ASMRロールプレイ台本:天下無双のダンスマスターと布団の誘惑
清泪(せいな)
刺激によって感じる心地よい反応
登場人物:
あなた(リスナー):ダンスの稽古を受けている生徒
師匠(CV:落ち着いた大人の男性/女性):天下無双のダンスマスター
---
[SE: 静かな稽古場の雰囲気、遠くで聞こえる音楽]
師匠(穏やかで威厳のある声)
「……来たか。今日も稽古をしよう。お前には天下無双のダンサーになれる素質がある……が、その前に、準備運動はしたか?」
[SE: 軽いストレッチ音、関節が鳴る音]
師匠(くすりと笑って)
「関節が鳴る音、いいな。体が目覚めていくのを感じるか? さて、今日のテーマは……布団だ」
[SE: 不思議な沈黙]
師匠(真剣な口調)
「布団をテーマにしたダンスを考える。いいか、布団とは人を包み、誘うもの……その感触を動きにするのだ」
[SE: 軽やかなステップ音]
師匠(優しくリズムを取る)
「まずは、そっと布団に入るように……軽やかに滑り込むステップ。そう、まるで羽毛が舞うように」
[SE: スローモーションの動作音]
師匠(静かに囁く)
「そして……布団に沈み込む瞬間の安らぎ。それをスローモーションで表現する。柔らかく、溶けるように……」
[SE: 少し速いステップ音]
師匠(少し楽しそうに)
「だが、時には布団は逃げる。朝、布団から抜け出すのは難しい。焦りと葛藤……それを、このステップに込めるんだ!」
[SE: 足音がもつれるような動き]
師匠(クスッと笑って)
「……おっと、転ぶなよ。だが、それもまた布団の魔力だな」
[SE: 柔らかい布の音]
師匠(ふっと優しく)
「最後に、布団に抱かれるようなフィニッシュ……そう、踊ることも、休むことも、どちらも大事。お前はよく頑張った……」
[SE: ふわりとした布団の音、落ち着く雰囲気]
師匠(囁くように)
「今日はここまでだ。さあ、しばし布団の誘惑に身を委ねろ……おやすみ」
---
[SE: 小さく音楽がフェードアウト、穏やかな静寂]
「え? わかんないわかんない。これ、何?」
ひょんな事からお互いASMR動画が好きなことを知った隣の席に座るクラスメイト、
昼休み、昼食終わりの空き時間。
昨日寝落ちして途中までしか聴いてなかったASMR動画を再生して机に伏していた俺の肩を、五十嵐がトントンと叩いて起こされてのことだ。
あまりの意味不明さに半笑いのオレに対して、謎の文章を見せてきた五十嵐は真面目な表情でこちらを見ている。
「何って、ASMR動画の台本だよ。読んだら分かるでしょ?」
わからなかったから何なのかと聞いているのだけど、それを突き返したところで押し問答である。
五十嵐はそういうのを嫌うので、疑問をぶつけ直して自分の意見を見つめ直させるという手法は使えない。
しかしながら、布団の上でダンスを踊るこの台本に癒しなどあるのだろうか?
そもそも
検索して『ASMRとは?』と調べたらそんな回答がヒットした。
ASMRは「Autonomous Sensory Meridian Response」の略で、直訳すると「自律感覚絶頂反応」。
2010年に医療系ITエンジニアだったジェニファー・アレンが、脳が心地よさを覚える現象にASMRという名前を付けました、とのこと。
なんか流行ってるなぁぐらいで見始めたので、そもそもなんぞやと調べてみたら、へぇー、という感想だった。
というわけで、もう一度疑問に思うわけだ。
天下無双のダンサーという謎の職業の人に、布団の上でのダンスを学ぶことに脳が心地よさを覚えるのだろうか?
