第19話 趣味って何かあるかい?
「よぉ徹明日の土曜日映画でも見に行こうぜ、面白いやつがあるんだよ!」
俺と三浦は時々遊ぶ仲でもあるので、こういう誘いは珍しくはない。そして基本的に用事のない俺は三浦の誘いは断る事が無かった。だが、今回は断らなければいけなかった。
「明日か……すまないね、三浦君…明日は少し出かける予定あるんだよ」
「ん?お前が誘い断るなんて珍しいな。どこに行くんだ?」
「長野県の温泉」
「あ~家族と行ってくるのか?なら、ゆっくりしてこいよ!」
三浦はニカっと爽やかな笑みで話した。
「いや、一人だよ。明日は天気もいいみたいだからね、ロードバイクで少し走ってこようと思うんだ」
「そういえば、お前の趣味って水泳と自転車だったよな…トライアスロンでもやる気かよ……」
「苦しい時間が続く競技がなんかこう……気持ちいいんだ」
「なんだ、徹…お前ってドMなのかよ?」
「少しその気があるのかもしれないね」
「なんだよ、気持ちわりぃなぁ……」
三浦は俺から少し離れるようにして、ややオーバーなリアクションで話した。
「酷いなぁ…それで三浦君も一緒にくるかい?」
「いやいや行かねーよ。だって俺ママチャリしか持ってないし、東京から長野まで自転車で行きたくねーよ」
「まぁそれもそうかもね」
「まぁ何もないと思うけど安全運転で気を付けて行けよ」
(三浦君は、時々母親みたいなことを言うな…)
「了解」
****
時刻は土曜日の昼過ぎである、天気も無事に快晴でありサイクリング日和であった。俺はというもの現在長野県の坂道に苦しめられていた。何度も行っているのだが、この激坂は俺の肺を刺激してきているが、ここで足を止めることはしない。やり切った時の爽快感が減ってしまうのだから。
「はぁ……はっ…見えた…頂上…」
人間というのはゴールが見えると足が軽くなるもので、俺は今まで漕いでいた時よりも速く漕いだ。
「ふぅ~~これで頂上だ……それにしても変な場所に温泉作ったよな、あの婆さん……」
俺はこの温泉屋の主である婆さんに、それなりの回数行ってるからか顔を覚えられていた。この温泉屋の幾つかある問題点の中で大きな問題点がある。それは山奥なのに駐車場のスペースが一台分しかないことだ。
(ここの温泉は人が少なくて、ノンビリ出来るってのがウリだから、ある意味いいのかもしれないのか…)
自転車とは少しのスペースに適当に駐輪出来るため、車と違い便利な点の一つである。俺は温泉屋の玄関前の近くにロードバイクを立て掛けた。駐車場には外国車であり有名なスポーツカーであるため、万が一にでも自転車が倒れて車に傷をつけないように少し離れた場所に置いた。
(こんな温泉を金持ちが来るなんてなぁ……よっぽど他の人から見られたくない人が来るってことかな?)
車の持ち主がどういう人物なのかを少し考えながら、俺は温泉屋に入った。時刻は16時であり、今日はノンビリ泊ることにする。幸いな事にこの温泉屋は泊っても安いし、食事も安いので学生の俺でも問題なく泊れるのだ。
「やぁお婆さん、こんにちは」
俺は受付で何かの雑誌と睨めっこしている婆さんに挨拶をした。
「ん…あんたかい…久しぶりだね。冬の間は来ていなかったから、もう来ないのかと思っていたよ」
「冬の間は流石に無理ですよ。知っているでしょう?俺自転車で来ているんですよ」
「まぁそうさね、長野の冬で自転車乗って来るのは厳しいさね」
「そういう事です……じゃ今日はここで泊るので、よろしくです」
「はいよ……珍しいこともあるもんだね。今日はアンタの他にも客が泊るみたいだよ」
「へぇ珍しいですね…失礼ですけど、ここ温泉はいいですが部屋の方は……味があるもので」
「正直に言ってくれて構わないよ。温泉の方はシッカリと整備しているけど、部屋の方は何十年も放置しているからね」
この婆さんの温泉への拘りなのだろうか、それとも客を泊まらしたくないのか。聞いても答えてくれないだろう。
「そうですか、俺以外に泊る人は珍しいですね。あそこの高級車の人ですよね?」
俺は玄関前に停まっている高級車を指さしながら話した。
「そうさね…私の見立てでは医者だね」
「なるほど……まぁ温泉で会ったら挨拶でもしておきますよ」
俺はそう言って受付を後にした。
ここの温泉は珍しいのか男・女風呂以外にも混浴がある。男子風呂と混浴は繋がっているため、俺も行こうと思えば行けるのだが……流石に悪い気がして行かない。
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