緑の匂い
@kaoru0829
1巻該当
たぶんだけど最初のつまづきは、幼稚園生の頃とかだったと思う。別にそんな派手な転び方をした訳でもなく、少し擦りむいたぐらいのようなものだった。ただ、他の人だったら転ばないような何でもない所でつまづく事が多く、その度に心配されたりする事も多かったきがする。いや、実際そうだった。今もぼくは色んなことがヘタクソだなといつも思う。
※
「やべーもう溶けてきたわ」
「最近暑いもんね」
六月の朝、ぼくらはいつも通り一緒に学校へ向かっていた。今日は暑いしアイス食べながら行こうぜと涼介の提案で道中コンビニに寄ってソフトクリームを買って食べながら登校していた。
「まじでそれな。もう俺は家に帰りたいけどな。というか、瑞樹はまだセーターなんて着てるんだ。汗出て不快じゃないのか?」
「いや全然暑くないよ。それよりも半袖のシャツって腕出ちゃうじゃん?あんまり落ち着かないからそっちの方が嫌かな。あと、意外にもウチんとこのセーターてペラペラだから暑くないんだよ」
生地の薄さを強調するために、セーターの袖を摘んで涼介に見せつけるように少しビヨンと伸ばしてみせた。
「瑞樹って普段から長袖の服だったり何か羽織ってたりする事多いのか。だから昔から腕もだけど全体的に白いんだな。見た目もだけど本当に女みたいだよな。ちくしょー綺麗で羨ましいぜ」
「そんな言うほどじゃないよ。なんか涼介って意外とよく見てるよね、なんか恥ずかしいな。でもまあ、それはあんまり関係ないんじゃないのかな。一応日焼け止め塗ってるしそっちのお陰なんじゃないのかな、お母さんも白いし遺伝とかなんじゃないかな」
精一杯、ふっと笑いながら一言目を口にする事は出来たけど、徐々に涼介に言われた事でなぜか恥ずかしくなってしまい、そのちょっとした動揺や焦りを悟られたくない一心で話の本筋とは関係ない細部の事について、捲し立てるようにペラペラと早口になって話してしまった。そっか、そう見えてるんだ。
「意外は余計な。俺は全てを見通せるからな」
「はいはい」
「写輪眼!」
「うわ、こっち見んな。というか千里眼じゃないんだ」
いつも通りの、「何て事もない」会話をしながら学校へのんびりと向かっていた。道中の景色は四月までの茶色が多く、桜並木のお陰で薄いピンクが所々広がっていた景色から、陽射しも強くなってきて景色一面が濃く鮮やかな緑色になっていた。それこそ深緑の季節といった頃合いだ。風が吹くと、それに乗ってどこからか青い匂いがやってくる。ぼくは初夏の時期が一番好きだ、八月の真夏程の暑さやジメジメとした湿気もなく比較的過ごしやすい上に、太陽の光が強く辺りが明るいお陰で、これからの時期に何か良い事が起きるのではないかという、どこから湧いてきたのかよく分からない特に裏付けもされていない期待感が強くなる。だから六月は一番好きだ。
※
他愛の無いやりとりをしながら景色を眺めつつ、一緒に買ったソフトクリームを食べ終えた頃には学校の昇降口に到着していた。廊下の向こう側から生徒が会話をしている声が聞こえてきたり、靴箱を閉めた時のガシャんという金属音が鳴り響いていたりして、学校はもう既に起きていた。
「そういえばさ瑞樹って横山の宿題やったか?」
「ん?」と返事をしながら涼介の方を振り向いた。さっきまで暑いって言いながら歩いてからなのか首に汗が伝っているのが見えた。涼介の程よく陽に焼けた首は全体的に汗ばんでいてた。暑そうだなー。あれっ涼介ってこんなに喉仏出てたっけ。いやいや、そんなどうでも良い事はいいんだよ。英語の宿題の事か…
横山とはぼくらのクラスの英語の授業を担当している先生の名前だ。まだウチに赴任してから二年目ぐらいの若い先生だけど、授業態度や提出物にはかなり厳しくて、クラスのみんなや横山先生が受け持ってる他のクラスの人達からも総じて評判が悪い。一学期が始まって間もない頃、まだどんな人かよく分かっていなかった時に、相手が若い先生だからなのもあってから「舐めた態度」で受けた生徒が居て、もちろん授業中にしっかり怒られたんだけど、その際に教卓を蹴り飛ばされて意味もない書き取りみたいな宿題を放課後に教職員室に連れてかれてずっとやらされてたという話がある。ちなみにその生徒は同じバスケ部の亀田で確かにしばらく部活の練習で見かけなかった時期がある。そういった先生だから大抵の人は彼の授業となると血相を変えて宿題や授業に臨んでいる。
