一発で結論を出す能力

ちびまるフォイ

努力をしてしまったら失われる

「おお、あなたの人生はなんて恵まれていないのでしょう。

 どんなに努力しても結果は評価されない。

 そこであなたには特別な力をさずましょう!」


「こ、この力は……!?」


「あなたは今この瞬間に天才となりました」


「天才? 俺が?」


「あなたはあらゆる努力を経由せずに、

 すべての答えや結果を出せます。

 もう辛い思いはしなくてよいのです」


「ああ、ありがとうございます!」


「ただし……。もし、一度でも努力をしてしまったら。

 今あなたに授けた天才の能力は失われるでしょう」


目が覚めると自分の部屋だった。

悪い夢だったなと悲しくなりながら学校へ向かう。


「では定期試験を始める。赤点は追試だからな」


「うげっ……」


赤点常連の自分は今日も居残りだろうか。

テスト用紙が配られたとき、その空欄になにか見える。


「うすく文字が……これは……答え!?」


選択問題なら、選択肢を。

文章問題ならその文章が浮き上がって見える。


なんでそんな答えになったのかはわからない。

でもそれらしい解答には違いない。


テストの採点後、先生は返却時に驚いていた。


「まさかお前、満点を取るなんて……」


「えへへ」


「やればできるじゃないか! 頑張ったんだな!!」


「そ……それはもう……」


勉強なんて一ミリもやっていなかった。

それだけに自分が夢枕で見た才能が本物だったと確信する。


さらに良いことに、この才能は勉強だけにとどまらない。


スポーツでも体をどう動かせば良いのか。

どこを狙えばゴールが狙えるのか。


全く知識も経験も無いはずなのに、

体や頭が自然と答えの場所へと導いてくれる。


「ごーーる!! すごい!!! ハットトリックだ!」

「どうしてあのコースがわかったんだ!?」

「あんなの普通じゃ絶対に思いつかない!」


「た、たまたまだよ。あはは」


一発で答えや結論を出せてしまう才能は他にもある。

日が経つにつれて自分はクラスの人気者となる。

自分に恋愛相談や人生相談を持ちかける人が後を絶たない。


「〇〇くんのことが好きなんだけど、どうすればいいか……」


「それなら、N君と仲良くするのがいいよ」


「え? どうして? 〇〇君とN君はべつに親しくないでしょ?」


「えーーっと……そうだなぁ……」


この結論を一発で出す能力には唯一にして最大の欠点がある。

結論までの過程がまったくわからないこと。


正しい結論だとわかってはいるのに、

それを誰かに説明したり自分で理由を理解することはできない。


「と、とにかく! N君と仲良くすればOKだよ!!」


そう言うしかなかった。

自分でもなんでそうなるかわからないから。


それからしばらくして。


成績優秀、スポーツ万能、人望もあるという。

学校のカースト制度があるなら頂上を超えて殿堂入りするポジション。

そのはずなのに先生から呼び出された。


「来たか。ちょっと話がある」


「どうしたんですか先生」


すぐに先生が何を話したいのか答えがわかった。

でもなんでその答えなのか、経緯はわからない。


「どうして俺がカンニングをしたと!?」


「いやまだ何も話してないが!?」


先生は驚いたが結論は的中だった。


「その……なんだ、お前は今ままで赤点だらけだった。

 なのにある日急に満点を連続で出している。おかしいだろう?」


「だからってカンニングを疑うんですか!

 誓って俺はカンニングしていません!」


「それに、親御さんに話を聞けばお前は家でも勉強してないそうじゃないか」


「ええそうです」


努力すれば今の能力を失ってしまうから、勉強なんてご法度。


「勉強もしてないのに、満点なんて取れるわけ無いだろう!?」


「それは先生の基準でしょう!」


「授業中も寝ているのに満点なんて絶対カンニングだ!」


「先生。お言葉を返すようですが、証拠はあるんですか?」


「……ない」


「でしたら。次の試験では俺を完全な監視下に置いてください。

 別室にするとか。その状況で満点を取ったなら、認めてくれますね」


「考えよう」


次回の試験は試験監督がぐるりと囲む異常な状態で開始となった。

別室だろうが、監視が厚くなろうが自分の才能は変わらない。


テスト用紙が配布されれば、たちどころにその解答欄に答えが見える。

なんでその解答になるのかはサッパリわからんが。


もちろん次のテストも満点だった。


「ば、バカな……! 一番むずかしい試験だったのに……!」


「これでカンニングじゃないと証明できましたね、先生」


「いや……。いや! やっぱりお前はカンニングだ!!」


「ええ!?」


「確かにカンニングは証明できなかった!

 だが、我々に気づかない方法や立証できない方法で

 お前はカンニングしたに違いない!」


「なんでそうなるんですか!」


「合格率0.001%の超難関大学の試験だぞ!?

 それを満点で、しかも勉強せず突破できるなんてありえない!!

