短編集 駄作過多

レンタルキャンパー鈴木

 作者が顔出ししまくってる。なのでブラバ推奨。



 レンタルキャンパー鈴木——この短編の主人公は底辺大学を卒業してからも定職につかず、フリーターで甘んじている俺、田渡雄介(たわたゆうすけ)齢二十三歳ではない。まあ、俺が主人公じゃないことは題名で丸わかりなのだが。


「…………ぅぅっくっそ、寒ぃィィ——…………」


 俺がこの話の主人公じゃないとか、そんなこと今は心底どうでもいいと思う。俺はとにかく、雪が降りそうな冬の寒空の下で肉食獣を前にした弱々しい小動物のようにブルブルブルブルブルドックと震えそうになる身体を暖房が効く車内へと捩じ込みたい衝動に駆られている——がしかし、安易に車を出て二分かそこらで戻る選択を取ってしまうと、これから始めようとしている『冬キャン!』を出来るわけがないのだ。

 だから、辛抱だ! このキャンプ場はこの辺じゃ有名! つまり、ピチピチの女子大生が集団でキャンプをしている可能性が微レ存! ハハハハハ! まさにハーレムになり得るこの世の極楽浄土! 


 そんなキャッキャウフフなところに性獣——じゃねえよ、俺みたいなイケメン(ではない)……? 俺みたいなイケメ(ではないぞ)——あ、あれ? 俺はイケ(鏡見ろよ)うえっ!? だ、誰だこのヤロウ! 俺の自画自賛を無理やり改変できる奴なんて、俺の思考直接を塗り替えれる奴なんて、この短編の関係者の中では『たった一人』だけ——ッッッ! 黒炎! お前こそ鏡見ろや! 性なる夜とか巷では言われているクリスマス前に何を書いてんだオメエはよ! 


《お前みたいな奴にはオッサンがお似合いだよ!》


 うるせえうるせえ! テレパシーみたいに俺の脳内に直接語りかけてくるんじゃねえよ気持ち悪いな! あと、マジでやめろよ? 俺がネットで見つけて呼んでる『レンタルキャンパー』のことを勝手に弄ったりするなよ? 分かってんのか? この『冬キャン!』は俺が長年引きずっていた童貞を卒業できるチャンスかもしれねえんだぞ? この鈴木正美(三十歳)って人は間違いなく女性だよな? おい、お前に聞いてんだぞ『冬ボッチ!』の東!!


《つーか、作者が作品に顔出していいん?》


 知るかボケ! お前にキャンプ知識がねえから、こうやって尺稼いんでるじゃねえのじかよ。てか、マジでやめろよ? 三十歳ってあれだよ? めちゃくちゃ性欲が高まるって聞いたよ? 人妻だったらお前、おい最高じゃねえか。


《オッサンだぞ》


 おいおい、ナンセンス! めちゃくちゃナンセンスッ! R18を規約上投稿できないから『書けない』んだって、お前は勝手に決めつけてはいないか? お前ならできるさ。だってそうだろ、お前はキャンプ知識なしで『レンタルキャンパー鈴木』っていう、レンタルキャンパーをしている人妻鈴木さん(独身おじさん)……奥さん(おっさん)オエッ! ……執筆に果敢鋭意全力で臨んでいるじゃないか。


《無理なものは無理だよ。だって、三十代で美女で人妻とか……そんな、投稿サイトの規約が……!》


 諦めんなよっっっ!!

 

《————!? と、突然吠えんじゃねえよ……!》


 諦めんなよ……っっっ! 諦めたらそこで終わりだ!!

 お前が諦めたら、お前はまだ底辺のままだぞ……っ!?

 誰にも読まれない辛さ、誰からも評価されない憂鬱さ! 

 お前は知ってるじゃねえか! だから、諦めんなよ!!


《で、でも規約が…………! ば、バンされるだぞ!?》


 関係ねえよ……俺が許す。俺が三十代長髪巨乳美女人妻とチョメチョメくさえすれば、この短編は伸びるはずだ! あれだよ、少年誌での『お色気担当』的なやつだよ!! なあ、なあ、なあ!? 頼むぜ、東アアアアアアア!!

