馬鹿なこと

紀井ゆう馬

馬鹿なこと

 一箱で約二週間ほど持つ。

 是が非でも吸いたい訳でもないが、口寂しい気分がふと体に訪れる。

 成人しても煙草は吸わないだろうと思っていた。

 けれども、心が虚しさを感じた時、身体が物足りないと発する時。

 何をあてがえば良いのだろうか。

 ビールやチューハイ、アルコール類でも満たされない時はどうしたらいい。


 仕事帰りにコンビニに寄り、チューハイ一本とビール二本を籠に入れる。

 おつまみは必要ない。呑めればいい。

 呑んでほろ酔い気分でテレビを流し見るのが週末の楽しみだ。

「あ、すいません。クールライト一つ。そう七十八番です。ありがとうございます」

 レジで煙草がきれていたことを思い出した。

 昔の上司に煙草の初心者はメンソール入りが吸いやすいと思わったまま、その煙草を吸い続けている。

 会計を済まし、店から出る。

 背中にリュックを背負い、ライターをポケットから出す。煙草に火をつける。

 仕事が終わり、ガヤガヤしている通りから少し歩けば、アパートの近くは閑散としている。

 今年、三十五。

 父親の年ではおれは生まれていたらしい。

 もう、そんな年齢になってしまった。

 そう思うとどうしようもなく虚しく、寂しくなる。この先、どうなるのか。どうなっていくのか。

 目標なんてない。今、生きるのに必死だ。

 将来の事を語れないのは、おれに何かが足りていないし、何も持ってなどいないからだろう。


 肺の奥まで煙草の煙を吸う。

 何か得られたらいい、何か生きる理由がほしいとゆっくり肺の奥に煙を送る。

 慣れていない肺の奥は煙草の煙にびっくりしたようにむせる。

 それはまるで、社会から拒絶されたおれのように感じた。

 拒絶されたくなくて、煙を吸う。

 生きたくて、その有害な煙を体内から口へ押し出す。

 矛盾を感じながら生きるしかないのか。


 生きづらいを生きやすいにどう変えたらいい。

 将来など見えない。他の人はどんな風に生きてるのか。

 何を感じ、何を思い、生きてるのか。

 きっと、おれは矛盾してる馬鹿なことをしながら生きるのだろう。

 煙草の煙を口から吐き、誰にも言えない感情を混ぜて、煙を肺の奥へと行き渡せる。

 肺の奥へ入った言えない感情はもっと体の奥深くで濁る。

 煙草しか現実逃避の手段がないおれはもっとばかだ。



 

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馬鹿なこと 紀井ゆう馬 @tukue

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