 誰にも気づかれない方法でカンニングしないと無理だ!!」


「疑わしきは罰しないのが人のルールでしょう!?」


「黒に近いグレーは、それはもう黒なんだよ!」


カンニングの証拠はなかったが、

努力もしないで満点というわざとらしさが状況証拠となり無効にされた。

満点は認められずカンニング扱いの0点となる。


正しい結果は一定の成果を超えると認められなくなる。

それは勉強だけではなかった。


「100m……8秒!?」


「はぁ……はぁ……どうです? コーチ」


「お前、今まで部活もしていなかったし

 家では毎日テレビを見ているだけの自堕落人間だろ!?」


「でもちゃんと世界新記録出せましたよ」


「いいや! こんなのは認められない!

 だってお前はなんにも努力していないだろ!?」


「努力はしてないですが、結果は出してるじゃないですか!」


「ちょっとドーピング検査だ!!」


「えええ!?」


血液検査とMRIとレントゲンのフルコース。

もちろんドーピングの証拠は見つからなかった。

そして、記録も認められなかった。


「不正なんてやってないでしょう!?」


「いや、証明できない方法で不正したに違いない!

 なんの努力も苦労もしていないお前が、

 今まで才能と時間と努力を費やした人を超えて良いわけ無いだろ!!」


「単に俺が天才とは思えないんですか!?」


「だったら隠れて努力したとかにしろ!

 隠れても努力してないくせに結果を出すな!!!」


「むちゃくちゃだ!」


テストで満点を取り続けていたのも。

スポーツで良い成績を残せたのも。


それが一流たちがしのぎを削る世界に近づくほど、

非難されて認められなくなった。


みんな必死に努力しているからこそ応援したくなる。


なのに自分とくれば一切の努力をせずに、

ポンと良い成績を残すのだから腹立たしい。


今までの努力はなんだったのか。

応援していた人たちの時間や苦労を否定してしまう。

自分のような都合の良い存在は害悪そのものになった。


「なんで努力していないんだ!」

「ラクして結果を出すなんてずるい!!」

「もっと自分たちのように苦しむべきだ!!!」


しまいには自分は出禁となり、

あらゆる能力を比べる試験や勝負ごとから追い出された。


破滅でもしてやろうかと賭け事に挑戦するも、

答えがわかってしまうのであっという間に荒稼ぎして怒られた。


「うう……。なんて生きにくい世界なんだ……」


家に引きこもってテレビを見るしかなくなったとき。

緊急ニュースが飛び込んでくる。


『大変です! 急きょ軌道を変えた隕石が地球に接近!

 24時間後にはこの地球を跡形もなく消し飛ばしてしまいます!』


次に衛星庁からの会見が開かれる。


『地球のみなさん……悲しいお話ですが、

 どんな手を尽くしても隕石は回避できません。

 最後の時間を家族と、大切な人と過ごしてください……』


会見ではその後に隕石を回避するあらゆる選択肢を提示。

そのどれもがもうムダであることを話していた。

そんな絶望の会見に人類は諦めていた。


自分を除いて。


「政治本部のトイレを流せば、隕石回避できるじゃないか」


自分だけは隕石を回避するための結論を導いていた。


なんで政治本部にあるトイレなのか。

なんでトイレを流すだけで隕石が回避できるのか。


その因果関係はまったくわからない。

意味不明だ。でもこれが結論なのだろう。


「こんな理由認められるわけない……。

 でも行くしか無い!! 地球のために!!」


政治本部にいくとあっさりガードマンに止められた。


「なにやってる! 今は緊急事態の戒厳令中だぞ!!」


「トイレを!! 本部の個室3番目のトイレを流させてください!!!」


「頭おかしいんじゃないかこいつ!?」


「そうしないと隕石が衝突して何もかも終わりです!

 早くトイレを流させてください!!」


いくら抵抗しても危険人物として処理される。


自分でもなんでトイレと隕石回避が結びつくのか。

その理由は全くわからないので説明のしようもない。

でもこのままでは地球は滅亡する。


「時間がない! こうなったら……!」


自分の能力の種明かしをすることにした。


トイレと隕石衝突を説明することはできなくても、

自分にある特別な能力なら説明することができる。


最初は全く信じてもらえなかったが、

あらゆる問題を即答していくとだんだん理解してもらえた。


「そんな……いきなり私の家族構成すら言い当てるなんて……」


「わかったでしょう!? コレが俺の能力なんです!」


必死に説明するという努力を行った結果、

ガードマンはついに能力を認めてくれた。


「行ってくれ! 世界を救うんだ!」


「ありがとうございます!」


政治本部への入場を強化されトイレに猛ダッシュ。

隕石はまだ来ていない。

手前から3つ目の個室のドアを開ける。


水を流すレバーに手をかけたときだった。

体から何かが失われたのを感じ取る。



「あれ……? なんでトイレ流そうとしてるんだ……?」



なにか大切な答えに導かれてこの場に来た気がする。


もうすぐ隕石は衝突して地球は終わるというのに、

なんで自分はこんな縁もゆかりも無い場所にいるのか。


結局トイレは流さないまま、その場を後にした。

空には大きな隕石が雲を割って迫っていた。



「なんであんなに努力して説明したんだろ……?」



最後までガードマンに説明努力を尽くした理由はわからないまま。

隕石は地球を木っ端みじんに吹き飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一発で結論を出す能力 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