### 1. 短い選挙戦

東京タワー事件から数日後、市長選の投票日は予定通り迎えられた。しかし、それは形式的なものでしかなかった。事件の一部始終がテレビで放映されたことで、市民の圧倒的支持は茜に集まっていた。

「ガヴリロが失脚した今、実質的に対立候補はいない」とある政治アナリストはテレビで解説していた。「琴葉市長の娘であり、さらに都市を救った英雄の友人である琴葉茜氏の当選は確実視されています。また、この事件を通じて、アンドロイドと人間の協力の重要性が再認識されました」

実際、多くの対立候補は選挙戦から撤退していた。茜の応援演説には多くの市民が集まり、彼女の言葉に熱心に耳を傾けた。

「私は父の意志を継ぎ、この東京をより安全で、自由な都市にするために力を尽くします」茜はシンプルながらも力強く語った。「アンドロイドも人間も、共に生きる社会を築くために」

演説後、記者が質問した。「ガヴリロ事件を経て、あなたの政策に変化はありますか？」

「より強固な危機管理システムの構築は急務です」茜は冷静に答えた。「同時に、市民の皆様の自由と権利を最大限尊重する市政を目指します。種族の壁を超えた協力こそが、私たちの力です」

「ずんださんの容体は？」別の記者が尋ねた。

茜の表情が一瞬曇った。「現在、最善の治療を受けています。彼女は強い人です。必ず回復すると信じています」

### 2. あっさりとした決着

投票日の夜、予想通りの結果が発表された。

「速報です」テレビの女性アナウンサーが伝えた。「東京市長選挙、琴葉茜氏の当選が確実となりました。得票率は過去最高の78%です。これは父である琴葉前市長の記録を上回る数字です」

マイクロテレヴィジョンのスタジオでは、結月が特別番組の司会を務めていた。

「これは予想された結果ではありますが、得票率の高さは注目に値しますね」結月はコメンテーターに向かって言った。

「ガヴリロ事件で市民が団結したことが大きいでしょう」コメンテーターは答えた。「そして、アンドロイド差別の危険性を実感したからこそ、投票率も大幅に上昇したのです」

党本部に設置された特設ステージでは、茜が短い勝利演説を行った。

「市民の皆様、このたびは市長に選んでいただき、ありがとうございます。私はこの責任を重く受け止め、東京の明るい未来のために全力を尽くします。人間もアンドロイドも、共に手を取り合う社会を作りましょう」

彼女の言葉は簡潔だったが、その目には強い決意が宿っていた。

### 3. 喜びと不安

演説の後、茜は慌ただしく市長官邸へと向かった。そこで彼女を待っていたのは、前市長のスタッフたちと、新たに加わった補佐官たちだった。

「おめでとうございます、市長」彼らは一斉に頭を下げた。

「ありがとう。みなさんの力を借りて、この都市を守っていきましょう」茜は静かに答えた。

官邸内の執務室に案内された茜は、父親が使っていた椅子に腰掛けた。その重みが、今まで感じたことのない責任の重さを彼女に実感させた。

「市長、これが今週の予定表です」秘書が分厚いファイルを差し出した。「また、懲悪省の野中さんが面会を希望されています」

「わかりました」茜は頷いた。

秘書が退室した後、茜は窓から東京の夜景を眺めた。光の海のような都市の風景は美しかったが、彼女の心は友のもとにあった。

「ずんだもん…」彼女は小さく呟いた。

### 4. 特別医療施設

一方、特別医療施設では、ずんだの治療が続いていた。彼女の体は大部分が破損し、コアの移植手術が必要な状態だった。

太田は不眠不休で新しい体の準備を進めていた。「コアの状態は安定しています」彼は石川に報告した。「アンドロイドとしての基本的なパラメータは保全されています。しかし、移植手術にはリスクがあります」

「ずんださんは強い」石川は静かに言った。「必ず戻ってきてくれるでしょう」