第7話 罠
陽一は走り続けた。カフェの周りを確認しながら、息を切らしつつも目の前の男を追いかける。目の前に見失ったはずのその男が、わずかな距離をおいて歩いているのを見つけた瞬間、陽一は全身に冷や汗が流れた。男は明らかに、陽一を避けるように歩いていた。
その後ろ姿に異常な感覚を抱きつつ、陽一は慎重に接近した。男の動きはまるで陽一の存在を意識しているかのようで、陽一の足音が近づくたびに、わずかに速度を上げる。しかし、無理に追い詰めることは避け、静かに距離を縮めていく。
数分後、男が角を曲がると、陽一もその後に続いた。だが、その角を曲がった先に待っていたのは、男だけではなかった。そこには、何人もの男たちが待ち構えていたのだ。
陽一はすぐに察した。これは罠だった。シンカの手先に囲まれたのだ。
男たちの一人が、陽一を指さしながら冷笑を浮かべた。「陽一、君のことはお見通しだ。シンカが君に目をつけていることを知らないとでも思ったか?」
陽一は思わず足を止め、冷静にその男たちを見つめた。心の中で、どのようにして抜け出すかを瞬時に考える。しかし、すぐにそれが不可能であることに気づく。完全に囲まれているのだ。
「お前たちは…シンカの? それとも、他の連中の手先か?」
一人の男が笑いながら答えた。「君の計画を止めるために送り込まれた。シンカに逆らった報いだ。こんなところで終わらせてやる。」
その言葉に、陽一の胸の奥で何かが沸き上がる。怒りと絶望、そして決意が交錯する中、陽一は無意識に手をポケットに入れ、何かを探った。すると、ポケットに手を突っ込んだまま、陽一はふと、さっき加藤が言ったことを思い出す。
「君一人でシンカに立ち向かうのは無謀だ。君が動き出す前に、もっと深く計画を練り直せ。」
その言葉が、今、陽一の心に重く響いていた。加藤の忠告がどれほど正しかったか。彼一人の力では、シンカという巨大な組織に立ち向かうことはできない。だが、すでにこの場に立ってしまった以上、今さら引き下がることはできない。
男たちが陽一に歩み寄る中、陽一は急に視線を変えて、街の中にある高層ビルを見上げた。これが、今の自分にできる唯一の手段だと直感する。シンカが持つ力を打破するには、裏の取引やその繋がりを暴かねばならない。それが、陽一が持っている唯一の武器だ。
「お前らが何をするつもりかは知らないけど…俺は負けない。」
陽一は、その言葉を最後に発し、ポケットからスマートフォンを取り出した。その瞬間、男たちは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷笑に変わった。
「今さら何をするつもりだ、陽一。お前一人じゃ何もできない。」一人が言い放った。
だが、陽一はそのスマートフォンを握りしめ、冷静に言った。「俺は今、もう一つの証拠を手に入れた。シンカだけじゃなく、外部の連中とも繋がりがあることを示す証拠だ。今、これをメディアに流せば、お前ら全員が一瞬で終わる。」
男たちが一瞬、動揺した。その間に、陽一はその場から身を翻す。できるだけ音を立てず、速やかに逃げるために、近くのビルの階段に駆け上がる。上からの視線を使い、周囲の状況を見極めつつ、陽一は逃げ道を確保しようとしていた。
その時、一人が叫んだ。「追え! こいつを捕まえろ!」
陽一はすぐに階段を駆け上がりながら、心の中で冷静に考えた。シンカの追っ手を引き離すためには、今は一刻も無駄にできない。周囲の街並みを上手く利用し、最短の逃げ道を探しながら、一歩一歩着実に逃げる。
だが、逃げる道中、陽一は気づく。自分の周囲に潜んでいた人物たちが、今や完全にシンカの手先であること、そしてその背後にある強大な力に、もう完全に絡み取られているという事実に。
そして、それこそが彼がこれから直面しなければならない最大の戦いであることを、陽一は完全に自覚した。その戦いは、単に復讐のためだけではなく、シンカを根底から崩すための戦いになるだろう。それが、彼にとって唯一の生き残る道であり、最後の選択肢だ。
追っ手の足音が近づく中、陽一は再び決意を固めた。
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