アンデットandアラクネ

永寝 風川

第1話「厄災&英雄」

森深くにある、邪悪なオーラを出している巨大洞窟。そのさらに最奥にある、大きな空間に彼女はいた。

見ただけで、危険と本能でわかってしまうほどの毒々しい紫色の肌に。

宝石のように美しいと感じてしまうほどの、紅色の瞳。

出るところは出て、引っ込むべき所は引っ込んでいる、スタイル抜群の体。

腰まで伸びている、シルク糸のように綺麗な白銀の髪


そして、美しきその上半身に見合わない黒い蜘蛛の胴体。

彼女はアラクネだった。それも、ただのアラクネでは無い。彼女は、毒で死ぬ直前に黒魔法で直前に殺しあった、この巨大蜘蛛と合わさったのだ。

死んだ蜘蛛の胴体に美しき死にかけの女性の体。それがこのアラクネの正体だ。

故に、少女は死と生の境界が曖昧になり、そのせいか。はたまた身を蝕んでいた毒のせいか。

透けているかのような、白い肌は現在の毒々しい紫色に変わり。さらにいわゆるアンデットのようなものにも変異してしまった。


これが彼女、生きていれば、1人でこの世界全ての厄災の化身を倒したと言われていたはずの...彼女、ヒルニャ・グロイミルの姿だった。そんな彼女は健在...


「...暇だわ」


退屈であった。魔法を研究もある程度できたし、暇つぶしと糸を操る練習を兼ねた物は、無駄に広いこの空間の片隅に古い故郷を改善再現したミニュアができる程の領域に達した。

それに洞窟の中だと刺激がない。しかし外に出てしまえば、討伐されてしまうことだろう。


「....マリオネット作ろうにも、素材がないわねぇ...」


この洞窟も完全攻略済みだ。刺激も何も無い退屈な日々が何年も続いている。退屈過ぎて死のうにもこの蜘蛛は自害できないことを知っている。


「はぁ...」


彼女は溜息をつくと、糸を口から吹き出して、繭のように天井に貯めてゆく。充分溜まると、再びミニュアの街並みを作るために、手を怪しく光らせ、繭の1部を切り取り魔力で捏ねて小石サイズの椅子に変える。


(そうねぇ...次は王都の完全再現をしてみましょう。一軒一軒中身も作って、人々も細分まで作りこめば1年は暇つぶしできるかしら)


そうして、先程作った椅子を置いた瞬間。足音が聞こえてくる。


「!?」


最初、彼女は嬉しさを感じた。やっと外に出られる。人間が来る。そんないい方向性、つまりは都合のいいことばかりが脳内に浮かんできた。

しかし次に頭に浮かぶのは現実的な出来事。冒険者だった場合は殺すか逃がすしかない、悪人を殺すことは慣れているが、善意の冒険者だった場合私は殺せるだろうか?

逃がしてしまったら、高ランクの冒険者達がやってくるに違いない。


(ならば、道を塞いで行き止まりにすればいいのでは?)


そんな考えが、脳裏に浮かぶ。幸いにもこの蜘蛛の体は酸素を必要にしない。グロイミルは慌てて土魔法を発動して唯一の通路を塞ごうとしたが...

思いのほか、その人物が感が良かったのか、はたまた足が早い人物だったのか、はたまたその両方だったのかは分からないが。飛び蹴りのような体制で、塞ぐために動かしていた岩ごと蹴り砕きながら侵入してきた。


「ふっ...厄災の化身の1人!今ここ...で...」


その侵入してきた人物はそのアラクネの姿を見て驚愕する。また、アラクネになってしまったグロイミルもその人物をみて驚愕した。


「...ゅ....ゆぅ....ゆぅしゃぁぁぁ....」


グロイミルはその場で泣き崩れ、勇者と言われたその人物は、武器である、白銀に輝く大剣を地面に落とし、あわあわとその場をうろちょろするしか無かった。

しばらくして、お互い落ちつくと話をする。


「えっと...ヒルニャ・グロイミルお姉ちゃん...だよね?」


「う、うん!私よ。ヒルア・ソリアード!!」


産まれた時、勇者の称号である文様が手の甲に浮かび上がり。英雄になる事を運命付られた少年。それが、ヒルア・ソリアードである。

見た目は、肩まで伸ばしている茶色の髪に、一瞬見たものが男性か女性か判別がつかないほどの綺麗な顔立ち。そして1番の特徴が160cmという低身長であろう。

しかしさすが勇者と言うのか、その低身長にもかかわらず。その身長のふた周り大きな勇者の剣である大剣グリアモールを扱い。素手で岩を砕く筋力を持つ。そして、昔から姉としてしたってきたグロイミル直伝の魔法を扱うという、神に愛された存在だ。

そんな彼は現在、魔王の討伐をするため、冒険をしており、ある日この洞窟に住む厄災の化身と言われている大蜘蛛を噂を聞いて、ここまでやってきたらしい。


「えぇと...お姉ちゃん...もしかして..」


「...えぇ、ヒルアが思ってる通りよ。少しドジをしてしまって...この大蜘蛛と繋がることで生きていたの」


「そう、なんだ...」


グロイミルはこの姿になってからようやく数ヶ月に答えを出した考えを口に出す。


「...ねぇ、私をお姉ちゃんを殺してくれないかしら。グリアモールなら、...特に死人や厄災。それに悪の王を殺せるんでしょう?」


「...ダメだ。それはダメだ...好きな人を殺せるわけ...ないだろ?」


「...そう...よね...」


好きな人にあっさりと長年考えてようやく決心したこの答えを否定され、間違えた答えだと自覚する。


「...ねぇ、お姉ちゃん...なら、僕と一緒に冒険してくれないか?」


「ぇ?!」


毒々しい紫色の顔が、バラのように赤く染まっていく。


「...こ、この...見た目...よ...?」


「それでも、来て欲しい。お姉ちゃんの実力は知ってるし、何か言ってくる人がいるのなら僕が何とかする。それに...」


ヒルアの言葉が詰まる。しかし、グロイミルはヒルアが何を言おうとしていたのかが分かる。昔、小さな約束をしたその事だろう。


「...なら、その...約束して...いい...?」


「何?」


「私...離れないように頑張るから、ヒルアも私から離れないように頑張って」


「分かった努力する」


グロイミルはその返事にこくりと頷き、手を握りゆっくりとヒルアに向かって伸ばす。ヒルアも同じようにグロイミルの拳に自分の拳をゆっくり当て、同時につぶやく。

「「契約に誓って」」

これは昔から伝わる、神にこの約束を守ると誓う儀式みたいなもの。

2人はそれを終えるとゆっくりとふふっと笑いった。


しばらくして、空に太陽が登る。それと同時に、洞窟からアラクネと、その背に乗る身よりも大きな大剣を持った勇者が現れた。


これは後につたわる。病の神と英雄による神話の序章にも過ぎない始まりである。

しかし、彼らにとっては。確かに大きな始まりだ。

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アンデットandアラクネ 永寝 風川 @kurabure

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