サレ妻、華麗なる逆襲 ~元夫と不倫相手を地獄に突き落とす~
ソコニ
第1話「裏切りの痕跡」
「おかしい。何かがおかしい」
水城凛は、リビングのソファに座ったまま、机の上に置かれた夫の拓也のスマートフォンを見つめていた。画面は消えているが、たった今、凛の目に映った通知の文字が頭から離れない。
『詩織』という名前と、『今日は何時に来る?ホテル、予約した♡』という文面。
拓也は浴室でシャワーを浴びている。その間に鳴ったLINEの通知音。何気なく見た画面に映った言葉が、10年間の結婚生活の亀裂を、いや、もはや断絶を示していた。
「まさか…」
凛は35歳。大手広告代理店でキャリアを積んでいたが、結婚後は夫の希望で専業主婦となった。拓也は38歳、大手IT企業の営業部長として順調に出世街道を歩んでいる。二人の間に子供はいない。「もう少し経済的に余裕ができてから」という拓也の言葉を凛は尊重してきた。
シャワーの音が止まる。凛は慌ててソファから立ち上がり、キッチンへ向かった。お茶を入れる手が震える。
「お風呂あったかった〜」
拓也はTシャツとスウェットパンツ姿で現れ、テーブルに置かれたスマホを手に取った。一瞬、画面を見て表情が硬くなったが、すぐに平静を装った。
「あ、ちょっと会社から連絡が来てる。ちょっと返信するね」
「そう…」
凛は言葉少なに応じた。これが初めての違和感ではなかった。ここ数ヶ月、拓也の帰宅時間は徐々に遅くなり、週末の「緊急の仕事」も増えていた。シャツに付いた香水の匂い、たまに見かける口紅の跡。すべてを見て見ぬふりをしてきた。
「大丈夫?なんか元気ないね」
拓也は心ここにあらずといった様子で言った。
「ちょっと頭が痛くて…」
「そう、早く寝たら?俺はもう少し仕事するから」
会話はそれだけで終わった。拓也はリビングのデスクでノートパソコンを開き、凛は寝室へと向かった。だが、眠りにつくことはできなかった。
翌朝、拓也が出社した後、凛は親友の菅野美咲に電話をした。
「ねぇ、今日、時間ある?話があるの…」
声が震えていた。
「どうしたの?そんな声…すぐ行くわ」
1時間後、美咲はカフェで凛と向かい合っていた。美咲は36歳、凛の大学時代からの友人で、2年前に離婚を経験している。現在はSNSマーケティングの会社を経営していた。
「詩織って、誰か知ってる?」
凛は拓也の会社の人間関係について尋ねた。美咲は首を横に振った。
「詳しくは知らないけど…あー、待って。この前のパーティーで、若い女の子が拓也さんにべったりくっついてなかった?」
美咲がスマホを操作し、先月の拓也の会社の創立記念パーティーの写真を見せた。そこには、拓也の隣で笑顔を浮かべる、きらびやかなドレスを着た若い女性の姿があった。
「この子…」
「確か新入社員って言ってたわ。かわいいって、みんな言ってた」
凛の胸に鈍い痛みが走った。
「美咲、どうしたらいいと思う?」
「まずは証拠を集めるべきよ。私の離婚の時に使った探偵を紹介するわ。でも…本当に知りたい?知ったら、もう後戻りできないわよ」
凛は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「知りたい。もし本当なら…許さない」
その言葉には、美咲も驚くほどの冷たさが含まれていた。
***
探偵からの報告書が届いたのは、依頼から2週間後のことだった。
封筒を開ける手が震える。中には、写真と詳細な行動記録が含まれていた。
拓也と若い女性―桜井詩織、25歳、拓也の部下―が高級ホテルに入る姿。レストランでの親密な食事。手をつなぎ、キスをする二人。
証拠は明白だった。
凛は涙を流しながらも、冷静に状況を分析した。報告書によれば、この関係は半年以上続いているらしい。詩織は拓也の会社で急速に出世し、最近では重要なプロジェクトを任されるようになっていた。
「10年…10年間、私が捨ててきたものは何だったの…」
凛は広告業界で頭角を現し始めていた時期に、拓也との結婚を選んだ。彼の仕事を支えるため、自分のキャリアを諦めた。子供がいないことで、すべてのエネルギーを夫婦関係に注いできたはずだった。
電話が鳴った。美咲からだった。
