人権費

 《人権費》この中々にトチ狂っている一条が、全国民が行う国民投票にて可決され、そして『国家の憲法』に明記されてしまったのは今から四十年ほど前の、西暦二〇二X年頃である。

 これが国家憲法に明記されたことによって、日本国に住まう全国民に与えられてしまった義務——それは『人を人たらしめる人権』を『維持』したくば国税とは別途の『人権維持費の支払い』を行わなければならないである。

 今から四十年ほど前の、西暦二〇二十年頃の日本国が定める国民三大義務は『勤労・納税・教育』の三つだったが、今現在では『勤労・納税・教育・人権の維持』の四つになってしまっている。今は『国民四大義務』ということだよ。

 四十年前の『日本国』は教科書曰く、超が付くほどの少子高齢化だったのだそうだ。それを解決しようと躍起になった国政によりその数は瞬く間に改善された——がしかし、作られた出生ブームによって逆に人口が増えすぎてしまい、国家の運営が大混乱。そしてその混乱に追い打ちをかけるが如く始まってしまったのは『第三次世界大戦』であった。

 端的に言えば『WW3』ってやつ。経験していない俺はハッキリと言えないけど、それはもう過酷極まったらしい。

 超音速の核が世界中の空を飛び交うは、幾つもの有名な国の名前が変わるやら、経済大国って呼ばれる国が現れて消えてを繰り返すはで、近代史を調べればその『馬鹿みたいなメッチャクチャ』さが分かる。

 かくいう日本国も経済大国破綻の煽りを喰らったことで何度かデフォルトして、国が変わりかけたりもしたそうだ。

 そんな感じで周辺諸国が破壊と再生を繰り返してさ、食料品やらの数多の物々を輸入に頼っていた我が国は大変さ。

 人口増の政策を打ち出したのが大戦前で、大戦中にも数が増え続けた国民の現総数は『十二億人』をさらに更新中。

 そうして国が『増えすぎた国民』を食糧系の物量やら何やらの関係で支えきれなくなって、中流国民も貧困で暴徒化する社会的弱者達に愛想が尽きて……それでできてしまったのが『人権費制度』ってわけ。

 これは非常に合理的で、弱者を人間以下に位置付けることにより、公共・民間の機関による駆除を可能にしたんだ。ペットは動物愛護法で守られているけど堕ちた人間はそれに当てはまらないってことだよ。

 言葉にするなら、そうだな……うん、家の中に出てきたカサカサと気持ちが悪いゴキブリみたいな、道を這っている平気で踏み潰せる蟻みたいな、俺たちがどう殺したってもいい、有機物みたいな感じだな。

 人権を失った弱者連中は一応の抵抗はするけど別に殴っても、道端で好き放題に死ぬまで犯しても、新薬の実験台にしても法で罰せられないし、なんなら、それを面白がってやっている連中が現状では多々だ。

 俺も何度か道端に転がってる人権消失者のおっさんを殴り蹴って、血を吐いたおっさんを見て腹を抱えて笑ったし、ちょっとだけ面のいい女を見つけて連れと一緒に一晩中嬲ったこともある。

 今思うと可哀想なことしちゃったなーって感じだ。無理やり咥えさせた全員がボロボロ泣いてたな、やめてくださいやめてくださいって。 

 人権持ってる連中が誰も味方をしないから、泣く泣くながらも諦めて、全てを受け入れていた連中の助けを乞う顔と言葉、それを思い出した今だと、ちょっとだけ悪政で消失していた良心に響いてくる。

 最近は復興した『昔は栄華だった複数の国家』が、甚だしい悪政である人権費制度を導入した国家を糾弾しているそうだけど、如何せん『WW3』の戦勝国——現状で経済・軍事の両方で超大国である国家全てが人権費制度を導入しちまってるから、その声も非常に弱々しいのが言葉もない現実だ。

 まあ、俺が死んで数年もしない内に人権費制度は終わることだろうし、そう悲観する必要はないだろう。


「さて」  


 塵は塵なりに好き勝手にやらせてもらう。だから起こすか、革命。

 この命を爆ぜて成せば、今まで犯してきた『罪』の数々は償われるだろうから。

 

「…………そうでもないか。ははっ!」

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