第24話 ズィータ戦域 ⑤
でも支援型と言っても、
要するに、ハズレの
そこに稀代の王認冒険者が就いているだけでも驚きなのに、ぼくの知識の中にある
可能なのか? いやまぁ、実際にやっているから可能なんだろうけど……だとしても、
「あの子の扱っている魔導具は魔導開発局の特注製でねぇー。《強化》の定義や選択範囲を広げているんだぁー。誰にでも扱える代物じゃなくてねぇー。空間把握能力に長けた才能がないとぉー、《強化》の選択範囲をミスったりするからねぇー」
ぼくの心中を見透かすように、ミナリさんが解説を加える。
「使っている魔石や
「でも《
「厳密には
「無茶苦茶だ。そんなのなんでもありじゃないですか。ウチの魔導開発局ってそんなに凄かったんですか?」
「同感ですね」初対面にも関わらず、ロッカくんが人懐っこそうな声音で言った。「私も知りませんでした。てっきり当ギルドの魔導開発技術は、良いとこで中の下だと思っていましたから」
「ありゃりゃー? ロッカくん知らんのかいぃー? あれは新郎が所属してるギルドの魔石開発局が造ったんだよぉー。婚約して、ベルちゃんあそこの友好協力者になっただろぉー? その契約履行の際に新郎からいただいたんだとぉー」
「さすが、大手ギルドは違いますね。さしずめ、
将来を誓い合った大切な人から贈られた魔導具を両手に備え、ベル・ラックベルは勇猛果敢に《魔王の遺産》へと挑みかかっている。純白のドレスの裾を翻して
たったひとりの冒険者に、ここまで猛攻を仕掛けられるとは想定していなかったのか。《囀り》に人間や竜のような知性があるかどうかは定かじゃない。けど、危機感は覚えたはずだ。その証拠に、浮遊する巨大人型兵器は、有効強度の限界点を迎えそうになっている
だが、
「きます! ダエラさん!」
あの忌まわしい不協和音が世界を満たす直前に、ベル・ラックベルが叫んだ。
その拍子に《ワイズ》が、ここに来て一番の
「あん……?」エディがまず気付いた。
「幻覚が……こない!?」キレートが驚きに声を上げる。
「そうか。そういうことか」ロッカくんが納得いったように頷いた。「黄金鐘の音そのものが幻覚攻撃になっているんじゃないんだ」
「音は、あくまでも媒介物質でしかない。魔導効果とは別なんだ」さすがのぼくも、ここに来てようやく理解できた。「幻覚の魔導効果を乗せている『音』そのものを、同じ波長の音をぶつけて干渉作用を起こせば……」
『ベル! どうだ!? いけそうか!?』
『はい!』
ベルのしなやかさが加速する。両手を翼のように優美に広げ、爪の先で宙を弾く。
「――
再び爪の先で宙を弾く。魔導効果が発現。自身の膂力を極限まで、段階的に成長させる力の
『みなさん! 次の一撃で破れますから、構えてください!』
黄金鐘が、再び前後へ大きく揺れようとした。
「学習能力のねぇ奴だ!」
ダエラさんや他の
そして――大量の硝子細工が一斉に空から地面に落下したかのような、そんな激しい音が轟いた。
「やった!」「よっしゃ!」「この機を逃すな!」「さすが《泰若》だ!」「圧せ圧せ圧せッ!」「冒険局第五班! いくぞ!」
竜種や鳥禽種の背に跨る者。背に飛行の魔導効果を生やした者。足場に重力制御の魔導効果を宿した者。雲絨毯に乗る者――市民の避難誘導を完了させて続々と集まってきていた冒険者たちが快哉を上げ、いの一番とばかりに、各々の魔道具を振りかざす。
それより僅かに先んじた影があった。
ベル・ラックベルだった。
ぼくが《夜のはじまり》を起動させる時と同じように、彼女は爪を擦り合わせて、耳に残る音を鳴らした。弓を弦で力強く弾いたような音だ。その刹那、三十の実体幻影が、ざぁっと円を描くように集合し、古の巨大兵器を取り囲んだ。
数の上では有利。しかし、規模感だけでいえば、とてもじゃないが勝ち目はない。
それでも、そんなことは全く気にもしないというのか。
ベル・ラックベルが、その麗しい目元を神妙に伏せた。
右の拳に静かに左手を添え、胸の前で構える。
あとで聞いた話だけど――それは別名・《
「――
静から動へ。身を投げ出すのは、一の花嫁と三十の実体幻影。人知を超えた《強化》の魔導効果を宿した拳が、全方向から凄まじい速度で襲い掛かる。
寸毫の後。黒い閃光と、四肢がばらばらに吹き飛びそうなほどの超弩級の爆発音が辺り一面を埋め尽くした。雲絨毯が悲鳴を上げる。破壊と衝動の嵐が渦巻いて、莫大な熱量を宿した拳が、周辺の大気を焦熱空間へと化していく。土汚れた
それが、黄金鐘の美しい残骸であると気づいた瞬間、誰かが叫んだ。
反撃だ――男も女も、自らを鼓舞させるように勇んだ。ある者は宙を駆け、ある者は瓦礫の山の頂上に立ち、ある者は崩れた家屋の物陰から、それぞれがそれぞれに培った技術を駆使した。数多の魔導効果が色を引き連れ、弧を描いて《囀り》を灰塵に帰そうと迫る。
――全身に悪寒にも似た違和感が奔ったのと、ベル・ラックベルが悲鳴にも近い声を上げたのは、ほとんど同じだった。
冒険者たちの攻撃が直撃する寸前。《囀り》の背面部が不気味にも盛り上がった。蠕動している。
「
もっと早くに気づくべきだった。ダエラさんが
ふたつは連動する関係にあったのだ。お互いに保険を掛け合っていたのだ。一方の機構が制御不能に陥った時の、予備機構として作動するような仕掛けが施されていたに違いない。
魔導効果たちが、再び現れた不可視の障壁に遮られる。
次に何が起こるか、考えるまでもなかった。周囲の状況を観察している場合じゃなかった。
(ベル――ッ!?)
反射した魔導効果が、破壊の渦となって最前線の花嫁に迫ろうとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます