マリとマリン 2in1 ダンス!,ダンス!、ダンス!

@tumarun

第1話 シャッフルダンス

 軽快なBGMが流れている。目の前の55インチスクリーンの奥から青いマークが足元に滑ってきた。茉琳は光るLEDステージをトンと右足でタップする。すると、踏むにまかせてパネルの上で七色の光が飛び散る。


parfect!


 バリトンボイスが茉琳を褒める。今度は赤いマークがやってきた。茉琳は躊躇なくタップした。そして、踏むに任せてパネルに七色の光の波紋が広がる。


 parfect!


 画面にも、茉琳を煽てていく文字が踊る。茉琳の意気も上がっていく。茉琳の前のスクリーンから,次々と2色のマークが滑り落ちてくる。


「はい、はい、はい、はい」


 茉琳は軽快なステップでマークを踏んでいく。スクリーンのカウンターが、どんどん上がってきた。


「はい、はい、はい、はいなりぃ!」


 茉琳はBGMに合わせて手を振り出した。


「ひっ、ひっ、ひっ、ひぃ」


 向かってくるマークのスピードが変わる。


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」


 しかし、茉琳はそれに合わせてステージのフットパネルでスライドするマークをタップしつつ、後ろ利き足を前に上げて下げる。軸足を上げて下げるを繰り返し体は進んでいないのに、まるで走って見えるランニングマンステップ。


「へい、へい、へい、へいなしぃ」


 足の指先を左右にフリフリ、ぐりぐり動かしスライドするTステップ。


「ほい、ほい、ほい、ほいなりよ」


 手を指先を鳴らすように上下にスナップ。利き足を前にキック、膝を曲げて踵を引く。軸足を外側に向けてジャンプ。それを左右交互に繰り返すスポンジボブ。


「楽しい! 翔、楽しいなりよ!!」

「茉琳、ダンスが上手いねえ」


 大型モニターの前で踊る茉琳に、翔は感心して声を掛ける。


「ありがとなり、高校の授業で創作ダンスやってるなしから、これくらい、お茶の子さいさいなりよ」


 茉琳は、スクリーンから目を離さず、フットパネルの上で足元のマークをタップし、スライドさせたりジャンプをして、ダンスゲームを楽しんでいた。



 大学の講義が終わり、茉琳は翔を連れ立ってショッピングセンターにやってきた。その一角にゲーム会社が直営するアーケードゲーム専門のブースがあり、2人は、そこに遊びに来たのである。


「ネットで楽しく踊っているのを見たなし、ウチもやってみたかったなりよ」


 昼間にインスタントくじを買った茉琳は見事に当選を引き当てた。軍資金を得た彼女は翔をゲームセンターへ誘う。


「一度、ゲームセンターに行ってみたかったなし。付いてきてくれてありがとうえ」

「まさか、本当に来たことなかったの」

「うん。ウチ、これでも箱入りのお嬢様なり。巷の遊戯なんぞ行かせてくれなかったえ」

「信じられん」

「そうやろ………、あれ翔? どっちが信じられんって言ってるなし?」

「どっちも。茉琳がお嬢様っていうのも、ゲームセンターに行ったことないっいうのも」

「ひどいなりぃ! ウチ,小さい時から習い事をギョーさんやらされて、遊びにいく暇なんか無かったえ。学校だって寮住まいやし。外に出られやせんわ」


茉琳は目をウルウルと潤ませて翔に訴えた。


「お嬢様も大変なんだね」

「そうなんよ。グスン、わかってぇーな」

「分かったよ。そんなに楽しみにしていたんだ。邪魔なんてしないから思う存分,楽しみなよ」

「おぅきにな、翔」


 茉琳は瞼に滲んだ涙を拭いながら、表情を和ませる。


「ほな、行こか」


 そして翔の手を取り、ブースへと入って行った。そこにはLED照明が中を照らし出すクレーンゲーム機が茉琳達の行方を遮るように幾重にも並んでいた。中にはプライズと呼ばれる景品が入っている。


 ゴマあざらしを模した人形や、


「この、ゴマちゃん、可愛いなり」


 白熊や犬や猫などアニマルをデェフォルメしたぬいぐるみや、


「これ,熊なりか、白熊なしね。猫のニシャとしたのも良いなり。この犬、大きいなし,どうやって取るえ。謎なり。ナマケモノまであるなり」


 玩具メーカーのキャラクター人形や、


「ウチ、この人形持ってるなし,小さい時に、買うてもらろたわ」


 パステルカラーの魔法使いや魔女っ子のデフォルメキャラを、


「この娘達も可愛いなしな。色がなかなか奇抜なり。今ドキってこうなんか?」


 ゲームや、アニメの女の子キャラが扇情的ポーズをして箱詰めされ積まれていたり、

「お菓子まであるきに、なんでこげなもんまであるなしかぁ」


 低価格で多種な味がついているスティク菓子が山積みされてもいたりする。その隣のクレーンゲームの中を覗き込んで茉琳は首を捻る。


「翔⁉︎ 、これ何やと思う。布団なし。布団まであるなしよ。誰が取るんやね」


 ミニふとんクッションや、それこそ、そのまま使える大きさの枕まで陳列されていた。


「人,それぞれだしね。これって言う人もいるよ」

「うちも欲しいなし………、あっ!」


 考える仕草をした茉琳の目に人気テレビゲームのキャラが入った。


「ハムちゃんなり、翔! ウチ、これ欲しいえ。取ってなし。お願いえ」


 茉琳はガラスに被り付き、翔に懇願する始末。


「後にしようよ。まだ,クレーンゲームは、まだ、あるんだし全部、見てからでも遅くないよ」

「でもお。無くなったらどうするなし?」

「山積みされてるよ。大丈夫だって。さあ、奥を見てくよ」

「う〜、ハムちゃ〜ん」


 ガラスに張り付く茉琳を引っぺがし、翔はブースの奥へと彼女を引きずって行った。奥に進むとプリントシール機の大きな筐体が並び、入り口のカーテンの下から撮影をしている子達の足が覗き見える。

