第16話 出口君との出会い

宇美は考え込むようにして顎手を当てた。

「……まさか私が彼に話しかけたのを切欠で出口君が私に惚れたとでも?」

バカバカしいと言った風に首を横に振った。

「そうだ、出口君は君に話しかけられて君のことが気になった。そして図書室で日々君を見ていると、その好意は確信へと変わった…」

「……ただ私が話しかけただけで好きなるって変じゃないですか?それなら竹内君達みたいに私とヤりたいだけの方がまだ理解できます」

「その答えは単純明快だ。学校でも孤独な彼の心の支えになったのが君なんだから…彼はよく俺に言ってたよ、『彼女の優しさに救われた』とね…」

「……」

宇美の心が揺らいでいるのが見て取れる。ここで決めなければ彼女が変わることが出来ないだろう。

「彼との出会いは図書室でね、俺が君と話しているのを嫉妬してたみたいで、話しかけずにはいられなかったみたいだな」

「……」

「君と付き合いたかったのだろうね、太った体を改善するためかなりハードにダイエットしてたよ…半年で20kgだから相当キツかったはずだ」

「……そうですか…私のことをそこまで想ってくれている人がいたんですね……。ですが、もう手遅れです。私の身体は穢れている…今まで沢山の人と付き合ってもいないのにエッチしてきました…」


宇美は恐らく心の底では、もう自身に普通の恋愛が出来ないと思っているのだろう。だが、その普通に戻りたいのだろう…彼女の”涙”がその証拠だ。


「何度も言うが出口君は切欠はどうにしろ君の優しさに救われたんだから……そんな君でも受け入れるかどうかは出口が決めることだ。」

「……こんな私を受け入れる人がいるでしょうか…」


やはり俺の言葉では不安は拭えないのだろう、きっとこれ以上は届かないのだ。同じく心に孤独と言う名の寂しさを持っている人でなければ彼女の心の霧を晴らすことが出来ないのだから。


(いやぁ予想通り俺では彼女を説得するのは無理だった。これ以上は少し賭けになるな……門脇さんと付き合っていた事実は知っているだろうが、竹内君達との関係は知らなかったのだから…)


俺のスマホの着信音が鳴った。どうやら”彼”がここに着いたみたいで、後のことは他力本願になるが”彼”に任せよう。それが最善だろうから…。


俺は鍵をかけられた扉をガラガラと音を立てながら開けた。

「いやぁ出口君、こんなところに呼び出してすまないね」

「いやいいんだけど……根津が呼び出すなんて初めてじゃないか。これまでメッセージのやり取りばかりだったのに」


俺が呼び出していたのは、出口君だ。彼の半年前と現在の写真を見せる際にここに来るようにメッセージを送っていたのだ。

改めて見ても出口は痩せた。二重顎であったはずの首も肉が無くなり、ボサボサであった髪も整えられて、半年前と比べて見違えるようであった。


「まぁとりあえず中に入ってよ」


俺は出口を室内に入れるのを促した。出口は室内を見ると宇美がいることに気づいた。

「う、宇美さん……おい根津これはどういう事だ?」

「ん~まぁ人生相談みたいなやつだよ」

俺の口から全て話すわけにはいかない。彼女の口から再び話してもらう必要があるんだ。それでも出口の心が変わらなければ、少なくても彼の好意は本物なのかもしれない。

「人生相談……?」

「そそ、では邪魔者の俺はここら辺で消えるとしますかね…」

「と、徹君!これはどういう事なの?」

「宇美さん…きっと出口君は受け入れてくれるはずだ。話してみるといいよ…」

「で、でも…」


宇美は出口と俺を交互に見ながら困っていた。流石に自分の過去話を吹聴する趣味はないのだろう。


「ここが分岐点だよ…頑張って!」


俺はそう宇美に伝えて、出口の肩をポンポンと叩き激励をした。

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