「え、なんで?あ、もしかして」
「いやーそうなんだよ。和訳のやつ全然やってなくてさ、授業中に当てられたら絶対殺されるんだよね」
やっぱりだった。こういうところ相変わらずだなーって思う。妙にタフといか、普段から何とかなるだろって思ってる雰囲気が滲んでいる感じ。ぼくからしたらおかしくて、涼介の発言と、それでもケラケラ笑ってる様子に思わずこちらも笑ってしまった。
「しょうがないなー」
もう決まり文句になってしまった言葉を吐きながら、鞄の中をゴソゴソと探して英語の予習用のノートを取り出して、涼介にポンと渡す。
「いやもう本当にいつも助かります。何かして欲しい事はございますでしょうか?」
「ノート見せるぐらいだし別に良いよ」
「それじゃあ俺の気分が悪い、何か対価を払わせてくれ」
「じゃあジュース買ってきて、いつもの」
「え、そんなんでいいのか?」
「それだったらおあいこでしょ?」
「あれっすよね、500mlのミルクティーでいいんすよね。3秒で買ってきやすよパイセン」
ぼくがいつも飲んでる午後の紅茶のミルクティーは食堂のような教室以外の施設を押し込んだ棟の自販機にしか売っていないなくて、休み時間に教室から出たくなった時に一人で散歩ついでに買いに行っている。この棟は休み時間だと基本的にはあまり生徒の往来は無く静まり返っておりそこを歩いてると学校という空間から切り離された感覚になるから、その時間が好きだったりする。
「なんなの…」
もう今どきこんな不良なんて絶滅しただろといツッコミを心の中で思いつつ、ワザと嫌がる表情をしてみせた。
「行ってくるわ。いや本当にありがとうな。瑞樹!まじで愛してる!」
「えっ、ちょっ」
大きい声でそう言いながら自販機がある方へ涼介は小走りに駆け出していった。「また後でね」と言おうとした矢先に、冗談なのは分かってるけど、周りにも聞こえるぐらいの声量で心臓に悪いセリフを吐きながら去っていってしまった。
「なんなの…本当にさ…」
そう言って僕は一足先に足取りも軽く教室に向かった。
※
「やっぱあちい」
やっぱこの時期にもなってくると廊下でもちょっと暑いな。俺は長袖のシャツの腕を捲りながら学校の購買横にあるコピー機に向かっていた。さっき瑞樹から借りた英語のノートを印刷するためだ。ここ最近ずっとあいつに宿題だったりちょっとした事の借りを作りすぎているからマジで申し訳ない上に頭が上がらない。それなのにふざけて小言は言ってくるけど何だかんだいって頼み事は断らないし良いやつすぎるだろ。あいつの前だと自分のいい加減さが嫌になってくる。まあ少しだけだけど。おっ、流石に朝のギリギリの時間なのもあって並んでる人は居ないな、ササっとコピッて教室に行こう。
「えーと10円玉は。うわまじか1000円札かないじゃん」
1000円って一回崩しちゃうとそこから一瞬で無くなるから崩したくないんだよな。瑞樹と一緒に来てれば今だけ立て替えてもらう事も出来たな。いや流石にノートも借りといてそれは流石に駄目だろ。いやー我ながら段取りが悪いというか計画性が無さすぎる。こういった小さな躓きみたいのが積み重なってくると腹ん中を何かにかまれたかのような不快な感覚が内側から湧き上がってくる。仕方ないから購買のおばちゃんに両替してもらうか。俺はコピー機のすぐ横にある売店のカウンターにスライドした。
「すいませーん。ちょっとコピー機使いたくて小銭が欲しいんですけど、この1000円崩してもらうことって出来ますか…?」
「あっ全然いいわよー。あれっ今日はいつもの子は一緒じゃないのね」
このおばちゃん、こんだけ生徒がいて学校の教員でもないのに一々生徒の顔とか良く覚えてるよなとはいつも思う。まあ瑞樹の顔が目立つからってのもあるか。いや、それだけじゃないな。あいつはこんな感じにほぼ知らない人に話しかけられてもそれとなく「良い具合」に会話ができてしまう柔らかさがある。そういった人の良さがあるから人に目をかけてもらえるんだなと一人で瑞樹の性格を勝手に分析をしては納得をしていた。
