全てのことに、成り立ちと理があるなら
それを破ることは即ち悪
彼女の中では祖母から授かったすき焼きという「儀式」が
特別な意味を持って彼女自身を形作っている。
全ての段取り、全ての所作を寸分狂いなく行使することにより
その工芸品とも云うべきすき焼きは完成する
しかし、その聖域が破られたのはほんの偶然、運命のいたずら
彼女のアイデンティティはその瞬間崩壊したであろう
他人が見てどうか、ではない
彼女にとってのそれは唯一無二のものであった
それがたった一つの綻びによって解体されてしまった
しかし、同時に聖域(それ)は彼女を一つ所に縛るものでもあったであろう。
彼女にとっては受け入れがたい事実
しかし、そこに降って湧いた別の縁が
彼女という存在を再構築せしめる
宗教の中での仏教とは自己変容型とも呼ばれる、
自分を律し鍛え新たな自分へと生まれ変わらせていくものである
現世ではそれを修行と呼んだりしている
折しも彼女の辿った道は、
仏教における、解体と再構築であると私には思えてならない
この作者様の作品は、
いずれも何処かにその要素が忍ばせてあるような気がする
美味しい物語、読む者にとってはただそれだけでいい
しかし、自分を縛り守る理(ことわり)を感じている者がいるなら
この物語は特別な意味を持って語りかけてくれるだろう