ベル・ラックベルの結婚
浦切三語
プロローグ
この世に起こるすべての出来事は、
未熟な人間であることを承知で言うけど、勇者様、それは正確じゃない。
すべての出来事が偶然ではなく必然によってもたらされるというのなら、初級者向けの
彼らが悲惨な最期を遂げてしまったのも、偶然という名の必然の下でそうなったというのか。それは『偶然』という名の皮に覆われていただけの、逃れられない結果だったのだろうか。その人の運命に記述されていた約束事だったというのか。
きっと違うだろう。
ぼくの意見を言わせていただくなら、それらはすべて、事前準備と確認を怠ったがゆえに本人が招いてしまった「ただの悲劇」にすぎない。
決めつけに過ぎるだろうか。でも、事実そのように報道されている事件や事故は多くあるし、なによりも、このぼく、つまりトム・バードウッドは、いまでもそう考えているのだ。あんな出来事に遭った後で言っても、説得力に欠けるかもしれないけれど。
ぼくの所属するギルド《
まぁ、ぼくはギルドに所属しているけれど冒険者じゃないし、それこそ上級者向け
それでも、探索経験に乏しいぼくが、今日までどうにか生き永らえてきたのは、事前準備の徹底によるところが大きかったと自負している。
必要な魔道具はぜんぶ揃えられたぞ、今日の探索時間はこのくらいを目安に、あの階層まで行くことにしよう……そうやって
偶然という名の必然……
『偶然』という名の皮に覆われているだけの、逃れられない結果なんてあるわけない。その人の運命に記述されていた約束事というのも、誰に約束されたというのか。神か? あいにくと神はとっくに消えたし、精霊の呼び声だって過去のものだ。
じゃあ、必然の代わりに、この世に存在する『理』があるのだとしたら、それはいったいなんなのだろうか。
そのことを、ぼくは二年前の今日、イヤというほど思い知らされた。
偶然という名の偶然。
それを運命と気安く呼べるほど、ぼくの頭は楽観的じゃない。
それこそこの世の『理』であり、人生における最大の敵だ。それはいきなり、なんの前触れもなく目の前に現れては、せっかくの事前準備を台無しにしてしまう。
あの日もそうだった。目に見えるかたち、あるいは目に見えないかたちで『偶然』はぼくに襲い掛かり、ぼくの心をずたずたに引き裂いて、目線を過去へと縫い留めた。
だけれども。
偶然は人生における最大の敵であるのと同時に、最良の友でもある。
だから、偶然というのは厄介なのだ。
ノヴィア、キレート、エディ。
そして、ベル・ラックベル……ぼくの誇りであり、ぼくの尊敬する人。
いま、この胸の中で渦巻く想いを、かたちに残しておかなくてはならない。
だから、ぼくはいまから、このまっさらな
彼女との偶然の出会いが、ぼくの心を脆弱なものにさせ。
彼女との偶然の出逢いが、ぼくの心を強くしてくれたのだから。
この
それは、ぼくのことを知っているどこかの冒険者か、あるいは、ぼくはおろか《
もしその時がきたら、できるだけ楽しんで読んでほしい。だから、ここから先は物語調で記そうと思う。
そういえば、大切なことを忘れていた。
物語調で記すなら、やっぱりタイトルはつけるべきだな。
何にしよう。
……『ベル・ラックベルの結婚』
これでいこう。これしかない。
だって、あの二年前の出来事のすべては、そこから始まっていたのだから。
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