「ASMR動画好きだし、いつも睡眠のお世話になってるからさ、私もそういう貢献というかしてみたいなって前から思ってて──」
五十嵐の言いたいことはよくわかる。
オレもASMR動画には感謝している。
寝付きの悪くなった日々が気まぐれで検索したASMR動画で解消されたからだ。
睡眠薬漬けまっしぐらかと思ってたからなぁ。
「──とはいえ、今さら単なる耳かき動画なんて溢れかえってるわけじゃん。それじゃあ人の目にもつかないかもしれない」
ASMR動画で耳かきするのなんて、国籍問わず男女問わず溢れかえっているのが現状だ。
なんか番組の企画で芸能人やら声優やらがASMR動画の真似事をするのも、囁き声か耳かきだし、動画サイトでの一本として始めるのもそこら辺だ。
耳かき動画は耳かき動画で、どんなマイクを使うかどんな耳かきを使うか、どの程度のかき具合に仕上げるか、などとても深い動画ではあるのだけど、一本目としてアップするにはその深さまで五十嵐の力量があるかどうかと言われれば無いだろう。
まぁ、でも──
「五十嵐は可愛いんだし、サムネで顔出せばそれで人は観てくれるんじゃないか?」
「そう、人は簡単に観てくれ──え? 何、急に?」
持論を語ろうとして熱くなってきたのか、五十嵐の頬が赤らむ。
いやでも、あれか──
「いきなり顔出しはちょっと恥ずかしいか? だったら顔の下半分出すとか、マスクするとかでもいいんじゃないか? 五十嵐、目もパッチリしてて綺麗だしさ」
「あ、うん、そういうサムネよくあるけど……え、さっきから何?」
何って、ASMR動画について真面目に考えてるんじゃないか。
あ、話を遮ったのを怒ったのかもしれないか。
まだ深く話したりしたこと無かったので、五十嵐の地雷がどこなのかラインがよくわかってないな、オレ。
「ああ、ごめん。耳かき動画では心細いから、ロールプレイに行こうとしてるって話だっけ?」
ロールプレイ、要はシチュエーション動画だ。
耳かきをするにしても、耳かきサロンだったり耳鼻科だったり。
おままごとみたいな『ごっこ遊び』の延長線上であるけれど、『一人芝居』を観てる感覚が楽しい。
ロールプレイは実在する職業のものがよくあるのだけど、その配信者独特の設定のものもあって個性が出やすいと思う。
「あ、うん、そうなんだけどさ──それで台本思いつかなくてchatGPTに書いてもらったのが、コレ」
五十嵐は咳払いしながら、もう一度オレにスマホの画面を向ける。
「どういう質問の仕方したら、こんな回答が返ってくるんだよ」
「んー、なんか独特なのが良いなって考えてたらSNSで何かの企画で小説用のお題が出されててさ。変なお題だなって思ったんだけど、これでASMR作れたら面白いんじゃないかって」
動画デビューのテーマにしてはかなりの博打感が否めないな。
五十嵐って、実はアホな子なのかもしれない。
不思議系であって欲しいけど、普段はクール系女子なんだよなぁ。
「奇抜なの狙いたいのはわかるけどさぁ。うーん、五十嵐って声も可愛いからこの先生役も合ってなさそうだよなぁ」
「え? また、可愛いって……」
「いやだから、その台本でやるならさ、まずセリフ変えていかなきゃダダ滑りしそうじゃない? なんかよくわからん肩書きで威厳のあるオッサンみたいな設定だからさ、そこを可愛いなにかに変えてみるとか? もしくは、お姉さん系に変えてみるとか。五十嵐、声低めに出せたりする?」
「え、あ、うん。お姉さん系キャラ好きだから、真似たりして得意だったりするんだよね……実は」
「え、イイじゃんイイじゃん、聴きたい聴きたい。えー、五十嵐の普段の声もすげぇ可愛いのに、そんな幅あんのヤバいな。それだけでも上手くいくんじゃないか? オレ、めちゃくちゃ聴きたいし、五十嵐のお姉さんボイス」
なるほど、そんな幅持てるなら耳かき動画をあげるより、ロールプレイで五十嵐の声を聞かせた方が再生数は回りそうだ。
「ちょ、そんな大きな声でお姉さんボイスとかやめてよ」
五十嵐の頬が真っ赤に染まっていて、綺麗な黒髪の隙間からチラ見えする耳も同様に赤くなっていた。
あ、ちょっとテンション上げすぎたか、失敗失敗。
「わー、ごめんごめん。声でか過ぎたな」
今さら過ぎるのだけど、少し声のトーンを落として謝る。
五十嵐はじっとこっちを睨んでいる。
どうやら怒らせたようだ、少し瞳がうるんでるようにも見える。
え、泣くほどやらかしたか、オレ。
「ごめんって。オレもそのASMR動画作り、マジ協力するからさ、そんな怒るなって」
「怒ってない!」
「怒ってるヤツの言い方すぎて、逆に可愛いぞ、五十嵐」
「お、怒ってないってば! ホント、何、さっきから!」
セリフがなんかツンデレキャラみたいになってないか。
でも、これ以上は本当に怒りそうなのでやめとこう。
「とにかくさ、オレ、マジで五十嵐のASMR動画手伝うからさ、まずどうしても伝えたいことがあるんだ──」
「え? こ、こんなとこで? き、教室だよ? み、皆いるし」
五十嵐が急に動揺して、妙な緊張感が生まれる。
どうやら皆に聞かれるのは困るらしいので、オレは五十嵐の耳元で囁くことにした。
「『天下無双』『ダンス』『布団』をお題にするのはやめとけ」
「へ? あ……え?」
五十嵐は気の抜けた声を二度漏らしたあと、差し出していたスマホをしまい駆け出すように教室から出ていった。
バタバタと出ていった五十嵐の様子に、教室に残っていた他のクラスメイトの視線がオレに向けられた。
え、オレなんかやっちゃいましたか?
ASMRロールプレイ台本:天下無双のダンスマスターと布団の誘惑 清泪(せいな) @seina35
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