【脚本】ずんだもんのキラーコンテンツ

@ma_baker

ずんだもんが挑むサイバーパンクバトル!

1 ガヴリロ

### 1. 琴葉茜


「あっはっは。どうしても民間資本でやりたいんですか?」


スーツを着た細身の男性、野中が笑った。琴葉茜は眉をひそめている。


「ガヴリロを市長にしろって言うんでしょ。最初から奴が市長で事件なんてなかったようにしろって」


野中は続ける。「真理は管轄外ですね。でもだいたいはその通りです」


茜は冷ややかに答えた。「あなたよりも友達に頼るわ」そう吐き捨てると台車を引き寄せて歩きはじめた。


「ギャンブルはいけませんなぁ。選挙が終われば介入しますよ。政府としては人間の市長のほうが扱いやすいですからね」野中は意味深に手を振った。


茜は台車を押して歩き出す。周囲には雑多な人々が歩いているが、みな陽気で若い。この空間でもっとも真剣な表情をしているのは茜だけだ。青い台車をごろごろ押す姿が印象的に映る。


### 2. マイクロテレヴィジョン


茜は認証キーを持っていないため、2階の受付に通してもらわなくてはいけない。だが、彼女は正面から騒ぎを起こし、プロデューサーに直接話を持っていくことを決意していた。


背中を向けている茜が受付に歩いていく。配達業社を思わせる小ぶりの台車を押しつつ、スーツ姿で歩く。荷物を除いて周囲のオフィスワーカーたちとの違いはない。


「すいません、マイクロテレヴィジョンの結月ゆかりさんにお会いしたいんですが」


「畏まりました。恐れ入りますがお名前を頂戴できますか」


「元市長の娘の琴葉茜です」


茜は名刺を差し出す。受付係は内線で連絡を取るが、何か手間取っている。


「琴葉さま、結月という者は在籍していないようでして」


「なるほど」茜は居留守だと確信する。「わたしの養父、琴葉市長の暗殺の件でも、ですか。初のアンドロイド市長が殺されたというのに」


「たいへん申し訳ございません」


「すいませんが、あまり時間がないんです。失礼とは思いますが、先に始めさせて貰いますね」


茜は来客用のカメラをじっと見たあと、台車に乗ったダンボールを開ける。


### 3. 騒動


受付係が反応する前に、茜はカウンターにジップロックに入ったナイフを置いた。それは明らかに青い液体で汚れていた。


「! お客様……」


茜は受付係を無視してカメラに説明する。


「結月さん聞いてますか? わたしの養父はガヴリロに殺されました。奴は『人間至上主義』を掲げ、アンドロイドの市長を暗殺したのです。そして今、その犯行で得た知名度を利用して、市長選に勝って市長になるつもりです」


彼女は分厚い紙束を置いた。ガヴリロの写真や詳細な犯行のリスト。手書きで書き込みがなされ、あちこちにメモ書きがある。


「2時間前、ガヴリロは私に暗殺司令を出しました。『アンドロイドの市長の娘も始末する』と。市長の娘を殺したものを副市長にしてやると。だから私はヒットマンたちから襲撃を受けました」


受付係は緊急通報ボタンを押す。隣の受付係が思わず立ち上がって後ろにさがる。


「ありていに言って私はピンチです。うちの警護では応戦が精一杯で、養父の復讐は無理でしょう」


イヤーピースに通話がつながり、同時にビルがロックダウンされる。


「結月さん、やっぱりちゃんといるじゃないですか。本当に申し訳ございません」


茜は周囲のオフィスワーカーたちに謝罪する。


「ガヴリロは本気です。うちの機体に攻撃をしかけてきました」


ポリ袋に入った新聞のボール状のかたまりをカメラに見せる。新聞はガムテープでくくられているが青い液体が滲み出ている。


武装部隊が茜の周囲を取り囲み、これ以上何もするなと銃口で示す。


「大丈夫です。これはヒットマンのものですから。私のようなアンドロイドは傷ついても青い液が出るだけですから」


部隊は茜をうつ伏せにし、無力化を図る。向けられた銃口は20を超えていた。


### 4. 茜の警護責任者


石川隆は琴葉家専属の警護責任者で、市長が暗殺されて以来、茜の身辺警護を最優先にしていた。マイクロテレヴィジョン周辺に配置についた彼は、通信機を通じて報告を受ける。


「お嬢様はこれから出発します。懲悪省の野中さまと別れて、何か青い台車を用意しています。中身は…」報告の声が途切れた。「隊長、アンドロイド専用メンテナンス液で汚れたナイフと書類があります」


「なんだって?」石川は一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻した。「わかった。とにかく追跡を続けろ」


石川は茜から距離を取りながらも、常に視界に捉えていた。彼はテレビ局内部の状況を把握し、準備を整えた。


### 5. 応接室


応接室に通された茜を待っていたのは、洗練された雰囲気を持つ女性、結月ゆかりだった。コーヒーを飲みながら、淡々と話を始める。


「それで琴葉さん」結月は茜を見て言った。「私に何をして欲しいんですか」


「この事件を解決して、ガヴリロを殺してください」


「いいねぇ。まさしく復讐の物語なんだ。殺されたアンドロイド市長とアンドロイドの娘、いいね」


「名誉市民とお呼びください」


「これは失礼。政治的正しさには疎くてね」カップを置く。茜はカップには手をつけない。アンドロイド用のエネルギー源ではないからだ。


「いいえ、今日は面白さ優先で結構です。ガヴリロの打倒に力を貸してください」


「いいよ。気に入った」


目線をずらさないまま指を鳴らす結月。「太田を呼んで」


「さすがはテレビ局、連邦英雄も指先ひとつでお呼び出しですか」


「んー? 何か注文がありそうね」


「キラーコンテンツのルールは勉強してきました。依頼者は特別料金で挑戦者を指名できましたね?」


「ははは。じゃあ誰がいいのよ」


「ずんださんです。彼女以外は有り得ません」


「あの子は腕が立つだけの素人よ? 勝てる保証なんてない」


「かもしれません」茜は続ける「でも、腕の立つアンドロイドが人間至上主義の巨悪に挑む、それがキラーコンテンツでしょう? 多くの視聴者に、アンドロイドの能力と勇気を示す絶好のチャンスです」


太田がすぐに電話をかける。「ずんだくんはどこにいる? うん、ご指名だそうだ」

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