 更に奥に進んでいくとアーケードゲーム機も並んで幾人かがプレイをしていた。崩れた胴着をきた男が相撲の力士と殴り合い。青いチャイナ服を基調にした戦闘服を着た女性が軍服を着た男に連続した蹴りを入れている。その中のゲーム機の前に翔は立ち止まり、覗き込んだ。


「『天下無双』? これって少し前に台湾で人気が出たんだけど、日本には上陸できなかったゲームじゃなかったっけ」

「ん? 翔、どうかしたなし。なんかあったなりか」


 茉琳が何事かと翔を覗き込んだ。


「いや,何ね。ちょっと気になったゲーム機があったんだ」

「プレイしてみるなしか?」

「いいよ。俺は。まずは茉琳が遊びたいっていうゲーム機のところに行こう」

「本当にいいの? ウチは後でも良いなりよ」

「茉琳が楽しみにしていたんだろう。譲ってくれなくてもいいよ。気持ちだけ受け取っておくよ。そっちに行こ」

「ありがとね。翔」


 お礼とばかりにウインクを返す茉琳だったりする。眩い笑顔に顔を赤らめながらも翔は,更にブースの奥へと茉琳を連れ立って行った。

 その先に、


「あった! あったなし。翔、これなり。ネットで見たの、これえっ」


 茉琳がそう言って指差す先には,LEDが煌びやかに光るフットパネルが置かれている、55インチの大型モニターを持つシュミレーションダンスゲーム機が置かれていた。


「はいな、はいな、はいな」


 茉琳は斜め前に利き足を一歩踏み出し、その踵に軸足を引いて揃える。


「ワンツースリー、ワンツースリー、横,後ろ、揃える、横,後ろ、揃える」


 手を振って右に踏み出し、左に踏み出し、バドブレステップ、


「ほい、ほい、はいな、ほい、ほい、はいな」


 茉琳は踵を左右に開いて閉じてを繰り返し片足の踵を振り上げる。


「開いて,閉じて上げる。開いて,閉じて,上げる」


 リズムに合わせて閉じた肘を上下させてのチャールストンステップ、

 その華麗なステップに合わせてステージのLEDフットパネルも七色の光を瞬かせ、波紋を広げて、茉琳の高揚感を煽って行った。


finish


 やがてスクリーンに終わりの文字が現れてゲームが終了した。画面のスコアもかなりの得点が叩き出されている。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ」


 額から汗が流れ落ちる茉琳の息は上がる。しかし、口元には、やりきったという微笑みが。


   パチパチパチパチ


 翔は、茉琳のダンスに拍手で賛辞を贈る。


「茉琳,凄いや。本当に上手だったよ」

「でしょ。ウチだってやる時はやるなしよー」

「御見逸れいたしました。茉琳様」

「分かっていただいて、光栄ですわ」

「何,その、お嬢様言葉」

「だって,ウチ、生粋のお嬢様なりって言ったえ。分かったなりか」

「今は、見事なダンスに免じて信じて上げるよ。お嬢様」

「ウフフ、良きに計らえですこと」


 気分、アゲアゲな茉琳の笑顔が弾けた。


 この後、クレーンゲームコーナーに戻り、


「翔、ちょい右。そうそう,もうちょっとなり」

「分かったから、横からあれこれ言わない。気が散るじゃない」

「でもう、でもぅ、どうっしても欲しいなしよ。翔、そこで,そこで」

「ポチッとな」


 茉琳が欲しがっていたハムスターのぬいぐるみを釣り上げて、茉琳と翔はブースを離れる。茉琳は気に入ったぬいぐるみをを頬ずりしつつ、


「また、来たいなり。よろしくお願いするなし」

「もちろん! 楽しそうな茉琳を見て、俺も楽しめたしね」

「うん」


 そして、2人とも夕食で舌鼓を打ち、楽しかった一日を終えた。





⭐︎本当におまけ⭐︎


ただ。

ゲームが終わっての帰りしな。

「翔、体を動かしたなし、喉が渇いたなりよ。飲むもの買ってくるえ。何がいい? ウチの奢りなりな」

「いいのかい。なら、俺はコーラで」

「ウチはジンジャエールにするえ。待っててなり。買ってくるなしよ」

「ありがとうな」

翔のリクエストを聞いて、意気揚々と飲み物を買いに行った時、アクシデントが起きた。両手に飲み物を持って翔の元に帰り着く寸前に、茉琳の顔から表情が抜ける。彼女の持病の意識障害が起きた。いきなり気を失って体が硬直し、翔に向かって倒れ込んでしまう。

悪いことに茉琳の持っていた炭酸飲料が翔の手元にあったスマホを直撃。ブラックアウトさせてしまうことが起きる。

茉琳が意識を戻すと同時に,なんとかスマホも復帰したのだが、茉琳には、その時の翔の悲しい表情が暫く離れなくなってしまった。翔はなんともないよとは言うのだけれど……


☆ とある話に続きます☆





















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