「そうっすね。あいつは先に教室に行ってさっきまでいたんですけどね」
「あらそうなのーいつも一緒に居る所ばっか見かけたからねー」
「はは。まあ確かにいつも付き合ってもらってる気しますね」
「はい、とりあえず100円にしたけどこれで良さそ?」
「あーもう全然大丈夫です。ありがとうございます」
俺はいつもより無駄に声を大きくして感謝をした。声の大きさだけは自信はあるし、サッカー部で無駄に張り上げさせられてない。よし、今度こそコピーできるぞ。俺はわざわざ両替してもらって手に入れた硬貨を投入口に入れる。ガシャンガシャンと思った以上に大きい音が静かな廊下に鳴り響いた。
「よし、あと10分ぐらいは余裕あるな」
コピーした紙を瑞樹から借りたノートに挟んで俺は教室に向かっている途中で自販機を見かけた。そういえばこっちの方にも自販機ってあったんだな。瑞樹がいつも飲んでるミルクティーが並んでた。あいつジュースっていったら本当にこれしか飲まないんだよな…。ノートのお礼にも1本買っていってチャラにしてもらおう、いやさすがに釣り合わないか。自分の矮小な企みに呆れながらお金を入れて午後ティーのボタンを押した。ガシャンと飲み物が落ちてくる大きな音が鳴り響いた。やっぱり人が誰も居ないから少しの音でも目立つ。落ちてきたボトルを拾い上げ左手にノート、右手に午後ティーを携えて俺らの教室がある棟に向かって小走りで向かった
※
(後で挿入)
「えっっ?」
首筋に急に冷たいものが当たった。自分の中に居たせいか本当に不意打ちで喰らってしまい、変な声が出た気がする。うわー今のこれ絶対聞かれてるよ。振り返ってあいつの顔をみてみたら「してやったり」と言わんばかりの顔でニヤニヤしている。
「うわウザー」
「そんな言葉使いダメですよ瑞樹くん」
本当に小学生の時からこーゆとこは変わらない。だから落ち着くってのもあるんだと思う。
「はいはいみんな席に着いてー」
ピシャリと開けっぱなしにされてた教室の扉が閉じられた。蜘蛛の子を散らすかのようにクラスのみんなは席に戻り始めた。H Rが始まる。教壇に立つ増田先生は春先までの時と違いパリッとした半袖のワイシャツを着ているけど、くたびれた顔はいつも通りだった。そうだ、H Rも始まっちゃうし今のうちに午後ティー少し飲んどこ。
「瑞樹〜ジュースしまえ〜」
「あっはい」
注意を受けて慌ててしまったせいか一気に飲んでしまった。涼介が買ってきたばかりだからしっかりと冷えていて美味しい。冷えてるジュースって甘さ控えめに感じれてこのぐらいの時が一番好きだったりする。そんな事を涼介に話して「いやそれでも甘すぎないか?」って言われたことを思い出した。
「えー、まずはお知らせというか事務的な話から。だんだん暑くなってきてるから熱中症には気を付けてください。あとこの時期は湿気も多くて弁当が傷みやすくおて毎年保健室に行く生徒がいるので、その辺は注意して下さい。弁当な~良いな~。先生なんて最近はコンビニのおにぎりばっかで――」
増田先生の話を聞き流しながら何となく涼介の方を見てみた。まるで首の骨が折れたかのように前につんのめっていた。もうさっそく寝てるし。涼介の眠気に白旗を上げるあまりの早さに笑いそうになる。
「おい高木ー寝るな寝るな、主任が見に来てたら怒られるの俺なんだから」
あバレてる。てか先生、注意してる理由はやっぱそっちなんだ。まあ増田先生っぽいなと思いつつ視線を前に戻した。
「あと最後に少し気が早い気もしないけどウチら1年は夏休みが終わってすぐ9月に修学旅行があるからそれの班決めとか委員をどうするか頭の片隅にも入れておいてください。まあこんなもんかね。以上」
そっか修学旅行があるってことはその前に夏休みがあるんだった。小説やドラマとかでは何かドラマティックなイベントが起きる煌びやかなものとして描写されてる事が多いし、実際に世間でも一生の思い出に残るものだと言われてて大事に過ごすべきだなんて言われている。けど実際の夏休みはそんな大それたものでもなくて、部活してたり基本的には家でちょっと勉強してはゴロゴロして、たまに友達の家に行ったり駅前のサイゼとかカラオケでいつも通りに遊んでいたら気づいたら新学期が始まってるものだというのも知っている。まあでも何か楽しい事が一つでもあったらいいな。
