第23話※グロ注意

夢を見た。

あの村の夢だ。

まだ餓鬼に堕ちる前、人であった頃の彼等がそこには居た。

飢饉に襲われ、飢えに苦しみながらも村に残ることを選んだ者達だ。

祖先の築いた村を捨てられず、またこの村以外での生き方を知らない彼等は生きるべく抗う。

赤子に過ぎない俺はただ、母の近くに居て見ているだけだった。

畑を耕した。

たまたま通り掛かった旅人からなけなしの金で買い取った種を埋めるために。

それは暑さに強い種と聞いて買ったと親戚の叔父さんが語っていたのを覚えている。

これで希望が持てると、そう信じて育てられた種は――枯れた。

旅人に騙された訳ではない。

旅人の言う通り日照りの中、種は育った。

だがしかし、日照りの前には幾ら暑さに強くとも意味を成さなかった。

成長する上で必要な栄養が、水が、日照りによって奪われてしまったのだ。

言ってしまえばそれだけ。

だが、彼等にとっては違う。

希望が潰え、払った労力が無に帰したのだ。

ただただ無駄な行為に、ある者は絶望した。自ら命を断ち、またある者は発狂して村を飛び出して行く。

壊滅的だった。

それでも諦めない者達は何とか食糧を、水を得ようと努力する。

だが、大半の者達は生を諦めていた。

先の件が心に酷い傷跡を残したのだ。

何をやっても無駄だ。何もしないで死ぬを受け入れよう。

そう言った声に心を折られ、絶望に伏す者達が増えて行く。

この時点で既に死者は出ていた。

熱中症か、飢え死にか、そのどちらともだったのか。

地面に倒れ伏す死体は太陽の熱に焼かれ肉の焼ける臭いを発する。

普通なら到底食おうとも思わない臭いだ。

だが、彼等にとってそれは極上の餌であったのだろう。

駄目だ、駄目だと思う心に反して、彼等の足は死体に近付く。

近付けば近付く程に強力な臭いを発する死体に彼等は涎を垂らしていた。

彼等は喰らった。

涙を流しながら喰らった。

ごめんな、ごめんなと何度も謝りながらも喰らったのだ。

その姿は幼い俺の記憶に強烈に刻みこまれたのだろう。

その時の光景だけは未だにハッキリと覚えているのだ。

彼等は懺悔した。

己の罪を悔い、許して欲しいと神に赦しを乞う。

異様な光景。

だが、それが日常の彼等にとって特段おかしなものには映らなかった。

もはや狂っていた。

彼等も薄々理解しながらも家族を救うためだ、死を無駄にしないためだと嘯く。

そんな時に現れたのが彼女――病魔であった。

彼等の願いの声に惹かれてやって来たと語る病魔に、皆は懐疑的な視線を向ける。

たかが幼子如きに救えるかと、皆が馬鹿にした。

病魔は笑みを浮かべるばかりで怒る様子を見せない。

不気味だった。

ここまで馬鹿にされて何も言い返さない者など果たして存在するのだろうかと。

ある者が前に出る。彼等の中で比較的若い者だ。

助けてくれるならなんだって良いと叫び、病魔に縋り付く。

救いを求める若者に病魔はくすりを渡した。

何処から出したかも分からないくすりだ。

若者は躊躇した。

得体の知らない液体を飲んで良いものかどうか。

だがしかし、命が助かる為ならとくすりを飲む。

効果は劇的だった。

瞳に生気が戻り、体がみるみる元の健康な肉体へと戻って行く。

異様なその光景に普段なら不気味に思うことだろう。

飲んだだけで果たしてこのような効能が得られるのかと。

だが、彼等はまともではなかった。

目の前に現れた希望に彼等は飛び付く。

助けて欲しいと願うその声に病魔は笑みを深める。

出所不明のくすりを渡された彼等は餌に食らい付くが如く、我先にとくすりを飲んだ。

先の若者同様、本来の肉体を取り戻した彼等は病魔に感謝した。

これで生き残れると、疑って悪かったと。

病魔に助けられた彼等は生存すべく獣を狩った。

僅に残った獣を狩り、獲た食糧を仲間同士で分け合う。

彼等は人らしさを取り戻した。

その切っ掛けになった病魔を神と崇め、敬った。

宗教の誕生。

救わない神を見捨て、救う神を崇める。

きっと俺は、その瞬間を見ていたのだろう。

その見捨てられた神というのが母さんなのは複雑ではあるが、彼等の心情も理解できるだけになんとも言えない複雑な気持ちを抱く。

変化が訪れたのはそれから幾日の時を経たタイミングだ。

最初に変化が訪れたのはあの若者だった。

急に倒れたかと思うと苦しみ始め、骨格が変わって行く。

痛々しい音を響かせながら変化して行く姿に皆は腰を抜かし、呆然と眺めていた。

変化は終わる。

緑色の肌に、2本の角。腹が出っ張ったその姿はまさしく餓鬼。

誰かが悲鳴を上げた。

その声を皮切りにしてそこかしこから悲鳴が上がる。

彼等の逃げる先。そこに居るは病魔。

救いを求められた病魔は笑う。


「助かる為なら少しの副作用は誤差だよね♪」


彼等は声を失う。

理解のできない怪物にでも遭遇した気分なのだろう。

呆気に取られる内、異変はあちらこちらで起きる。

痛ましい音が幾つも鳴り響き、餓鬼へと変じて行く。

逃げた所で無駄だった。

あのくすりを飲んだ時点で手遅れ。

彼等は悲鳴を上げながら餓鬼に堕ち、肥大化した飢えに苦しみながら共食いを始める。

惨たらしいその光景に病魔やくさいは嗤う。


「これで飢えに苦しむことはなくなったね♪」


悪魔。

例えるならまさしくそれ。

確かに、飢えはなくなるのだろう。

互い同士を喰らい合うことで食糧には困らない。

彼等の願いを叶えたとも捉えられる。

だが、それが救いとは決して認めない。

夢の中であるにも関わらず、俺は病魔を睨む。


(俺はいずれお前を―――)


その時、病魔が此方を振り向く。

その顔は笑っていた。

無邪気な笑みではない。とても邪悪な笑みだ。

思わず悲鳴を上げる。

ただの夢、その筈じゃなかったのか。

逃げよとうとする俺に近付いて来る。

ニコニコと愉しげに、邪悪に嗤いながら近付いて来る。

そのあまりの恐怖に俺は―――気絶した。

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