第20話 季節外れのサンタクロース

 目が覚めた。何時やろ?ありゃ、まだ5時ちょっと過ぎや。直美さんは私の隣でスヤスヤ寝とる。明彦はっちゅうと、部屋にあった革の表紙の本を見よる。私が体にタオルを巻き付けて「明彦、おはようございます」と彼の後ろから挨拶して、本を覗き込む。ホテルの案内やった。


「ミキちゃん、オハヨウ。ちょうどいい。朝食はビュッフェでいいかな?」とレストラン&バーのページを指差す。

「うん、お腹がすいたよ」

「ビュッフェは7時に開くから、まだ時間がある。私の飛行機の便の出発時間は11時だから、8時過ぎにホテルを出ればいい。7時までシャワーを浴びてパッキングすれば余裕だ」

「まだ、2時間ぐらいあるね?」

「ああ、カイロス神の前髪を掴むほど焦らなくていい」

「ふ~ん、もう1回しようか?」

「ミキちゃん、もう無理とか言ってたよね?」

「回復しました!」

「やれやれ」


 ベッドのブランケットがもこもこして、直美さんが毛布の下から顔を出した。「聞いたよ、ミキちゃん、抜け駆けはよくなか!」と寝ぼけ顔で言う。なんや、直美さん、起きてたんや。


「直美さん、寝とったけん」

「私が寝とったら、横のベッドでアンアンしよったん?ミキちゃん、声が大きかっちゃけん寝とっても起きるわよ」

「でもさ、直美さん、ずいぶん攻められとったけん、もう十分やろ?」

「回復しました!」

「私の体は考慮対象外なんだね?」と明彦。

「今回は、これで最後の機会よ!もったいなかと思わん?」と私。


 今回はこれで最後の言葉が効いたわ。二人ともやる気になった。もちろん私も。たっぷりと絡み合った。お~、35才の二人も元気やね。私相手より直美さん相手の方がじっくり攻められよる。ちょっと嫉妬した。


 バスタブにお湯をためて、私と直美さんは二人で入浴。その間、彼は荷物をパッキング。バスルームから出ると、明彦は下着と着替えの服だけ残して、スーツケースに詰め込んどった。私と直美さんはたいして荷物がなかっちゃね。明彦はウィスキーを飲んどった。


「朝酒ですか?」と直美さん。

「荷物になるから、飲んじゃわないとね」

「私もいただけます?」と直美さん。濡れた髪の毛が艶っぽか。明彦がグラスに酒を注ごうとすると「口移しで」って言う。ちょっとぉ、それも抜け駆けやろ?まったりキスしだしたけん、「直美さん、ずるかよ。私も」と直美さんを横に押して、私もキスしてやった。あれ?朝酒、おいしかやん。


 明彦もシャワーを浴びてさっぱりした。直美さんが部屋にあるサービスのコーヒーを淹れてくれた。なんや、大人の雰囲気やね。これはええわ。見習います。


 明彦が関空から小倉までどうやって帰るん?と聞いた。う~ん?


「フェリーは大阪南港まで戻らないといけない。乗り換えがあまりないルートだと、JR関西空港線で新大阪まで行って、新幹線で小倉駅まで行くのが一番カンタンで楽だよ」と言う。

「あ!それにします」と私と直美さん。

「私のシンガ行きの便のDepatureが11時だから・・・12:14分発の特急はるか22号で新大阪まで行って、13:05分新大阪着になる。13:18分の山陽新幹線さくら583号で博多駅着が15:57分。これが最短だね」とiPadの画面を見せた。あら?結構早かね?


 彼が部屋の電話でフロントに連絡して、チケットをホテルに取ってもらった。直美さんが「明彦、おいくらですか?」と聞いた。「ホテルの支払いと一緒にしたよ」


「悪かね。私、払います。ミキちゃんの分も」

「私たちのビジネスが成功したら数倍にして返してもらおうね」

「え~」

「出世払いということで」

「あ!私、今、私の体で払います!」と私。直美さんに頭をポカリされた。

「乗り遅れるやろ?体で払うのは、また今度よ」と言われた。確かに、仰るとおりやね。


 7時にラウンジに行くとビュッフェの用意が出来とった。小倉の漫画喫茶の近くで食べるファストフードとは違ね?お寿司も天ぷらもお稲荷さんも朝からあるのは感激や。私がバクバク食べるのを直美さんが呆れて見よる。あら?普段は直美さんだって同じやろ?


 チェックアウトして、大阪駅(梅田)まではリーガロイヤルホテルのシャトルバスで向かった。駅から関空まではリムジンバスで1時間ちょっとやった。梅田から空港まで阪神高速湾岸線を通る。


 第一ターミナルのチェックインカウンターで明彦がボーディングパスを受け取った。成田や羽田、福岡と違って、丸屋根がまっすぐの関空の本館ビルには展望台がなか。チェッ。キョロキョロしよると、おおお!あの柱の陰なら人から見えんぞ!私は、二人の手を引っ張った。「どこ行くんよ」と直美さんが言う。「ええけん、ええけん」


「ほら、この柱の陰ならひと目につかへんよ。キスしよ!直美さん、先にしていいよ」と言う。照れるな、二人とも。私も!ネットリ舌を絡めてやった。へへへ。


 時間になって、明彦が本館三階の出国審査場に行った。振り返って手を振る。バイバイ。あ~、なんて3日間やったっちゃろ?


「行っちゃったね・・・」と直美さんがポツリと言う。

「うん」と私。

「季節外れのサンタクロース」

「彼、そうやったかもしれんね」


「さあ、小倉に戻ろうか?」

「うん・・・なんや、寂しかね」

「いいえ、私たち、やることがあるやろ?」

「そうやね・・・ねえ、直美さん?」

「なん?」

「彼がいない間、寂しくなっても、私がおるけん、なぐさめてあげるよ」

「あなた、レズやないって言うとったやろ?」

「レズって、対象は女性全般やろ?私は、直美さん限定の同性愛やよ。目覚めてしもうた」

「やれやれ」


「あ!そうや!小倉に帰ったらまず一番にすること!」

「何?」

「一番に、私もそうやけど、産婦人科に行って、アフターピルを処方してもらわんと!ねえ、0.01ミリ、余っちゃったよ!」

「あ!そうやった!ミキちゃんは安全日って言うとったね?私、超危険日やん!!」

「直美さん、ビジネス始めるのに妊娠したら困るやろ?」

「ハハハ、そりゃそうや・・・ねえ、でも、妊娠してたら、彼、責任取ってくれると思う?」

「ダメ!子供で第一夫人の座を奪おうとしても!」

「どっかの政党のおばさんが言うとったやろ?二番じゃダメなんですかって。年上に譲りなさい!」

「そういう問題?」

「そうや!」


「ところでさ、彼の会社ってなんやろ?」

「あれ?名刺、もらったやね。よう見んかったっちゃ。電話番号書いてくれたし、私のスマホに電話したんで、変な人やないと信じてしもうたんや」

「ちゃんとした会社員って言うとったやろ?」

「だって、スリランカからの出張やて聞いたもん。てっきり一部上場かなんかの会社員と思いこんどったけど・・・」

「もらった名刺、持っとる?」

「お財布にしまった。ちょっと待ってね・・・え~っと、これやな・・・え?え?え?」


「何なん?見せてよ」

「・・・うん、これ」

「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こくら物語 Ⅰ (物語シリーズ③)新装版 ✿モンテ✣クリスト✿ @Sri_Lanka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