第3話 「伝承、そして誕生」

私はこの夢のためのプロジェクトを、《伝承》と名付けた。


これは格好をつけたわけではない。

競馬活動と、私自身の“夢追い”を分けるためだ。

公私をはっきり分けたことで、周囲の反応も変わった。

みんな、応援してくれるようになった。


最初からこうすれば反感を買わなかったのか、いくつになっても、学ぶことはあるものだ。


現在、牧場には『シンザン』直系の種牡馬が二頭いる。

『エゾシンザン』と『ナハシンザン』だ。

そして非ノーザン・非サンデー系の牝馬が十頭。

牝馬はローテーションで交配されている。


昨年に、『エゾシンザン』と牝馬『ホシノスナ』を交配していた。

その結果──双子であることが判明した。


生産界では、一般的に双子ならばどちらかを事前に潰してしまう

だが今回は、大変だが産んでもらうことにした。


理由はふたつ。


一つ、希少な血統だから。増えること自体が嬉しい。

二つ、孫娘・四季の妊娠も双子と判明していたからだ。


一つ目は建前。本音は、二つ目だ。

無関係なはずだが──縁起と、感情移入で、潰せなかった。


『ホシノスナ』には大変な思いをさせてしまう。

だからこそ、万全を期すことにした。


ちょうどその頃、大姪のアリス=ローウェルが牧場に来るという。

兄と、イギリスの馬主女性との間に生まれた娘の、その子──

つまり、孫のような存在だ。


現在はイギリスで騎手見習いをしている金髪の女の子。

正直、兄の血がどこに行ったのかと思うほど、可憐で人懐っこい。

明るく、カラッとした性格。

日本通で、日本語もペラペラ。毎年、日本に遊びに来ている。


彼女の本命は馬と、孫の四季の双子らしいが──。


出産当日。

不測の事態に備えて、スタッフ一同が緊張していた。


だが──拍子抜けするほど、あっさりと産まれた。


順番は、牡、そして牝。

三頭とも、無事。


ただそれだけで、胸がいっぱいになった。


アリス SIDE


私、アリス=ローウェルは今、血縁ある日本の牧場で──

とても貴重な、双子馬の出産に立ち会っている。


最初に産まれたのは、お兄ちゃん。

きれいな栗毛で、毛ヅヤも良くて、とってもハンサム!


続いて産まれた妹ちゃんも、同じくキレイな毛色で、とってもキュート!


初めての双子の出産で、もうね、見るところが多すぎて、目が足りないくらい!


──だけど、私が本当に衝撃を受けたのは、あるワンシーン。


お兄ちゃんが、産まれて間もないその体で、

まだ寝そべる妹ちゃんに、そっと鼻先を寄せたの。


偶然かもしれない。

でも──あの瞬間、思っちゃったんだ。


“この子、妹を気づかってる……?”


もうその時点で、私はこの双子の大ファンになってた!


「名前、つけさせてください!」


気がついたら、温貴さんにそうお願いしてた。


「四季さんの双子が“春陽”と“日向”って聞いたので──

音を合わせて、お兄ちゃんは“彼方”、妹ちゃんは“遥”ってどうかな?」


「アリスちゃんはほんとに日本通だね。 “遥か彼方”なんて

その語彙、どこで覚えたの?」


と、四季さんの旦那さん、薫さんがニヤニヤしながら聞いてくる。


……言えるわけない。アニメと漫画の影響だなんて!ベタ過ぎて恥ずかしい


「学校でですよ」と返しておいた。


温貴さんは、彼方くんを優しくタオルで拭きながら、笑った。


「アリスちゃん、気に入ってるみたいだから──

自分の名前の音も入れてみないかい?」


「彼方に“アリス”で、“カナタリス”。

遥に“アリス”で、“ハルカリス”なんてどうだろう?」


キャーーーーー温貴さん、最高!!!!!!!


好きになった子に、自分の名前が入るなんて……!

魂が震えるよ、もう!!!


私は双子を撫でまわしながら、ただただ健康を願った。


あ──

『ホシノスナ』も、「私も撫でて」って顔してる?


──よしよし、もちろんですとも♡


カナタリス、ハルカリス血統表

https://kakuyomu.jp/users/piro-mipiwo/news/16818622172780399567

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る