5 展望台での対決


### 1. 衝突


大きな音と共に、強化ガラスが砕け散った。ずんだは宙を舞いながら、展望台の床に着地した。ガラスの破片が周りに降り注ぐ中、堂々とした姿勢で立ち上がった。


「ガヴリロ!」


ガヴリロは拍手した。「見事な登場だ。観客も喜んでいるだろうな。機械のくせに」


「茜ちゃんを解放しろ」


茜は鉄柱に縛られたまま、ずんだを見つめていた。小さくうなずき、何かを伝えようとした。ずんだはそれを察し、わずかに頷き返した。


「簡単に言うねえ」ガヴリロは腕を組んだ。「だが、そうはいかない」


展望台の下層から警報音が鳴り始めた。


「なんだ?」ガヴリロは一瞬警戒した。


その隙に、茜は懸命に縄を緩める作業を続けた。手首はすでに青い液体で濡れていたが、痛みに耐えながら作業を続けた。


「何かあったようだな」ガヴリロは部下に向かって叫んだ。「調べろ!」


ガヴリロの部下が数人、展望台を出て行った。


ガヴリロは茜の方を見た。「彼女が欲しければ、俺を倒すんだな。人間の力を見せてやるよ、機械野郎」


「わかった」ずんだは構えた。「それがお前の望みなら」


ガヴリロは笑いながら、上着を脱ぎ捨てた。体は大部分が機械化されており、筋肉質の外見とは裏腹に、金属の輝きを放っていた。


「俺も準備は万全だ。人間の限界を超えた強化人間の姿だ」


二人は互いに向き合った。


「ショーの時間だ」


ガヴリロが突進してきた。ずんだは瞬時に反応し、彼の拳を受け止めた。衝撃波が部屋中に広がり、窓ガラスが震えた。


展望台のドア付近では、石川が静かに様子を窺っていた。ヘッドセットで報告した。「視認しました。茜様は鉄柱に拘束されています。ずんださんはガヴリロと交戦中です」


### 2. 激闘


ずんだとガヴリロの激しい戦いが続いていた。二人は超人的なスピードと力で打ち合い、展望台は破壊の痕跡で埋め尽くされていた。


「なかなかやるじゃないか」ガヴリロは口元から血を拭った。「機械のくせに」


ずんだはあえて攻撃の手を緩め、彼の注意を完全に引きつけていた。ヘッドセットから石川の声が聞こえた。


「ずんださん、あと30秒ほど引きつけてください。茜様に接近中です」


「了解」ずんだは小声で答えた。


「なぜアンドロイドを憎むの?」ずんだは問いかけた。「私たちは共存できるはずだ」


ガヴリロは低く笑った。「共存?冗談じゃない。お前たちは人間の模倣品だ。作られた感情で人間を欺く詐欺師だ」


彼は再び攻撃を仕掛けてきた。ずんだは体をひねって避け、反撃する。二人の拳がぶつかり合うたびに、金属の音が響き渡った。


その間に、石川は静かに茜に近づいていた。専用のカッターで茜の拘束を切り始めた。


「石川さん」茜は小声で言った。


「お嬢様、無事で何よりです」石川は茜の拘束を解きながら言った。「もう少しです」


ずんだはガヴリロの攻撃をかわし、瞬時に間合いを詰めた。「ハァッ!」


拳がガヴリロの胸に命中し、彼は壁に叩きつけられた。その瞬間、石川は茜の最後の拘束を切り、彼女を引き寄せた。


「くっ……」ガヴリロは呻いた。


ずんだは距離を取り、警戒している。「降参するなら、茜ちゃんを解放するのだ」


「降参?」ガヴリロは立ち上がりながら笑った。「まだショーは始まったばかりだ」


彼は周囲を見回し、茜が拘束から解放されていることに気付いた。「なに!?」


茜は石川に守られながら、展望台の出口へと向かっていた。


「逃がさん!」ガヴリロは叫んだ。

「そっちは任せた!」ずんだは石川に向かって叫んだ。「茜ちゃんを安全な場所へ!」


石川は頷き、茜を連れて逃げ始めた。


### 3. 脳波増幅装置


ガヴリロは腕に装着されたデバイスを操作した。突然、タワー全体が震動し始めた。


「なに……これは?」


「さあ、第二幕の始まりだ」ガヴリロの目が狂気に満ちていた。「人質を逃がしたからって、勝ったと思うなよ。東京全体をショーの舞台にしてやる!」


展望台の天井が開き、大きなアンテナが現れた。それは奇妙な輝きを放っていた。


「あれは……」ずんだは目を見開いた。


「そう、脳波増幅装置だ」ガヴリロは笑った。「これで東京中の人間の脳波を操作できる。彼らは俺の熱狂的なファンになる。アンドロイドへの憎しみを植え付けてやる」


「やめるのだ!」


「遅い!機械には効かないが、人間には絶大な効果だ」


ガヴリロがボタンを押した瞬間、アンテナから強烈な光が放たれた。


### 4. 茜の決断


石川は茜を連れて階段を駆け下りていた。


「石川さん、問題があります。タワーから奇妙な光が放たれています」


「ガヴリロの脳波増幅装置です」茜が言った。「市民を洗脳して選挙で自分に投票させるつもりです。さらに反アンドロイド感情を高めようとしている」


「なんてこった!」石川は驚いた声を上げた。「だがお嬢様、まずはあなたの安全が…」


「ずんだもんを見捨てるわけにはいかないわ」茜は静かに言った。「私たちも助けなきゃ」


石川は茜を見た。「お嬢様、それは危険です」


「それでも行くわ」茜は決意を固めた表情で言った。

「ずんだもんは私のために戦っている。見捨てるわけにはいかない。アンドロイドの未来のためにも」


石川は迷った表情をしたが、やがて頷いた。「わかりました」


彼らは方向を変え、再び上層階へと向かい始めた。


### 5. マイクロテレヴィジョンの対応


「素晴らしい!」結月は大型モニターに映る二人の戦いを見ながら叫んだ。「これこそ真のキラーコンテンツだ!アンドロイドと強化人間の究極の戦い!」


スタッフたちも息をのんで見守っている。画面の端には、タワー周辺を監視するヘリの姿も映っていた。


「視聴率は?」

「65パーセントです!史上最高です!」


結月は満足そうに笑った。「いいねぇ……これぞリアルタイムドラマだ」


東京タワーの発光のあと、突然、通信がジャックされた。


「どうした?」


技術者が慌てて確認する。「通信が乗っ取られました!」


「なんだと?」


モニターには、東京中の街頭スクリーンが映し出されていた。そのすべてがガヴリロの姿を映していた。


「市民の皆さん、こんばんは」ガヴリロの声が響き渡った。「今夜から、俺がお前たちの新しい指導者になります。人間の、人間による、人間のための東京を取り戻すのだ。機械どもに支配されることなく」


結月は技術者に叫んだ。「なんとかしろ!」


「無理です!彼のシグナルが優先されています!」


結月は唇を噛んだ。「これは……まずい。野中に連絡を」


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