【PV 244 回】泡の向こうに — 旅とビールの一期一会
Algo Lighter アルゴライター
第1話 乾杯の向こうに
夜風が肌に心地よい異国の街。石畳の路地を抜けた先に、小さなパブがぽつんと佇んでいる。外から漏れるオレンジ色の灯りが、旅人を誘うように揺れていた。木製の扉を押し開けると、暖かな空気とともにビールの香ばしい香りが鼻をくすぐる。心地よいざわめきが店内を包み込み、異国情緒とともに旅の疲れが少しだけほぐれていく。
「ビール一杯、ラガーで」
低めの声で注文すると、バーテンダーが笑顔でうなずき、琥珀色のビールを注ぎ始めた。立ち上がる細かな泡が、グラスの内側をゆっくりと昇っていく。ひと口含むと、喉を駆け抜ける爽快な苦味と、しっかりとしたコクが体を包んだ。冷たい液体が胃に染み込み、疲れが少し和らぐ気がする。
「それ、ラガー?」
隣から声がかかる。見ると、金髪でがっしりとした体格の青年が笑顔でこちらを見ている。彫りの深い顔立ちに、少しだけ赤らんだ頬が印象的だ。彼の前にも、黄金色のビールが注がれたグラスが置かれている。
「ああ、日本ではよく飲むよ」
「へえ、日本のラガーか。俺のはピルスナーさ」
青年は自分のグラスを掲げ、淡く透き通る黄金色のビールを示す。きめ細やかな泡がクリーミーに立ち上り、フレッシュなホップの香りが漂っている。ラガーよりも軽やかで、シャープな苦味が特徴的だ。
「ラガーとピルスナーって、どう違うんだ?」
「簡単に言うと、発酵温度と味の違いだ。ラガーは低温発酵で、すっきりとしたコクがある。ピルスナーはその中でも淡色で、ホップの苦味が際立っているんだ。軽やかで爽快だけど、香りの個性が強いんだよ」
「なるほど、ビールにもいろいろあるんだな」
「そうさ。ビールはどこの国でも愛されてるけど、種類や味わいは全然違う。それでも、ビールって不思議だよな。どんなに文化が違っても、こうして人を繋げるんだから」
その言葉に、健人は自然と笑みがこぼれた。異国の地で、こんなふうにビールを語り合えるなんて思ってもみなかった。ラガーのどっしりとした旨味が、じんわりと心に染み渡る。
「名前は?」
「エリックだ。君は?」
「健人。よろしくな」
二人は笑い合いながらグラスを掲げ、乾杯の音が響く。泡が少しだけこぼれ、木製のカウンターに染み込んでいく。しかし、そんな些細なことはどうでもよかった。旅先での一期一会を祝うように、冷えたビールが二人の心をひとつにしていた。
その夜、二人はビールの話だけでなく、故郷や旅路、夢についても語り合った。言葉の壁を越えて、ビールが繋げた友情が芽生えたのだ。夜が更ける頃、ふたりは再び乾杯しながら笑い合った。
「またどこかで飲めるといいな」
「きっとな」
乾杯の向こうにある友情が、異国の夜風に溶け込んでいく。ビールが繋げたこの瞬間を、健人はきっと忘れないだろう。
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