【KAC20255】あの頃の夢を目指した俺のファーストステップ!

こまの ととと

夢に踊れ

 俺は、天下無双のダンサーになるために生まれた。


 少なくともそう信じていた。

 小学校の頃から、テレビで見たヒップホップダンサーの動きに憧れ、独学で練習を重ねてきた。


 中学に入ると、ダンス部に入り、毎日のように練習に明け暮れた。

 高校では全国大会に出場し、優勝を狙える程に成長した。

 俺は負けない。天下無双のダンサーになるんだ。


 しかし、現実はそう甘くなかった。


 大学に入り、ダンスサークルに入った俺はそこで初めて「壁」にぶつかった。


 サークルの先輩たちも同期も、みんな俺より上手かった。

 いや、上手いというレベルじゃない。彼らの動きは、まるで別次元。

 まるで重力を感じさせないような軽やかさで、ステップを踏み、回転し、ジャンプする。


 俺は、ただただ見とれるしかなかった。


「おい、新入り。ちょっと来いよ」


 男が一人、俺に声をかけてきた。

 彼はサークルのエースで、大会で何度も優勝しているらしい。


 名前は翔太。

 身長は一八〇センチ以上あり、筋肉質の体に鋭い目つき。

 まるで漫画の主人公のような男だ。


「お前、ちょっとばかし名が売れてるらしいな。ちょっと見せてみろよ」


 俺は緊張しながらも自分の得意なルーティンを披露した。

 しかし、翔太はすぐに首を横に振った。


「うーん……まあ、うまいな。それだけだが」


「え?」


「一緒に練習しないか? 俺が、お前に天下を見せてやるよ」


 俺はその言葉に胸を躍らせた。

 翔太と一緒に練習できるなんて夢のようだった。


 俺はすぐに彼の手を握り、一緒に練習を始めた。



 しかし、その練習は、地獄のようなものだった。



 翔太は容赦なく俺に厳しいトレーニングを課してきた。

 毎日、何時間もダンスの基礎を繰り返しては体が限界を迎えるまで練習を続けた。


 俺は何度もくじけそうになったが、翔太の「お前ならできる」という言葉に励まされ、必死に食らいついていった。



 そして、ついにその日がやってきた。



 大学の学園祭で、ダンスサークルの発表会が行われる日だ。

 俺は翔太と一緒にオリジナルのルーティンを披露することになっていた。


 ステージに立つ前、俺は緊張で足が震えていた。


「震えてんのかよ」


 翔太が、俺の肩を叩いた。


「いや……大丈夫だ」


「ならやってみせろよ。天下が見てぇんだろ?」


 俺はその言葉を胸に、ステージに上がった。



 音楽が流れ始める。リズムを感じる時間だ。


 翔太と息を合わせ、ステップを踏み、回転し、ジャンプする。


 観客の歓声が俺の背中を押してくれた。

 まるで、世界が俺たちだけのものになったかのようだった。


 そして、最後のポーズを決めた瞬間、会場は大歓声に包まれる。


「やった……!」


 俺は思わず翔太に手を伸ばした。

 奴もまた、笑顔で俺の手を叩き返した。


「まずは一歩目だ! これで満足は早すぎるぜ」


 瞬間、俺は本当に天下無双のダンサーになった気がした。


 こいつとなら夢が見れる!


 でも、まだまだこれからだ。

 高みを目指して、これからも翔太と一緒に練習を続けていくんだ!




「――って、ところで目が覚めてさ。汗で冷えていくのを感じながら布団の中で思ったね。まさに『夢に踊らされた』ってな」


「……何言ってんのよ、あんた?」

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