チャイムが鳴る音が聞こえた。どうやら修学旅行はおろかまだしばらく先の夏休みの事を考えていたらいつの間にかにHRの時間が終わっていたっぽい。辺りに段々と雑談の声が増えてきて賑やかになってきた。次は英語だし宿題にもなってたとこの和訳でも読み返しておこうかな…
「おはよ!修学旅行だってよ。俺らの代ってどこ行くんだろうな」
早速声をかけてきたのは海斗だった。やっぱり元気だなー。なんでかめっちゃ笑顔だし何か良い事でもあったのかな、いやいつもこんな調子か。海斗を見てるとこっちまで顔が綻んでくる。
「うーん多分毎年と同じように京都とかなんじゃない?」
「えー俺ワイハーとか行きてーよ」
「ははっ。確かにせっかくだったら海外とか行かせてくれても良いのにね」
でも修学旅行としてハワイに行くとなるとどういった建前で行くことになるんだろう。やっぱり歴史とか文化の学習としてなのかな。
「おっす瑞樹、海斗。聞いたか?修学旅行だってよ少しテンション上がってきたわ」
ここにももう一人気が早い人が居た。けっこうみんな修学旅行を楽しみにしてたっぽい。僕も楽しみにしてるイベントだけど、泊まりの行事は個人的に気乗りしない部分もある。まあその前に夏休みとかあって大分後の事のように思ってしまうのがでかい。
「二人とも気早すぎない」
二人して早速修学旅行の話に食いついたのが面白くて笑いながらそう言った。
「瑞樹は俺らとの修学旅行は楽しみじゃないのかよ」
「いやいやそんな事は言ってないし、もちろん楽しみだよ。ただ早速すぎるなって」
「なんか俺らが言わせてるみたいじゃんか!」
「本心だって。あっそうだ同じ班になろうよ。実際の班決めの話が出てくるのは夏休み明けとかだと思うけど」
「そりゃもうそのつもりよ」
「瑞樹ちゃんは他の奴らに渡すつもりなんてないぞ!」
「いつから僕、海斗の所有物になってたのさ。てかいいんだ、ありがとう。」
「逆に俺らがダメって言う訳ないだろ。なんか瑞樹って気を遣ってるのか変に自身無くなる時あるよな」
正直こういった事を聞けてすごい嬉しかった。そりゃ楽しみにしているイベントを一緒に過ごしたい人と楽しみにしたいと思ってる。だから同じ班になりたいんだけど、なぜかその誘いを海斗達にするのが憚られてしまう。涼介は特にだ。
「じゃあ決まりだな」
「うん」
「おっ、なんか楽しみにしてそうな顔じゃん。俺の気のせいか?」
「まあそこそこ、ね」
緩んだ表情を見られるのがどこか恥ずかしく思えてきて、教室の窓の方によそ見した。ペンキでべた塗りでもしたかのような青空だった。それなりに鋭い光がガラス越しに差し込んでいた。どうやらもう夏らしい。
※
夕方。今日の目的は服の買い物だったけど、普段生活している町とは全く異なった空気と人間が生活をしている土地で一日を過ごせただけでも凄い頭の中がスッとした気分になった。
「お姉ちゃん今日ありがと」
「たまにだけだからな。今の姿知り合いに見られたらやばいのは瑞樹なんだからとっとと帰るぞ」
「そこら辺もありがと」
「はいはい。ほら小走り小走り」
お姉ちゃんはわざとらしく両脚を交互に上げて走る真似をした。
「そう言ったってこの靴めっちゃ走りづらいし、てか服的にも…」
そう、ぼくは今日
「あんたその発言なに、清楚系?私なんかよりもよっぽど女の子やれるって」
「ちがうよ。本当に走りづらいんだって」
「あいよ。どっちでも良いけど早く帰るよ。お母さんたち今家空けてるんんだからご飯とか作らないとだし」
「それもそうだね。お姉ちゃんなんか食べたいのある?」
「助かるわー、ほんとウチの弟天使すぎ。てか昨日の残りとかでいいからねマジで」
この姉は思ってない言葉をペラペラと並べるのは相変わらず得意みたいだ。
「はいはい。じゃあやる気があったら作るよ」
「それ作らないやつじゃん」
他愛の無いどこにでもいる姉弟の会話をしていた。そうしたら急にお姉ちゃんがアッ!と言い出して会話の流れが完全に断ち切られた
