眠りについた彼女

星空の海月

苦い恋

 うちには好きな子がいた。

 教室の隅っこから見えるショートカットボブの女の子。

 たまに目が合って恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。

 うちと部活は別々だけど時折横通る時、香るコーヒーの匂い。

 うちとは違って部活が忙しいだろう。そんなこと頭の隅に考えながら帰ってる最中に、驚いたのは告白されているところを見てしまったことだった。

 陰キャなうちにとっては羨ましかった。

 うちも女の子じゃなかったら告白できてたのかな。


「ちぇっ」


 虚しく小石を蹴り上げてもなにも起きないのは知ってる。

 自販機も値上げ効果で値段が高くなっていた。うちはそれでもなんかしたくて、二百円自販機に入れて、コーヒーを買った。

 そのコーヒーの蓋を取ると、あの子と同じ匂いがした。


「あれ? 名取さんでしたっけ」


 心臓が跳ねるように、コーヒーを落としそうになった。うちが後ろを向くと、ショートカットボブの少女、鈴木葉月さんが立っていた。


「奇遇ですね! 私もここでコーヒーをよく買うんですよ」


 緊張を押し殺すように、いつも通りの態度で接した。


「別にたまたまだし」


「名取さん、このコーヒー甘苦くて美味しいんですよ」


「へぇ、そうなんだ......」


 コーヒーを一口飲むと甘苦い味が広がった。癖になりそうな味わいで、うちは葉月さんと味覚共有できたようで嬉しかった。

変態みたいな考えだし、きっと言ったら引かれる。


「部活は?」


「今日は休みなんです。名取さんは?」


「うちは部活してない」


「じゃあ一緒に帰りましょう!」


 強引に手を引かれ、うちはびっくりしたけど、気のせいか、葉月さんの頬が少し赤らんでいるように見えた。

 うちと同じ思いだったらいいな。

 片思いは辛いだけだ。でもうちらは女子同士だから、世間体があるからきっと断られるだろうな。

 砂利道を歩いていき、葉月さんは時折コーヒーを飲んでいた。


「うち、あんま喋んないよ」


「私が一緒に帰りたいから帰るんです!」


「ふーん......変わってる」


「今年の夏は暇ですか」


「なんで?」


 うちが聞くと、葉月さんは照れくさそうにはにかんで振り返っていった。


「夏祭り一緒に行きたいなって思いまして」


「デートなら男性と行けば?」


 うちの心がずきっと傷んだ。だけどこれが彼女にとっていいことなんだ。


「残念ながら男性には興味ないんです」


「え?」


 耳を疑うような言葉、それじゃあまるで。


「女の子好きなんだ」


 うちがつい言葉をこぼすと葉月さんは困った顔をしていた。


「バイセクシャルなだけですよ。それに恋愛だけが全てじゃないですし! 交友を深めようと思っただけですし」


 なんかおかしくって、笑ってしまった。


「いいよ、うちいつでも時間空いてるから」


「やった!」


 その表情はとても輝いて見えた。


*****


 次の日学校行くと、葉月さんはいなかった。

 おかしいなと思っていると、グラウンドの方から騒ぎ声が聞こえてきた。窓際まで行って見てみると、葉月さんらしき人物が倒れていた。


 学校に救急車来て、葉月さんは結局学校に登校しなかった。

 その次の日も、その次も来ない。


「先生、葉月さんは」


「ちょうど良かった。葉月さんに渡す宿題を渡してきてくれませんか?」


「え」


 いきなり渡された宿題、うちの意見は聞かないで先生はどっか行ってしまった。

 置き去りにされたけど、会う口実ができたからうちは嬉しかった。

 学校から徒歩二十分くらいで着く場所に大きな病院があった。

 病院内に入って受付済まして、葉月さんの病室に連れてかれた。

 葉月さんのお母さんらしき人が泣き喚く声が聞こえてきた。


「葉月! 起きて!! 起きてよお!!」

「やめなさい、薫」


 扉を開けようと思ったけど、開けれる自信がなくなった。

 看護婦に宿題を押し付けて帰った。


*****


 あっという間だった。

 黙祷を捧げたのも、葬式が行われたのも。

 お祭り行きたかったな一緒に。

 涙が自然と溢れてきて顔をくしゃくしゃにして泣いてしまった。

 コーヒーでも飲もうと思って缶の蓋を開けようと思った時、ふんわりとコーヒーの匂いがした。

 顔を上げて、周りを見渡してもあの眩しい笑顔はない。

「本当、まだ気持ち伝えてないし、教えてもらってないのに、なんで簡単にいなくなるんだよ」

 缶コーヒーを一気飲みして、缶をゴミ箱に捨てた。

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眠りについた彼女 星空の海月 @hulannronn

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