世界から追放された勇者パーティーの異世界珍道中

あおぞら@『無限再生』9月13日頃発売!

第1章 異世界に追放された

第1話 勇者パーティーは追放されました

 ———勇者パーティー。


 世界で猛威を振るい、世界そのものを創り変えようと画策していた魔王を見事打ち倒した、異世界より召喚された伝説のパーティー。

 誰もがその名を聞けば畏れ、讃え、尊敬する世界最強のパーティー———。



「———が、なんでこんな場所にいんの? 普通は王宮とかでお祭りドンチャン騒ぎ一直線コースじゃないの?」



 薄気味悪い真っ暗な森の中で、そんな愚痴を吐き捨てるのは、その伝説的な勇者パーティーにて『No.4(自称)』を務める山本やまもと志雄しゆう———即ち俺である。

 この際自分で言っちゃうけど、付与・回復・戦闘・家事などありとあらゆる役柄を熟す有能な男=山本志雄だ。是非とも覚えてて欲しい。


 因みにこのパーティーは4人編成であり、俺がNo.4を名乗っている理由は、単純に俺の強さや立場が他の3人より低いからです。


「一体何処の誰に愚痴なんか吐いてるのよ。ていうか志雄も手伝いなさい、今日は仕方ないから野宿するわよ」

「しゆう、ハンバーグ」

「お、良いね、賛成。俺は今日もコック志雄の助手をパッチリ務めるとするよ」

「いやお前ら動揺しなさすぎだろ。何通常運転で火を起こしてるわけ?」


 俺はスンッとした顔で野宿の準備をする3人の姿に思わずツッコむ。

 既にテントも焚き火も準備完了なその手際の良さには脱帽ものだ。脱ぐ帽子ないけど。


 ていうか、君達はこの無視出来ない異常事態になんとも思わないの?

 俺達思いっ切り魔法陣で真っ暗な森の中に転移させられましたけど?


「なら愚痴ったところで現状が変わるの? 予想外の出来事に遭うのはもう慣れっ子でしょ?」


 なんて心を読むどころか俺をド正論でぶん殴ってくるのは、我が勇者パーティーの『No.2(俺が決めた)』である小柳紗奈こやなぎさな

 俺の親友であり、常時ポニーテールのツンデレ美少女だ。

 なお、怒ると拳が飛んでくるから要注意。


「志雄……? 何か私に言えないことを考えていたかしら?」

「ああ、今日のレースが付いた黒のパンツは少々刺激が強———ぶべらっ!?」

 

 気付けば俺の顔に紗奈の拳が突き刺さり、綺麗な放物線を描きながら舞い……そして後頭部から地面に落下した。

 衝撃で頭がぐわんぐわんする。立ちくらみの最終強化版みたいなもんだ。


 簡単に纏めると、立てない。


「あ、アンタね……少しは濁しなさいよ! それにどうして私が履いてるぱ、パン……ショーツの色とか柄まで知ってるの!?」

へんひひはとひひみへまひは転移した時に見えました

「ちゃんと喋りなさい!」


 理不尽な。自分で俺の顔面を陥没させておいてよく言うよ。

 まぁでも、そんな乙女の理不尽にもスマートに対応できるのが、世界が大絶賛する志雄クオリティーです。


 俺は姫様の御所望通り回復魔法でチャチャッとボロボロな顔面治すと、顔を真っ赤にしてスカートを押さえる紗奈を横目に、何事もなかったかのように立ち上が……。


「…………何してんの?」

「ん。しゆうの頬を、つついてる」

「楽しい?」

「火を見る、より、楽しい」


 つまり楽しくはないんだな。

 ただ、男のかったい頬触ってもちっとも楽しくないのは分かる。どうせ触るなら女の子がいい。


 そんな硬くて触り心地の悪い俺の頬をツンツンしまくっているのは、これまた俺の親友にして勇者パーティーの『No.3』である霧口茉白きりぐちましろ

 誰に対しても口数が少なく、常時ナチュラルジト目な超ダウナー系不思議美少女である。

 こいつが俺より立場が上なのがちょっと解せない。


「やらかし度で言えば茉白の方が上なのに」

「ファインプレーも、私が上。ふふんっ」

「マッチポンプって言葉をご存知ない? 君のファインプレーは基本自己完結だからね?」


 自分でやらかして自分で自分のケツを拭く。これをマッチポンプと言わずしてなんと言うのか。


 なんて俺と茉白が揚げ足取りの応酬を繰り広げていると。


「まぁまぁ2人とも落ち着いてよ。折角魔王を倒した特別な日なんだからさ、今日は皆んなで仲良く楽しもう?」

「魔王討伐した記念日に勇者パーティーが森の中で野宿ってなんなん? 馬鹿にしてんの? 伝説の最強舐めてんの?」

「そ、それを俺に言われても……ほら、もう料理に移ろう? 何かしていた方が気も紛れるよ?」


 まるで喚き立てる子供を諭すようにキレ散らかす俺を諌めるのは、3人目の我が親友にして、この勇者パーティーの『No.1』である羽瀬川誠也はせがわせいや

 爽やかな好青年であり、見た目も言動も性格までもが好青年の完璧超人、所謂我が勇者パーティーの看板だ。

 俺が負けないものと言えば、顔面くらい。身長も強さもカリスマ性も負けてんだよね……。


 因みに俺達は全員同学年で同じクラス。なんなら幼稚園からの幼馴染だ。

 勇者パーティーの仲間であり、戦友であり、腐れ縁でもある。


「あーあ、なんのために勇者やってたんだか」

「元の世界に帰るためでしょ」

「違うわい。贅沢三昧の暮らしニート生活を送るためじゃい。報酬はたんまりって聞いてたんだけどなぁ……」

「ん。ニートは、人間じゃない」

「酷すぎない? ニートだって頑張って生きてるんですよ?」

「まぁまぁ落ち着いて。ほら、美味しそうなお肉用意したから」

「「「え、何処から取ってきた???」」」


 

 ———この時は考えもしなかった。


 まさか日本でも召喚された異世界でもない、第3の世界に転移させられていたことなど。

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