「瑞樹、ちょっとあれあれ、よく見てみい。あっこの自転車漕いでるのウチの高校の子じゃないの?」
「あほんとだ」
ウチの生徒は良くも悪くも目立つ。まずその理由の一つが制服だ。そもそもこの辺りに高校の数なんて 大して無い上に、どこの高校も男子は真っ黒な学ラン、女子は白と紺のセーラー服でいかにもなよくある制服を採用している。それと比較してぼくが通っている高校である佐倉ヶ丘は私立だからなのかは分からないけど、少し気取っていて、男女は共通してブレザーで男子はチェック柄のスラックスで女子は同じ柄のスカートだ、更に言うとブレザーの色が大分明るめの紺色、というかほぼ青に近い色をしていて全体的にどこか小洒落た感じがする。なんだろうな、色は違うけどイケパラみたいな学園ドラマの生徒役が着てそうな感じ。だけど、この辺の高校の制服は味気ないからなのか、特に女子からは人気が高くて、それが理由でウチを受けたという子もいるぐらいだ。かくいうぼくも受験校を選ぶ際に制服が学ランではない所をまず選んだから、消去法的ではあるけど制服のデザインで選んだみたいなところはある。
「知り合いだったらまずいんじゃないの」
「そうだね。学校は行けなくなるね」
「なんでそんな落ち着いてるのよ」
「もし知り合い程度だったらワザワザ声なんてかけてこないでしょ。仮に見かけたその一瞬は、ぼくに似てる人が歩いてるなって思っても、どうせ少し時間が経ったら記憶になんて残らないよ。ましてやこんな格好、普段のぼくがしているとは想像つかないだろうし。だからぼくが女の子の格好して歩いているという認識にはならないはず。大体の人なんてそんなもんじゃない?」
ぼくはわざとらしく得意げな表情をしながら、聞かれた理由を理屈っぽく言ってみた。
「はいはいスゴイスゴイさすが学年の秀才君は一味ちゃいますわー。というかお前はたまにドライな感じ出してくるよな」
「冷たいってこと?そんな事は無いと思うよ、さすがに」
「どうだか」
遠目からボヤけて見えてたウチの生徒と思われる生徒のシルエットは会話をしていく内にハッキリとしたものになってきてた。
「あ。終わったかも」
「え今なんて言った?」
息を殺す、は言い過ぎかもしれないけど流石に声が小さすぎた。さっきまで「どうせ知り合い程度でしょ」って言ってタカを括っていたからなのか自分が一番望まない状況になってしまった。なぜなら、涼介は知り合いとか飛び越えて、小学生の頃からお互いの顔なんてよく見知っていて今でもほぼ毎日一緒に登校をして学校ではずっと共に生活をしている親友、というか幼馴染というやつだ。もし涼介が気づいて何か声をかけたりしてこなかったら少女マンガとかの主人公狙えるぐらいには超鈍感系という事になる。うーん、それはちょっとありえそうなんだよな。でもあいつは案外気が回るやつだったりするから、敢えて気づいていないフリしてスルーというのも考えられるなあ…。あーヤバいヤバい、焦ってマトモに何かを考えるってのができなくなってるよ。自分の状況は俯瞰できる癖に頭は動いてくれない、この良くない精神状況をもう一つか二つ段階を上げたら所謂パニックって言うんだろうなあ。よくドキドキだとか心臓の鼓動が聞こえるぐらいに早くなったりする描写が漫画だと良く見かけるけど現実はそんな事はない。ただただ血の気が引く、これが的確だ。外は夕方とはいえ、初夏なのでそれなりの暑さは残っている筈なのに全身、特に指先がちっとも熱を帯びておらず冷え切っているように感じる。さらに、交感神経が優位になって変なホルモンがドッと出ているのか、脇汗が凄い滲み出てきている。いや、だから外側から自分の状況を眺めてる場合じゃないんだって。神様、本当にごめんなさい。これからは普通に生きていくので今回ばかりは助けてください。ヤバい、涼介がこっちに来てる。本当にどうすればいいの?
「あっどうもこんちわ。瑞樹のお姉さんですよね、なんだか久しぶりな感じっすね」
「こちらこそ涼介君と会って話すのは久しぶりね」
「今日はどこか出かけてたんですか」
(お姉ちゃん、お願いだ。何とか上手く誤魔化して!)
