちも協力します。みんなに説明するの手伝うよ」



ステラが意気込むと、長老が目を細めた。



「頼もしいのう。では、夕方に集会を開く。お前たちも来てくれ」


その日の夕方、神社の境内に村人たちが集まった。ざっと50人ほど。子供からお年寄りまで、皆が不安そうな顔で長老の言葉を待っている。俺、ステラ、ミサキは長老の後ろに立ち、緊張で手が汗ばんでいた。
長老が一歩前に出て、静かに話し始めた。



「皆、昨夜の出来事を覚えておるな。あの黒い霧は、星の民の伝説に語られる『影の波』に違いない。そして、ここにいるステラは、星の民の末裔じゃ」



村人たちがざわつき、ステラに視線が集まる。彼女は少し緊張しながらも、頭を下げた。



「私はステラです。星から落ちてきて、ユウトに助けられました。村を守るために、私の力を貸したいんです」


「星から落ちてきただと?」

「本当かよ?」


と声が上がる中、ミサキが前に出て叫んだ。



「本当だよ! 私とユウトとステラで、昨夜の霧を追い払ったんだから! 信じられないなら、星の祠の結晶を見に行けばいいよ!」



ミサキの勢いに、村人たちが少し静かになった。俺も一歩進み出て、言葉を絞り出した。



「俺だって最初は信じられなかった。でも、ステラと一緒に戦って、カイってやつを退けたんだ。村を守るには、みんなの協力が必要だよ」




長老が手を上げ、皆を制した。



「お前たちの言う通りじゃ。影の波が再び来るなら、村全体で立ち向かわねばならん。ステラたちの力を信じ、力を貸してやってくれ」



村人たちは顔を見合わせ、しばらく沈黙が続いた。でも、やがて一人のおじさんが立ち上がり、言った。



「わかった。俺は信じるよ。昨夜の光を見たし、長老の話も昔から聞いてきた。村を守るなら、やるしかないだろ」



その言葉をきっかけに、次々と賛同の声が上がった。「俺も手伝うよ」「子供たちを守りたい」と、村全体が一つになり始めた。俺はホッと息をつき、ステラとミサキを見た。



「よかった……これで少しは安心だ」


「うん、みんなが協力してくれるなら、私たちも頑張れるよ」



ステラが笑うと、クロがピカッと光った。ミサキが肩を叩いてきた。



「ねえ、ユウト。ヒーローっぽくなってきたでしょ?」


「うるさいな。まだ何も終わってないぞ」


その夜、俺たちは俺の家に戻り、作戦を立てることにした。母さんが「何か大変なことになってるみたいね」と言いながら、おにぎりを握ってくれた。ステラが美味しそうに頬張るのを見て、俺は少し和んだ。



「さて、カイが次に何をしてくるかだ。星の祠の結晶を狙ってるのは間違いないよな」



俺が言うと、ステラが頷いた。



「うん。あの力は、影の波を封じるだけじゃなくて、逆に使えば大きな破壊力になる。カイがそれを欲しがってるなら、祠を襲う可能性が高い」


「じゃあ、祠を守るしかないね。でも、どうやって?」



ミサキが聞くと、俺は少し考えて提案した。



「村人に協力を頼んで、見張りを立てるのはどうだ? カイが来てもすぐ気づけるように」


「いい考えだよ。でも、私たちも祠の近くにいた方がいいよね。結晶の力をすぐに使えるように」



ステラの言葉に、俺とミサキが頷いた。



「じゃあ、明日から交代で見張りを始める。長老に相談して、人手を集めよう」


「了解! 私、村の人に声かけてくるよ!」



ミサキが立ち上がると、ステラが本を手に持った。



「私も、もう少し本を読んでみる。星の民の戦い方とか、もっと詳しいヒントがあるかもしれない」


「頼むよ。俺は……とりあえず寝る。疲れた」
「ユウトって、本当に体力ないよね」



ステラとミサキが笑う中、俺はベッドに倒れ込んだ。でも、目を閉じてもカイの声が頭に響いて、なかなか眠れなかった。


翌日から、村は動き出した。長老が村人たちに呼びかけ、若者たちが武器代わりの農具を持って祠の見張りに立った。俺たちは昼間は祠の近くに待機し、夜は村に戻って休むシフトを組んだ。
三日目の夕方、俺とステラが祠の入り口で結晶を見守っていると、ミサキが走ってきた。



