スーパーエイジング

水城透時

スーパーエイジング

 夜、学校の宿題をしていると、スマホにメッセージが届いた。

 私は稲妻のような速さでスマホを手に取る。決して勉強をサボりたかったわけじゃない。

 だってそうでしょ? こんな夜中に連絡が来るなんて、もしかしたら緊急事態かもしれない!

 ……まあ、友達からは毎日来てるけど。


 メッセージを開くと、送り主はミキだった。

 

 「ねえ、このアプリ使ってみて! 絶対驚くよ!」

 

 送られてきたのは「スーパーエイジング」というアプリのリンク。エイジングって、なんだっけ?

 どうやら無料のアプリらしい。説明はほとんどなく、ただ、スマホを見て驚く白人男性のイラストがあるだけ。

 どんなアプリなんだろう……まあ、いいか。早速インストールして起動してみる。


 カメラへのアクセスを要求されたので許可する。

 すると、いきなり自分の顔が画面に映り、思わずギョッとする。なるほど、スマホのフロントカメラが作動したのか。

 不意打ちのせいか、映った自分の顔が妙にブサイクに見えて、ちょっと泣きたくなった。そんなはずはない。私は、まあ、そこそこ可愛い方のはずだ。

 画面には証明写真の撮影機みたいな顔枠が表示されている。どうやら、ここに顔を合わせればいいらしい。右下には 「エイジング!」 というボタン。表情をキュッと整えて、押してみる。

 

 おおっ! すごい!

 みるみるうちに、カメラに映った自分の顔がシワシワになっていく。あっという間に、すっかりおばあちゃん。

 すごいなあ。きっとAIが頑張ってるんだろう。技術の無駄遣いとは、このことだ。

 そうか、思い出した。「アンチエイジング」は老化に抗うことだから、「エイジング」はつまり老化って意味だ。

 「スーパーエイジング」は、ものすごく歳をとるってことか。

 スクショを撮り、老婆になった自分の顔をミキに送る。

 「おばあちゃんになっちゃった!」 というコメントを添えて。

 そのとき、ふと違和感を覚えた。


 ……ミキって……誰だっけ?


 友達……のはず。いや、違う。知らない。ミキなんて友達、いない。なんで友達だと思ったんだろう。見返しても、過去のやりとりは一切ない。

 頭がぐらつく。心臓の鼓動が速まる。部屋の静けさが急に耳につき、耳鳴りがしそうなほどだ。

 なんだか疲れた。夜更かししすぎたのかもしれない。トイレに行って、今日はもう寝よう。


 立ち上がった瞬間、身体が異様に重く感じられた。熱でもあるのかもしれない。

 ゆっくりとトイレに向かい、用を足す。


 ――頭が痒い。


 ぼんやりと頭を掻く。何気なく手を見ると、指に何本もの髪の毛が絡みついていた。

 ギョッとして、自分の手を見つめる。いきなりこんなに抜けるなんてことがあるだろうか。

 さらに、異様な事実に気づく。


 ……干からびている?


 皮膚はカサカサに乾燥し、皺が深く刻まれている。私の手はこんなだっただろうか?

 ゾクリと背筋が寒くなり、恐る恐る鏡を覗き込む。

 そこは老婆が映っていた。


 目は落ちくぼみ、歯は黄ばんで抜け落ちそうになっている。

 顔を触ると、皮膚はぐにゃりと柔らかく、まるで干からびた果物のようだった。

 私は悲鳴を上げた。しわがれた、自分の声で。

 そのとき、スマホが鳴り、ミキからのメッセージが届いた。


 「ごちそうさま」


 (終)

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