「どうだった…?」
「本当だった…」
凛の声は冷たく静かだった。
「今どうする気?」
「証拠を突きつけるわ。今夜」
***
拓也が帰宅したのは午後11時過ぎだった。
「ただいま〜、あれ?まだ起きてたの?」
リビングのテーブルに座っている凛を見て、拓也は少し驚いた様子だった。
「座って」
凛の声は感情を排した、ビジネスライクなものだった。拓也は困惑しながらもソファに腰を下ろした。
「これ、説明して」
探偵からの報告書と写真を拓也の前に置いた。拓也の顔から血の気が引いた。
「これは…」
「嘘はいいわ。桜井詩織さんでしょう?25歳。あなたの部下で、愛人」
拓也は言葉に詰まり、そして数秒の沈黙の後、肩を落とした。
「悪かった。でも、もう終わらせるつもりだったんだ」
「嘘つき」
凛は冷たく言い放った。
「詩織とは…本気なんだ。離婚してほしい」
その言葉が、凛の中の何かを完全に壊した。
「10年。私が何を犠牲にしてきたか、わかってる?」
「わかってる。だけど…詩織は若くて、活力があって…」
「若さ?それだけ?」
「違う。彼女は俺の仕事を理解してくれるし、同じ方向を見ている。君とは…もう価値観が合わないんだ」
「私があなたのキャリアのために自分の仕事を諦めたことは?」
「それは感謝してる。でも…人は変わるんだ」
拓也の言葉は、すでに準備されたもののように聞こえた。
「じゃあ、詩織さんとやり直したいんですね?」
「彼女と結婚したい。すまない」
その言葉に、凛は静かに立ち上がった。
「わかったわ。弁護士を通して連絡するわ。明日までに出ていって」
「え?でも、この家は…」
「私の名義よ。忘れたの?あなたの信用が低かったから、私の名義にしたの。出ていって」
拓也は驚愕の表情を浮かべた。彼はマンションの名義が凛になっていることをすっかり忘れていたようだった。
「荷物は明日までに取りに来て。それ以降は、すべて処分するわ」
「り、凛…落ち着いて…」
「十分落ち着いてるわ。出ていって」
拓也は反論の言葉を探しながらも、凛の氷のような表情に言葉を失った。彼は数着の服と必要最低限の物だけを持って、深夜、マンションを後にした。
***
「出ていったわ」
翌日、美咲に電話する凛の声は、驚くほど冷静だった。
「大丈夫?」
「ええ、いつも以上に冷静よ」
「泣いた?」
「一滴も出なかった。ただ、怒りと…何か、冷たいものが広がっていくの」
「凛…」
「美咲、あなたが離婚した時、どんな気持ちだった?」
美咲は少し沈黙した後、答えた。
「最初は絶望。でも、次第に解放感。そして…復讐心」
「復讐…したの?」
「いいえ。でも考えた。毎日、毎晩」
凛は窓の外を見ながら言った。
「私は違うわ。絶対に復讐する」
「凛…」
「拓也と詩織を地獄に落とすわ。二人が10倍、100倍の痛みを味わうまで、絶対に許さない」
「どうするつもり?」
「まだ分からない。でも必ずやり遂げる」
美咲は友人の声の調子に、恐怖すら感じた。いつもの優しく穏やかな凛は、もういなかった。その代わりにいたのは、冷徹な復讐者だった。
「力になるわ」
美咲は決意を固めた。自分も似たような境遇を経験したからこそ、凛の気持ちが痛いほど分かった。
「ありがとう。でも、これは私一人の戦いよ」
「バカね。一人じゃ勝てないわ。私のSNSの知識と人脈を使いましょう。拓也さんと詩織さんがどれだけのことをしてきたか、世界中に知らしめてやるわ」
凛は初めて、小さく笑った。
「SNS…確かに、現代の最強の武器ね」
「ええ。まずは、優秀な弁護士を紹介するわ。離婚で少しでも有利な条件を引き出すのよ」
「それから?」
「それから、本当の戦いの始まりよ」
***
最初の一週間、凛は悲しみと怒りの間を行き来した。家の中の拓也の痕跡をすべて片付け、写真は燃やし、贈り物は処分した。しかし、10年の記憶は簡単には消えなかった。
美咲の紹介で黒川弁護士と面会した凛は、離婚に向けての戦略を練った。
「水城様、証拠は十分です。不倫の慰謝料も請求できますし、財産分与も有利に進められるでしょう」
「お金は二の次です。私が欲しいのは…」
「復讐、ですか?」
凛は黒川弁護士の鋭い洞察力に驚いた。