  

《…………本当に、伸びるのか……? 本当に…………》


 ああ、間違いねえ。チョメチョメは世界最強なんだから。


《…………分かった。少し待っててくれ、すぐに召喚する。この短編の主人公——とあるサイトでチラッと見えたレンタル彼女から着想を得た『レンタルキャンパー鈴木』を!》


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 俺が心の中で陸海空を震わすほどの雄叫びを上げた途端、プツリと作者からのインチキ脳内通信は途切れてしまった。しかし俺は盛大なガッツポーズを白空へと見せつけながら、これからここへ来るであろう人妻のことを勃てながら待つ。 


「あ、どうも、依頼された田渡氏ですか?」 

「————はい! 俺が田渡です!!」


 唐突に背後から掛けられた『正美の一声』に対して、驚愕して飛び跳ねたような心底弾んだ声音で返事をした俺が、振り向くと——そこには、某戦場カメラマンみたいな風貌をした、おっとりとした印象を受ける『オッサン』がいた。


「ど——も、こんに——ちは、私は——レンタルキャンパーをしている——鈴木——と——申し——ます————」


 おいおいおいおい、どういうことだよこれ。あ? どうなってんだよこれは! どこからどう見てもオッサンじゃねえか!! なんでオッサンのことをチンコ勃てながら待ってたんだよ俺は!? 馬鹿なの? 馬鹿じゃんかさあ! うーわ、期待して損した。そりゃそうだ、あんな肝座ってねえ屁っ放りとか信用するに値しねえはな! あぁあ! ウンコウンコウンコ! もう読み物にできねえようにしたるわあ!!


「…………? どう——なさいまし——たか————?」

「うるせえ!! 引っ込んでろよオッサン!! あと、その喋り方やめろし!!」

「了解」

 

 他人には絶対に理解できないであろうことでキレ散らかしている俺からの提言を受けて、オッサンは間伸びした喋り方を修正。まるでなんとかさんのような渋い声で、失礼にも取られかねない提言を端的な口調で了承した。


「ちょ、ちょっとカッコいい——とか思うかあ!! おい、作者アアアアアアアアア!! チョィ出てこいやお前!?」

「作者さん? ソロキャンプを希望されていましたよね?」

「ああ、ちょっと、作者が俺の脳内に現れてて…………」

「作者……? とは一体?」

「え? いやいや、レンタルキャンパー鈴木って、え?」

「……?」

「……?」

「……?」

「え、ま、マジで分かんないスカ? コクのこと」

「ちょっと、存じ上げませんね。さ、そんなことよりもキャンプ場の方へ行きましょうか。身体を冷やしすぎると低体温症になってしまうので、火がないここは危険です」

「え…………あ、はい……」


 クソ、覚えとけよ、黒…………俺は心の中で都合の良い退散をした『クソ野郎』への悪態を吐きながら車に積んでいた道具一式を抱え、駐車場からキャンプ場へと向かった。

 俺を先導するように二歩前を進んでいく、これからキャンプをするというにはえらく軽装備な——まさか野営用のテントとか持ってきてねえんじゃね、コイツ。嫌だよ? 俺と同じテントで寝泊まりするとか、絶対、何も起こらないはずがないんだからさ。だってそうだろ? 

 これ書いてんの『黒炎』だよ? おいおい、マジで勘弁してくれよ——そう思いながら、上着に短パン、ウェストポーチだけの格好をしている『レンキャン!』の逞しい尻を追いかけていく俺は、ゼエコラと体力不足を呪いたくなるくらいには息を切らしてしながらも、布団の中で思いつき、何も考えずに決行してしまった『冬キャン!(ハーレム)』を行うため場所、


『熊出キャンプ場』のネット予約した区画に到着した!


「あ、メリクリです、田渡氏」

「うるせえよ! ああもう、メリクリ!!」

 

 * * *

 

 キャンプ場に入ってからは何もかもが速かった。決して無知蒙昧なコクエンに仮設表現ができなかった訳ではない。決して、決してそんなわけがないのだ。そうじゃない。そうじゃないんだ。だって、だって、この脳内構想を文字化、して早く書いていかないと、誰かに『レンキャン!』の構想を持っていかれるんじゃないかって思って、だからっ!

 おいおい勝手に俺のテリトリーを侵すなよ。独白なら最後の方で書けよな。——ったくよ、鬱陶しいったらねえぜ…………おい、なんか言えよ! 俺が悪者みたいじゃん!