絶対に顔を見られてはいけない上に声も出せないので、ずっと俯きながら横の方へ念を送りまくった。
「今日家に友達が遊びにきてくれててね。で、今はその娘の見送り」
ありがとうお姉ちゃん。嬉しいんだけど、こっちにも注意が向かってくると思うんだよ… 「どうりで、2人とも服の気合い入ってるんすね」
良かった、直接話しかけてはこなかった。でもさっきからこっちを見ている気がする。気のせいであって欲しい。目の前にいてずっと無視をするのもかえって変に思われると思ったので、とりあえず少し笑いながら会釈をした。相当ぎこちないと思う。そうしたら、し返してくれた上に先までの不思議そうな表情が涼介の顔から消えていた。よし、大丈夫だったのかな…?
「それじゃ俺はそろそろ帰ります」
ガチャンと自転車のスタンドを上げる音が鳴った。この場が早く終わって欲しいぼくにとってこの音はまるで試合終了のブザーのような一種の安堵を覚える音のように思えた。
「それじゃまた明日な。あいや、また学校で見かけたら声かけます」
え、今なんて言った…?ただの涼介の優しさだったてこと?茶番じゃん。というか明日からどんな顔で話せば良いのさ、というか会える訳ないじゃん。世間から見たらこんなの休みの日に女装して外を出歩いてる変態野郎とだよ。一生口聞いてくれないでしょ。というか、この事を仮に涼介が他の彩音とか海斗とかみんなに話でもしたら、それこそ人生オワリってやつなんじゃないの?いや、涼介は流石にそんな事はしないか、冷静になれよ。ええと何をすればいいん…
「とりあえず帰ろ、瑞樹あんた顔やばいよ」
「そう、だね…」
いつもより早く、少し荒々しく玄関のドアを閉めることしかその時のぼくにはできなかった。その日は鍵を閉める音が大きく聞こえた。そうでもしないと、このぐちゃぐちゃとしたかき混ぜられてしまった頭の中を整理することができないから。
憶えているのは自分を守るための涼介への言い訳だけはたくさんと浮かんでいた事だ。偶然出会った路地から家までの道のりは非常に長かった。怠くて、悲しくて、怖くて。何が怖いのかは分からないけど、いや、そもそもこれが恐怖なのかぼくには判断ができないけれど、まさに心にポッカリと穴が開いたようような気分だった。
ただ、分かることが一つある。それは、ぼくはまたしても間違えてしまったという事だ。できる事なら神様、ぼくを消して下さい。
※
「学校に行きたくない。というか涼介に会いたくない。あーくそ…」
人には多かれ少なかれ秘密というのはあると思っている。それはもちろんぼくにも当てはまる。その知られたくない秘密を他人に知られたら?ましてやずっと近くにいた友人、更には…いや、それはいいや。ともかく自分の事をよく知る人間に軽蔑され得るような姿を知られてしまったら?そういう状況に陥った時、先人達はどうやってやり過ごしてきたのだろう。夕方のあの思い出したくもない出来事があった時間から数時間は経って、普通の人だったら寝る時間であろう深夜の一時になってもぼくの頭の中はパニック状態がまだ解けていなかった。冷静な思考なんてものは出来ていなくて、「ベランダからダイブしたら楽かな…」とか考えたり、学校の退学の手続きの方法を調べるなどと、極端な選択肢しか頭に浮かんでこないという有り様だった。とりあえず先人の知恵を借りようと思ってネットで「友達に女装がバレた」と、自嘲気味に検索をかけ、某知恵袋掲示板やぼくみたいな人のブログを見つけて読み耽っていた。結果をいうと、全くもって参考にならなかった。「そんなのやる前から分かる事だろ」と言われたらそれまでしれないけど、今のぼくにとっては藁にも縋る思いだったのだ。友達に何かの拍子でバレてしまったけど、意外にもその友人が寛容で特に大事には至らなかったというケースもある一方で、バレてしまった際に、相手が咄嗟の反応だったからなのもあって、拒絶の言葉を吐かれてしまい、それ以来その友人とは疎遠になってしまったという過去の体験談を綴ったブログもあった。こればっかりは当事者とその知人、さらにはそこの関係性に依存するものだからこれ以上調べても調べても意味が無いなと思ったので、ネットで色々調べるのを切り上げた。
「もし次涼介に会った時になんて言い訳をしようかな。それとも今日の事は何も無かったかのように話せばいいのかな」
