第18話
「のぉ、一鬼よ。妾は今、とても複雑じゃ」
「だろうな。あのような姿を見せられてしまえば複雑にもなろう」
「何故じゃ……何故、妾ではなくそやつに懐くんじゃ!!」
轟く声に思わず目を見開く。
「仕方ないじゃないか。僕はナツキの命の恩人にして、同じ姓を持つ家族だからね。ポッと出の母親なんかより僕の方が良いよね?」
「えっと……」
「抜かせ!ナツキは妾が大好きなのじゃ!お主のような胡散臭い奴が好きなはずがなかろう!そうじゃな、ナツキ?」
俺はなんと答えれば良いのだろうか。
どちらを選んでも嫌な予感しかない。
頼りになりそうな一鬼に目を遣るが、我関せずとばかりに顔を背けられてしまう。
というか、そんな話をしてる場合ではないと思うのだが。
顔を上げる。伊神は笑えを浮かべるばかりで何も答えない。
母さんを見る。さぁ言ってやれとばかりの表情で俺の返答を待っていた。
交互に2人の顔を見遣り、俺は決断する。
「どっちも好きじゃ……駄目か?」
なんともへたれた返答だと思う。
だが、いや、言い訳に聞こえるかも知れないが優劣をつける話ではない筈だ。
これで納得してくれたら良いんだが、無理だよな。
思わず眉根が下がる。見上げる先、2人は何故か目を丸くしていた。
「……確かにそうじゃな。うむ。妾たちが間違っておった」
「はは、そうだね。この程度のことで張り合うとは僕は情けないよ」
「声を荒げてすまぬな、3人とも」
「いや、気にしてないよ。僕こそごめんね。変に張り合ってしまって」
何故か一転してお互いに謝罪し合う2人。
急な展開に呆けてしまう。
事情を知らないかと一鬼を見遣るが、こちらはこちらで何故か感心した様子で頷いていた。
事情を知らぬは俺ばかり。疎外感を感じながら口を開く。
「あぁ~、そろそろ本題に戻っても良いか?」
「そうじゃな。伊神、説明を頼む」
「了解。とは言ってもある程度の事情はさっき説明したけどね」
シンと静まる場。
互いに真剣な面持ちで見合い、次なる言葉を待つ。
「改めて言うよ。このままじゃナツキは餓鬼に堕ちる。それは君たちも嫌だよね?」
俺、母さん、一鬼は同意とばかりに頷く。
思い出したばかりとは言え、彼等のようになりたくはない。
それを解決するためにここに来たと語る伊神の話は続く。
「まずは何をするにしてもナツキの持つ、そのお守りが必要なんだ」
「このお守りが……」
服越しにお守りを握る。
先程も欲しいと言われたが、理由までは聞かされていない。
教えて欲しいと目で催促する。
「僕オリジナルの
「そんな
「それはね、ナツキ。君じゃないといけないんだ。彼女の力を強く浴びた君じゃないと、ね」
「彼女?」
彼女とはいったい誰のことだろうか。
俺の頭を撫でる伊神を見遣るが、その目は一鬼に向けられていた。
「一鬼、あの厄災が関わっているとしたらどうする?」
「まさか……あやつが?」
一鬼の目付きが剣呑となる。
「そのまさかさ。ナヨは既に知っていることだけど、この件の一端には彼女が関わっている。これがどう言う意味か分かるよね?」
「なぜ言わなかった、ナヨ」
「あの時は話せる状況ではなかったのじゃ。あやつらを封じるので妾は精一杯で、気づいた頃にはあやつは消えていたのじゃ……」
「そうか」
場に重苦しい空気が漂う。
会ってから少ししか経ってないとは言え、苦渋を噛み潰したような表情の一鬼を初めて見た。
ただならぬ因縁を感じさせるが、厄災と呼ばれた彼女といったい何があったと言うのか。
ただ1人、事情を知らない俺は置いてけぼりであった。
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