街の灯りを

蓮見藍菜

街の灯りを

「ただいまー」


『おかえり』の声は無い


「疲れた……」


薄暗い部屋で電気をつける

着替えもせず、夕飯のパックを開け、惰性のようにテレビをつける


「……。」


ご飯を食べ、ぼーっとテレビを見ながら明日のことを考える

テレビの向こう側はなんだが楽しそうに見える


「明日……嫌だな……」


ふと現実に戻される


最近仕事に追われている

大きいプロジェクトを投げられて、勝手にリーダーになってしまった

なんだかんだ断れなくて、俺の許容範囲はとっくの昔に越えていた


「手加減ってものを知らねぇのか、あのくそ上司……」


苛立ちと疲労が入り混じる


持ち帰り仕事は禁止されているため、残業が当たり前になった

終電ギリギリの生活が続いている



「全く……」


ふとベランダをから外を見る

俺の家からは沢山の灯りが見える


「前に言われたことがあったなぁ……」


前に……とは言っても、もう10数年前の話だが

親にこんなことを言われたことがあった


「お父さん見て見て!!すっごい高いねぇ!!」


たまに近くの大きい展望台に遊びに行くことがあった

そこからの景色は綺麗で、ただしゃいでいた


「危ないから、はしゃぐなって」

「分かってるよー」


お父さんにこう言われたことがある


「ここから見ると沢山の灯りがあるだろ?」

「うん」

「この世には星の数程、家があって、その1つ1つに家庭があるんだ」

「見えるよ」

「その中に、楽しく普通の暮らしをしてる家庭もあれば、そうではない家庭もあるだろう。だけど、周りを気にする程、余裕はない。だから世間の目を気にしたって無駄なんだ」

「?」

「難しい話をしちゃったな(笑)でも、いつか分かる日が来るさ」


「確かになぁ……」


リアルが充実してるかと言ったら、きっとそうではないと思う

今はただ、家と職場を往復してる状況だ

今の職場はキツいけれど、辞めるという選択は取れない

1人暮らしだから?

いや……そうじゃない。と思う

もっと根深い何かがあるんだろうな


「こんな状況に終わりは来るんだろうか」


ここからの景色はとてもいい景色でもなく

だからと言って悪い訳では無い

ただこの景色が羨ましいと思うだけだ


「……。こっから飛び降りたら……」


何か楽しいことがあれば

こんなことを考えずに済むだろう

衣食住に困ってる訳では無い

ただ日常がつまらないと感じるだけだ


ベランダから下を覗けば

あの時と同じように灯りが付いている


あの灯りの一つひとつの中に、誰かの『ただいま』と『おかえり』が存在しているのだと思った


再び部屋に戻って部屋の電気を消した


「……俺はいつ……」


その後……俺は


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街の灯りを 蓮見藍菜 @hasumiaina

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