ぼくは強くない。だから、本当の事を話して拒絶の言葉を直接吐かれるて傷つくんだったら嘘をついて、その嘘を貫いてやる。そっちの辛さの方が幾分痛くない。結果的に嘘吐きだと思われて涼介から信用を失って、関係が切れてしまったとしても自分の秘密を教えて変に思われるよりもマシだと感じてしまう。それぐらい自分の根幹に関わる事なのだ。その根幹を否定されでもしたら、それこそ最悪の結果である。だからそれ以外の事なんて痛いのは変わりないけど何て事も無い、その程度は痛みじゃない。
※
憂鬱な月曜日の朝、結局ぼくは学校をサボってしまった。この暗澹とした気分はもちろん、休み明けに学校に行かなければならないからという訳では無い。涼介を含め、とにかく人に会いたくない。人が恐くなってしまった。そんな事は無いと頭では理解しているつもりだし、涼介の事を信用してない訳でも決してないけど、何かの拍子で、例えば相談という体で、彼が数日前の出来事と普段からは乖離したぼくの姿をクラスの誰かに話をしてしまったのではないかと考えただけで学校へ向かう足がすくんでしまった。こんな事は初めてだ。おそらく人生で初めてのズル休みだ。ただ、普通の休みと違ってぼくは家には居なかった。なぜなら、普段の朝と同じように制服に着替え、ぼくよりも家を出るのが遅い姉には「先に学校行ってるよ」と言って玄関を後にしてしまったからである。なので姉はいつも通り自転車で最寄り駅に向かって、そこから電車に乗って学校へ向かってるものだと疑いもしないだろう。
「今って何時なんだろう」
ポケットからiPhoneを取り出してロック画面を開いた。デジタル時計には8:50と書かれていた。その下には涼介や彩音からのLINEの緑色のバナー通知が来ているのが見えた。敢えてぼくはそれを無視してiPhoneの電源ボタンを押した。今頃、増田先生のやる気のない業務連絡みたいなHRが終わって教室がぼちぼち賑やかになってきたぐらいなのかな。涼介は何してるんだろうな。みんなは今頃どんな話をしてるんだろう。あっ、ダメだ、気分が悪くなってきた。「学校のみんな」の事を考え始めた途端に頭が熱くなり、まるで何かの回路が焼き切れて思考がショートする感覚がした。それと同時にその場で立ちすくみそうになった。
「いやいや何も考えるなよ、学校をサボってまでする事じゃないでしょ」
自分に言い聞かせ、宥めるように心の中で言葉を発した。
ぼくはいま、普段乗っている電車とはまったく逆方面の上り方面の電車に乗っていた。車窓から見える景色は、始めは空が広く、辺りは緑色だった景色から。
※
今日の朝もぼくは学校に行くのを躊躇っていたけど、さすがに休みすぎるとクラスの友達や先生にも何か大事があったのかと思われるのも嫌だったし、正当な理由が無いのに学校を休むという選択肢を取るというのが常態化してしまう気がしたからだ。それをぼくは不健全だと思っている。もしそうなってしまったら、そう意味でも学校の人達はぼくの事を心配すると思う。だから、ぼくはいつも通りの時間に起きていつもと同じワイシャツに腕を通し、スラックスを履いた。今まで通りの朝だった。
「おっす。風邪はもう大丈夫なん?」
教室に入って荷物を置いてひと息ついていたら、涼介がぼくの席にやってきて、そう言った。朝イチに他人の体調を気にしてくれるなんて、やっぱり良いヤツなんだなとシミジミと思った。ただ、別にぼくは風邪なんて引いてもいないし、学校をズル休みをして遠くの街でフラフラしていた。そんな事は言える訳がない。この間の件から、涼介はぼくの事をどこまで知っているんだろう。願わくば何も気付いてないし、知らないでいて欲しいよ。いや、それは人を侮りすぎというものか。
「うん、大丈夫だよ。ありがと」
ぼくはここの数日間何事も無かったかのような顔つきで涼介の方を見て、そう言った。
「それは良かった良かった。LINE送っても全然既読が付かなかったからさ、寝込んでるのかなと」
罪悪感が凄い。後ろめたい気持ちになっているところに真っ直ぐな感情に触れるとそれが際立つ。
「そういえばさ、一カ月もしない内にはもう期末考査があるじゃん。それで、田口が勉強を教えて欲しいって話を昨日してたんだよ」
「あー確かにそうだね。彩音って確か、これ以上赤点スレスレみたいな点数とってたら顧問に部活停止令出されるみたいな事言ってたね」
