第17話:休めない休暇

 異世界にきてから四ヶ月たった。四ヶ月間の内の、一ヶ月は修行に使ったのだが、今日! ようやく、休暇をもらうことだできた!


「今日は一人で休暇を満喫するぞ〜!」

がしかし、娯楽と言っても電子機器などはこの世界にないため、出歩くことしか楽しみが無いことに、俺は気付く。


俺はレティシアさんに貸してもらっている部屋から出て、一階に降りた。一階にはお客様を招くスペースがあり、レティシアさんはそこで若い男性とお話していた。


俺は話しの内容を聞くのは悪いと思い、玄関へと素早く移動しようと思ったのだが、聞こえてしまったのだ。


「先日、レティシア様のお父様に、あのお方のことについてお話を伺いました。裏オークションに出て、神界の王女と戦ったようですね……」


「しかし、あのときは――」


「大丈夫ですよ。我々はこれから、あのお方について詳しく調べますから。隠しておけるのも時間の問題です」


レティシアさんとお話しをしているのは、騎士(?)様だった。


俺は盗み聞きをしていると、後ろから何者かに引っ張られた。そして、その者は俺を、茶室のようなところに放り混んだ。


「お前さんか、グラリスを一人で相手にしたのは……」

「誰ですか、あなたは?」

その者は上品な立ち振舞でお辞儀をした。「私はレティシアの父、レオナルドと申す」


レオナルドさんは、レティシアさんのお父さんだとすぐにわかるほど、改まった顔をしていた。

「俺は蓮、よろしくお願いします」


「早速だが蓮殿、おなたに謝らなければいけないことがあるのだ……」

レオナルドさんは真剣な顔になった。


「すまない! 君があの少女とお話してしるところを聞いてしまったのだ。内容は、天界の王女に出くわしたということ。そしてこのことを王都の騎士に話してしまったのだ。本当に申し訳ない……」


俺は、正直にこう思った。

「なにしてんだ?この人――」あっやべ、と正直に思ったことを口に出してしまった俺に、レオナルドさんは「本当にすまない」と何度も頭を下げる。


「……なんで、俺はいつもこう巻き込まれるかな?」ハァっとため息を付いた俺は言った。


「レオナルドさん……起こってしまったことをないことにはできません。でも隠蔽なら……」

レオナルドさんは首をかしげた。



 俺は茶室を出て、レティシアさんと話している騎士様を呼んだ。

「王都の騎士様、私はあなたが聞き込み調査をいれお探しになっている、あのグラリスをも退散させた男でございます」

「なんと!おなたが例の男、では今すぐ王都に――」

「それは無理です騎士様! なので今すぐこちらの部屋へ来てください」


俺が騎士様を連れ出した部屋は、周りがコンクリートの壁で覆われた物置小屋であった。そして俺は部屋に鍵を掛ける。


「これで出られるまい。お前、俺のことを調べてるんだってな」

「そ、そうですが、な、なにか?」


騎士は明らかに動揺している。俺はこのチャンスを逃すまいと、脅迫するため騎士へと近づく。

そして騎士は後ろへ後ずさる。騎士は頭に兜を被っていたため、表情はわからないが、俺は騎士の耳元で囁いた。


「俺の情報を国王に漏らした場合……わかっているよな?」

俺は騎士の腹に手を当てる。


「っ! お、お前、わ、私になにをした!」

「フッフッフ、とある物を腹に埋めた! 国王様もさぞがっかりすることであろう」……というのは脅しに使った嘘である。


そして、俺は騎士に壁ドンをお見舞いした。

「どうだ! 怖いだろ? 国王様には、絶対俺のことを言うんじゃな――」

次の瞬間、騎士の兜が地面に落ち、長く美しい銀髪が俺の前に現れた。


「……お前、女だったのか!?」

俺は騎士が女だとは知らずに、脅迫しようとしていたのか? 俺は膝から崩れ落ちる。

「……俺はなんてことをしてしまったんだ。情けなくて仕方がない」


その時の騎士はというと、お腹まわりを触られたことや壁ドンされたことに赤面していた。

俺が膝から崩れ落ちた音を聞きつけ、レオナルドさんとレティシアさんが駆けつけてくれた。


もちろん内側から鍵をかけているため、レオナルドさんたちは入れないはずなのだが、強行突破ドアを蹴って入ってきた。

レオナルドさんやレティシアさんはなにか察したようで、呆れて出ていってしまった。


「なんでこうなるんだよー!」





レティシアさんに説教をされ初めて、三時間が経過した。

俺は正座をして、ただひたすら説教を受けていた。


「せっかくの休みなのに……」

レティシアは「なんか言った?」と怒り気味に説教を続けた。


「そもそもね、あなたは騎士さんの性別を確認してから――」

いいとこでアンが扉をあけて入ってきた。


「アンさん! 今、蓮の説教を……」

「蓮はこのあと私と遊ぶ約束があるの、ね? 蓮」


「アン〜!」 立派になったな〜と俺はこの時思った。

だが、その考えは甘かった。


「ん〜! やっと外に出られる。まだ正午だから良いけど……アンはなにしたい?」

「蓮、それよりも…………なんてことを女性にしてしまったの!?」


「え……アンもなの?……ねえ、もういいって、もういいって〜!」

俺の休めない休暇はまだまだ続いた。

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