「そう見えますか?」
「多くの離婚案件を扱ってきました。あなたの目は…決意に満ちています」
「弁護士としての義務に反しませんか?」
「私の義務はクライアントの利益を最大化することです。それが法の範囲内であれば、問題ありません」
黒川弁護士は薄く笑った。
「拓也の会社の株はお持ちですか?」
「ええ、結婚祝いに拓也の両親からもらった100株ほど」
「それを手放さないでください。これから重要になります」
凛は弁護士の言葉の意味を理解し、小さく頷いた。
***
2週間後、拓也との初めての顔合わせは弁護士事務所で行われた。拓也も弁護士を連れてきていた。
「凛、元気だった?」
拓也の軽い調子の挨拶に、凛は冷たい視線を向けただけだった。
「早く済ませましょう」
「そうだね。俺たちの場合、子供もいないし、話し合いで解決できると思うんだ」
黒川弁護士が書類を取り出した。
「水城様、まずは財産分与についてですが」
拓也の弁護士が口を挟んだ。
「我々の依頼者は、婚姻期間中の収入のほとんどを稼いできました。奥様は専業主婦で収入はなく、家計への貢献度は低いと考えています」
凛は眉をひそめた。拓也は少し申し訳なさそうな表情をしたが、弁護士の言葉に反論はしなかった。
「そうですか」黒川弁護士が静かに言った。「では、これをご覧ください」
黒川弁護士はタブレットを取り出し、スライドショーを始めた。
「これは水城拓也様が昇進する際の祝賀会。奥様が全て企画されました」
「これは水城様の重要なプレゼンテーションの前夜、奥様が徹夜で資料作成を手伝われた際のメール記録」
「これは水城様の部下との飲み会で、奥様が料理を振る舞われた時の写真。多くの部下が奥様の支えがあったからこそ、水城様の下で働きやすかったと証言しています」
スライドは次々と変わり、拓也の仕事に対する凛の貢献を示す証拠が並んだ。拓也は言葉を失い、彼の弁護士は困惑した表情を浮かべた。
「さらに、水城様の昇進の多くは、奥様の人脈と情報によるものです。奥様の元同僚や友人からの情報が、水城様の営業成績に直結していたことを示す証拠もあります」
最後に、黒川弁護士は決定打を放った。
「そして、婚姻期間中の住宅ローンは、実質的に奥様の父親からの援助で支払われていました。水城様の給与だけでは、現在の生活レベルは維持できなかったでしょう」
拓也の顔が青ざめた。彼は凛の父親からの経済的援助を隠していたのだ。
「そのようなことは…」拓也の弁護士が弱々しく反論しようとした。
「すべて証拠があります」黒川弁護士は冷静に言った。「さらに、不倫の証拠も含めれば、裁判になった場合、水城様にとって非常に不利になるでしょう」
沈黙が部屋を支配した。
「どうする?」黒川弁護士が拓也側に尋ねた。「裁判になれば、これらすべてが公になります。水城様のお勤め先にも影響があるかもしれません」
拓也はパニックに陥ったように見えた。彼は凛を見た。かつての妻の目には、冷酷な満足感が浮かんでいた。
「わかった…条件を飲もう」
こうして、凛は有利な財産分与と、相当額の慰謝料を獲得することになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった。
***
その夜、凛はバスタブに浸かりながら、拓也の顔を思い出していた。驚き、恐怖、そして敗北感。でも、これでは足りない。まだ始まったばかり。
美咲からの電話が鳴った。
「うまくいった?」
「ええ、予想以上に」
「次は?」
凛はゆっくりと言った。
「私を一人の女として殺した男と、その女。二人を社会的に抹殺するわ」
「本気ね」
「明日から始める。私の変身を」
美咲は電話の向こうで微笑んだ。
「明日9時に迎えに行くわ。まずは外見から変えましょう」
凛はバスタブから立ち上がり、曇った鏡を見た。そこには、泣きはらした目と、疲れた表情の女性が映っていた。
「さようなら、哀れな水城凛。明日から、私は新しい自分になる」
鏡に手を伸ばし、曇りを拭った。鏡に映った目は、冷たく、決意に満ちていた。
復讐の幕が上がった。
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