第26話

戦闘描写が苦手なりに頑張りました。

∗∗∗∗∗∗


地獄に降り立つ2つの影に、その背に控える箱が一つ。

悪寒が走る。

破壊せねばと、本能が囁く。

理由は分からない。

考えられる理性がない。

ただ本能が成すがままに襲い掛かるのみ。

それに対し、男―――伊神は笑う。

そうなるのが予想できたとばかりに笑っていたのだ。


「さぁ、始めようか」


“開錠”


パリン!


ガラスの砕け散る音。

周囲一帯に響き渡り、悪寒が強くなる。


ギィ―――――


錆び付いた音。

箱の上部がゆっくりと開かれて行く。


ガコン!


箱は開かれる。

音が消えた。

嫌な静けさが辺りを漂い、足が止まる。

動けば死ぬ。

理性ではなく本能が囁く。

言い知れぬ恐怖から汗を掻き、体の下へと流れて行く。


ポチャリ


雫の音。

何処から落ちたその音が嫌に響く。


ボコッ


小さな破裂音。

音の発生源はあの箱。

最初は小さな音だったソレは次第に大きく、数が増えて行く。


ボコッボコッボコボコボコボコ―――――!!


煮え立つ音。

箱から沸き出るように溢れるソレの色は黒。

天高く伸び行くソレは次第に柱を成し、固まった。


ゴク


誰とも知れぬ唾を呑む音。

極度の緊張。

今から起こる出来事に恐れを成す。

逃げねば、囁く本能にしかし、彼等は従わない。


“逃げちゃダメ”


“アレは壊さないと”


“生きたいのなら壊さないと”


“アレはとっても悪い物”


“アナタ達を苦しめる悪い物”


“壊さなきゃ、壊さなきゃ”


“生きたいのなら壊さなきゃ”


頭に響く声。

甘く囁く声に破壊衝動が蘇る。

アレは壊さねば、生きるためには壊さねば。

囁く声に従うまま彼等は恐怖を忘れ襲い掛かる。

しかし、無駄なこと。


ドドン!!


柱が裂ける。

黒き血を撒き散らし、雨を降らす。

一瞬視界を奪われる。

次に目を開けば、飛び込むは無数の腕の枝。

木が如き聳え立つソレの枝は動く。

ゆっくりと、しかし、速度を増して行く。


ギィギャ!?


誰の悲鳴か。

疑問はしかし、迫る腕を見て消え去る。

生きぬばと囁く本能。

今度は逆らわない。

形振り構わず背を向け、逃げ出す。

あぁ、しかし……あぁ、しかし………あまりに遅い。


ギャ!?


彼等は捕まる。

黒き腕に捕まってしまう。

逃げ場はない。

逃がしてはくれない。

踠き、逃げようとする彼等に迫る黒き指。

首を断たんと迫るソレに絶叫。

言葉なき声で叫べど、止まることはない。

間近に迫るソレを前に失禁。

ジョロジョロと音を立て、体を濡らす生温さ。


ヒィ!


彼等は人が如き悲鳴を上げる。

直視した死の未来。

しかし、ソレは過ぎ去る。


ゴォオオオォオ―――――!!


視界が塞がれる。

闇に覆われる。

光が入り込まないその場所に泥が流れ込む。


アァ〝アア〝ァアア〝アァアア〝――――――!!


苦痛に悶える音。

体に流れ込むソレに激しい痛みを感じる。


“アガッ!?アァ……ア〝ァアア〝ァアア〝―――!!”


己とは異なる悲鳴。

思い浮かぶは、悶え苦しむ少女の姿。

少女と共に悲鳴を上げ、悶える。

次第に声は溶け合い、どちらの声かも判別はつかず。


“いったい何時終わる”


“何時になったら終わるんだ”


パン!!


音が鳴り、闇が払われる。

光が差し、一瞬の浮遊後、驚く間もなく地面へと墜落。

痛みに悶える彼等はしかし、歓喜に震えていた。


“飢えを感じない”


“やっと解放された”


永遠に続く地獄の終わり。

彼等は喜ぶ。

その光景を眺めるは2人の存在。


「喜んでいるところ悪いけど、時間がないんだ。ごめんね?」

「一撃で終わらせてやる」


巨漢の鬼が構えるは巨大な刀。

横に構え、気合いを入れる。


ドン!


地面が砕け、見えない気が立ち込める。

透明な火が如きその気は次第に刀へと収束。


ブン!


横振り一閃。

白き軌跡を残し、羽音が鳴る。

一瞬の静寂、次いで起こるは衝撃波。


ガガガガガガ―――――!!


地面が捲れ、その先から粉砕されて行く。

その勢いは止まらず、ついには倒れ伏す彼等に届き鳴る響くは轟音。


ドオン!!


襲われた彼等は悲鳴を上げる暇もなく、細切れになり消滅して行く。

砂埃が舞い、落ち切る。

露になった地面は荒れ果て、生存者の気配は存在せず。

完全なる死を迎えた彼等を確認し、伊神は安堵を吐く。


「これでなんとか無事に解決したよ」

「貴様の言う不死も元を断てば意味を成さぬ、か」

「そう言うこと。実際、あっけなく終わっただろう?」


一鬼は自らの手を数度握る。


「あぁ、こうも解決したことは初めてだ」

「逆に1人で解決できた事の方が異常だと思うけどね、僕は」


そう容易い相手ではないと、伊神はよく理解している。

というより、解決できないとさえ言えるのだ。

それを独力でやってのけたと語る一鬼の異常性は彼女の影響を受けたが故か。


「僕は最後に寄る所があるけど、君は先に返る?」

「いや、ここで待つとしよう。調べたいことがある」

「了解。じゃあ、僕は行って来るよ」


一鬼に背を向け、伊神が向かうは一軒家。

あの戦闘に巻き込まれてなお、原形を留めるその家に居る者に伊神は会いに来たのだ。

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