「さ、テントの仮設が終わったことですし、火を起こしましょうか」

「————え、あ、うす」


 渋いオッサンボイスを耳に入れて、極限集中状態の時に突入できる脳内世界から引き戻されてしまった俺は、キャンプでは絶対必須に違いないテントの仮設やらその何もかもを任せっぱなしにしていた、鈴木さんへと視線を向けて、もう作られている折り畳みの窯へと持っていた炭を置いた。


「ライターを使って火を起こせば昼飯が食えますね」

「いえ、ライターは使いませんよ。もっと原始的なものでいきましょう」

「は? え、木を使って起こす的なあれっすか?」

「いやいや、これでカチカチっとですよ」

「それは————!」


 鈴木さんがズボンの内側をチンポジを直すかの如く弄って取り出した物は、なんか見たことある火打ち石であった。


「これ、どうやって使うんすか?」

「もう点けました」

「え?」


 特に何の描写もなく点火されてしまった火。まさに寝耳に水といった風に動揺する俺の耳には火が鳴らす『パチパチ』という乾いた音が聞こえてくる。 それを目の前で赤を散らしている炭を見て認め、俺は漫画とかでよくある『ツゥー』っと、一滴の冷や汗が頬を伝っていく感覚を覚えた。


「スゥー……はぁ。やはり火の燻った時の香りはいいなぁ。……オエエッ、ウッ、オエッ! スゥー……はぁー……」

「え、ちょ、なんで嘔吐いたんスカ」

「ブオエェ……スゥー……ウッボァッ……はぁー……」

「怖い怖い怖い怖い! なになにどうしたんすか!?」

「昼食にしましょうか」

「ええ!?」


 煙を吸って吐き、その度に嘔吐く鈴木氏に俺は動揺を隠せない。

 そんな俺の事などさておき、当の鈴木氏は何事もなかったかのような素面で使用できる区画を離れ、キャンプ場奥の森へと向かっていく。そんな彼の背中を呆然と見ていた俺は、一本の樹木をいかがわしげに吟味している彼を見て、ゾッとした『何か』を心身に覚えてしまっていた。

 そうして、特に何もせずに戻ってきた鈴木氏に、俺は警戒心を露わにしながら何をしに木を見ていたのかを問うた。


「な、何してたすか?」

「いやあ、昼食がないかなと思いまして」

「…………おにぎりでも成ってると思ったんすか……?」

「はははは! 何のご冗談を。虫がいないかなと思っただけです。まあ、冬が祟って何もいなかったのですがね」

「は、へえ……そうなんですかぁ…………」

 

 まさか俺、虫を食わされるかもしれなかったのか? ……ありがとう、黒さん。助けてくれたんだな。


『ガオオオオオオオオオオオオ!!』

「熊だアアアアアアあああああああああ!」

「ええ!?」


 大型肉食獣の咆哮に続き、打ち上げられたのは楽しげな鈴木氏の叫声であった。それに今日一番の驚愕を露わにした俺は、こちらに突進してくる体長二メートルを越している熊を見て、自分が今日死ぬということを悟った。しかし——


「ホォアアアアアアアチャアアア!」


 固まる俺を他所に歴戦のレンタルキャンパー鈴木が走る。オリンピックに出れるのではないかという短距離での爆発的な加速をもって、鈴木氏は瞬く間に大型熊へと肉薄した。そしてこれまたプロボクサー顔負けの右ストレートを撃つ。


『————!? グオオオオ!!』


 その強烈な右拳を、俺と同じく動揺していた熊は顔面にモロに直撃させた。しかし、さすがは全てを食らう肉食獣。たかが人間のパンチなど全く意に返すことなく、鈴木氏が見せている右脇腹の隙へと、全てを裂き殺すであろう鋭すぎる爪牙の餌食にするべくした、絶死の強攻を繰り出した!!


『————ッッ!? ガ、ァアア——…………」


 その熊が繰り出した最期の強攻は、お前に次手はないと伝えるような仁王立ちを見せている鈴木氏に当たる寸で終わってしまう。ピキッと身体を硬直させた熊の左目からの流血、それを認めた俺は悟る。最初の一撃で、たったの『一撃』で、一人と一匹の勝負は決していたということを——


「————スゥー……」


 俺はあらん限りに身開かれてしまっている両の眼で見た。鈴木氏の食欲を満たさんとして現れた熊へと向ける、彼の一点の濁りもなき感謝の念を。


「それじゃあ、こいつをいただきましょう」


「アンタ、キャンパーじゃなくて、サバイバーだろ…………」



 

 終わり

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