アリシアの檻

タカユキ

第1話プロローグ

私は長い闘病の末亡くなったはずだった。

それなのに、意識がある。


これは一体どういうことなの? 苦しみから抜け出せたと思ったのに。


頭を抱えて、私は瞼を開くことさえ拒絶した。


でも、不思議な事に痛みを感じない。薬の影響だろうか? でも汗はかいていることは、ベッドのシーツが冷たいので気がついた。


やはりここは、病院のベッドなのだろうか?


でも病院特有の消毒液の匂いはしない。改めて匂いを嗅ぐと、自然の木々の匂いがした。


私は恐る恐る目を開けた。すると、月明かりに照らされた窓の向こうに、星々がまるで螺旋階段のように夜空を跳ねるように舞っていた。


ひとつひとつが煌めきながら、静寂に包まれた空間、けれど確かに私を誘っているように見えた。その光景は、幻想的で、見るものを引き込むようだった。


部屋全体は、天井から床まで上質な木材で造られているようだった。長い年月を経て深みを増したその色は、まるで闘病生活を耐え抜いてきた私自身のように、静かに、しかし確かに芯の強さを漂わせていた。


空気が安らぎを与えてくれるように、ひんやりと木の香りを静かに運んでくれる。


まるで森の妖精になったかのようだった。大自然が意志を持ち、そっと息吹きを吹き込んで、私という存在を優しく包み込んでくれる……そんな感覚だった。


闘病生活で初めて感じるような、自然な癒しに胸をそっと撫で下ろした。


脈打つような激痛が頭を締めつける。

視界が歪んだ刹那、誰かの記憶がフラッシュバックするように脳裏を駆け抜けた。


アリシア…14歳の少女の名と記憶。


彼女が住んでいた場所を思い起こす。

目を凝らすと、確かに見覚えがある。そう、この場所だ。


空中都市という、空を駆け、雲と調和する幻想的な場所。

本来なら自然とは相反するはずなのに、この都市のあちこちには…森がまるで息づくように優雅に生い茂っていた。


彼女もまた、私と同じように、長い闘病生活を送っていたようだ。


大変だな、この子も…私は彼女のことを知りたいと思って、記憶を整理してみた。




人間とエルフが協力して、魔王を打ち倒した。けれど残酷な事に、共通の敵を失ったその瞬間から、人間とエルフが互いに争い合い、悲しい結末を迎えた。



アリシアの記憶によれば、この空中都市を作ったのは、エルフの女王。人間をその都市に追放して、エルフは地上を制圧した。


まるで、かつての魔族と同じじゃないか。


しかも、この空中都市はエルフの女王の魔力によって、空中に浮かんでいられる。ということは、彼女が亡くなればこの都市は墜落してしまい、人々はみんな亡くなってしまう。


恐らく、エルフに逆らえないよう対策をしたのだろう。まさにエルフの女王が生殺与奪の権利を握り、人間の神のような存在になっているのだろう。


人間である私は、エルフに畏怖したが…アリシアの母は、エルフだ。そして父は、エルフではなく人間。


アリシアのやりたかった目標が私の心に、悲しみを満たす。親孝行したい…だけど、その目標が達成される事はなく、彼女は亡くなった。


どうやら、人間とエルフのハーフは18歳迎える前に謎の奇病で亡くなってしまうようだ。なんて残酷な事だろう。


両親に看病されていた彼女の記憶が、私の胸を締め付ける。


…お父さん、お母さん。

私を産んだこと、どうか後悔しないでね。

私、2人の子どもに生まれて、本当に良かったんだから。


そう伝えて、アリシアは死を覚悟した。


でもアリシアを救う方法があると、両親が励ましていた記憶がある……それは失敗した。正確には、私が彼女の魂の器になったのだろうか? 分からない。けど、そうとしか思えない。



扉が静かに開く音がした。


差し込んできた光の中に、一つの影が見えた。アリシアの母親だ。けれど私は…彼女を母だと簡単には思えなかった。


「アリシア気がついたのね!」

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