「ユウト、ステラ! 変なことが起きてる!」
「変なこと?」


「うん、村の外れで、黒い鳥がたくさん飛んでるの。気持ち悪いくらい群れてて……」


「黒い鳥?」



俺が眉をひそめると、ステラが立ち上がった。



「カイだ。影の波の兆候かもしれない。私、感じるよ。祠に近づいてきてる」


「マジかよ……じゃあ、準備しないと!」



俺が結晶に手を伸ばすと、ステラが俺の手を止めた。



「待って。今使うと、村まで届かないかもしれない。カイがもっと近づくのを待とう」


「でも、それじゃ危なくないか?」

「大丈夫。私たち三人なら、間に合うよ。ミサキ、村に知らせてきて!」


「わかった!」



ミサキが走り去り、俺とステラは祠の入り口で息を潜めた。クロがピカピカ光り、緊張が高まる。
しばらくすると、山の木々がざわめき、黒い鳥の群れが空を覆った。鳥じゃない——霧が鳥の形を取って飛んでいるんだ。



「来た……!」



ステラが結晶を握り、俺も隣に立った。霧の群れが祠に近づき、その中からカイの姿が現れた。



「やっと会えた。結晶を渡せば、村は助けてやる」


「ふざけるな! お前が村を襲ったんだろ!」



俺が叫ぶと、カイが笑った。



「襲った? 違うな。俺はただ、星の民の力を取り戻そうとしてるだけだ。お前たちには関係ない話だろ」


「関係あるよ。村は俺たちの家だ。ステラも仲間だ!」



俺の言葉に、カイの目が細まった。



「仲間か……なら、力ずくで奪うしかないな」



カイが手を振ると、霧の鳥が一斉に襲いかかってきた。ステラが結晶を掲げ、光を放つ。



「ユウト、手を繋いで!」



俺がステラの手を握ると、光が強くなり、霧を押し返した。でも、カイは動じず、さらに霧を濃くした。
「その程度じゃ、俺には勝てん!」
光と霧がぶつかり合い、祠が揺れる。俺たちの力だけじゃ足りない——ミサキが戻ってくるのを待つしかないのか?
その時、遠くから村人たちの声が聞こえた。



「ユウト! ステラ! 負けるな!」



ミサキが先頭に立ち、村人たちが農具を手に駆けつけてきた。長老も杖をついて立っている。



「みんな……!」



ステラが目を潤ませ、俺も胸が熱くなった。



「カイ、お前一人だ。俺たちは村全員で戦うぞ!」



俺が叫ぶと、村人たちが一斉に声を上げた。ステラが結晶を高く掲げ、光が爆発的に広がった。
「うおおお!」
光が霧を貫き、カイを包み込む。彼が膝をつき、初めて苦悶の表情を見せた。



「くそ……これが、人間の力か……!」



カイが霧に紛れ、再び逃げ去った。光が収まり、祠の周囲が静かになった。



「また逃げられた……」


「でも、村を守れたよ。みんなのおかげだ」



ステラが笑うと、村人たちが歓声を上げた。ミサキが俺に抱きついてきた。



「ユウト、すごいよ! ヒーローだよ!」


「離れろよ、恥ずかしいだろ!」



俺が照れながら言うと、皆が笑った。クロがピカピカ光り、まるで勝利を祝ってるみたいだった。
でも、カイの言葉が頭に残っていた。「これが、人間の力か」——あいつ、何か企んでる。次に何が来るのか、俺たちに勝ち目はあるのか。勝利の喜びの中にも、不安が消えなかった。

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