「女テニはやっぱ厳しいんだなー。にしても田口は何してんねんというか、流石というか」
「彩音らしいよね」
まるで、しょうがない奴だなーと言わんばかりに涼介は笑っていた。
「それで早速なんだけど、今日の放課後にでもどこかで勉強会をしないか?って話を昨日してたんだよな。瑞樹も来ないか?」
「えーと、それってぼくが行っていいやつなの?」
「いやいやいや、何でだよ。そら当たり前だろ」
前から涼介は彩音に気があるみたいな事を本人の口から定期的に聞いていたから、涼介的には絶好の機会だと思ったんだけど…。でもまあ、本人がそう言うなら今回に関してはお節介ってやつなのかな。
「行こっかな」
「よーっし、そうこないと」
「後で彩音にも言わないとだね」
「別に今でもいんじゃね。おーい田口ー」
同じクラスの由季の席に腰をかけてか、彼女と楽しげに話をしている彩音が見えた。いつ見ても彩音から黄色い雰囲気が滲んでいる様に見えた。涼介がそこに割り込む形で声をかけにいった。邪推しすぎなのかもしれないけど、ぼくもあそこまで積極的になれたらなって、羨しくも思った。ぼくも涼介の後をついていくように彩音達が居る所へ足を運んだ。
「おっす田口。急に話してるところごめん。この間の勉強会の話なんだけどさ…」
「あ覚えててくれたんだ。それで、どうしたの?」
「実は瑞樹にも声かけたんだけどさ、良かったか? いや、何というか教えてくれそうな人が多いといいかなって思ってさ」
「えっ瑞樹君も来るの!?」
「あ、ダメだったか?」
「いや、そうじゃないんだけどね… なんてか、そう!急な感じだったからさ!」
「まあいーか。だそうだとよ瑞樹」
「てことで、ぼくも参加することになったけど。よろしくね」
「うわあ。瑞樹君ごめん、あたしがアホすぎるばっかりに。てか病み上がりでしょ? それこそ本当に申し訳ないよー」
「アホとは思ってないけど、彩音はもう少し勉強した方がいいよ…。風邪の方は大丈夫、気にしないで。それで今日はどこでやるの?」
また体調の心配をされてしまった。やっぱり嘘を吐くのは心苦しいな。こういった時に自分が自分に対する認識と他者からの認識のズレがそれなりにあるんだって感じる。自分なんてって思っていても周りの人は自分が思っている以上に放っておいてくれない。それは一般的にはとても幸せな事であるのは間違いないのだとは思うけど、今のままのぼくでは、偶に息苦しいと思ってしまうときもある。もちろん、これは自分の胸の中だけに留めておくべき事だというのは理解してる。
「そんな、瑞樹君に真面目に諭されちゃったよ。うーんどうしよっかね。最寄り駅にあるジョナサンはどう?」
「いいと思うよ。そこだったたら、学校終わってそのままみんなで行けるし」
「オッケー、決まりね。でもごめん、私ちょっとお家に帰ってから合流でもいいかな?」
「了解。じゃあ涼介とぼくで先に何かしてるね」
何か家に置いてきたとか、家でのちょっとした野暮用なのかな?別に彩音の家だったら学校の最寄駅まで大した時間じゃないだろうし、ぼくは「まあ、そうなんだ」と流した。
「田口何か忘れ物とかか? 参考書とかだったら俺の全然使ってもいいけど」
「まあ色々あるのー。高木は細かい事いちいち突っ込んで聞いたりしない。だからモテないんだよ」
「いやいや、今それは関係ないだろ」
痛恨の一撃と言わんばかりのダメージを負っているのが見て取るように分かった。ぼくなんかよりも背も体も大きい涼介が今だけ小さくなっているように見えた。
「逆に、そういうところが好きな子も居るとは思うけどね。期待しない事だよ〜」
不意にぼくは目線を二人が映らない方へ目線を逸らした。廊下には次の授業で使う教科書をロッカーから取り出したりして準備をしている生徒の姿があった。丁度いいやと思い、
「ちょっとぼくロッカーから教科書取ってくるよ。放課後はジョナサンね。了解です!」
大して意味の無いサムズアップをして、そそくさとその場からぼくは離れた。
「瑞樹行っちゃったな」
「ねっ」
「いいのか?」
「何がだし」
「いいや、何でも」
「うざー」
そんなこんなんで企画された勉強会。この間の事がまるで無かったかのように涼介とはいつも通りに話せた気はするけど。本当のところは何も手触りがない。彩音は今日遅れてくるっぽいし、その時に勢いで聞いてみようかな。臭いものには何たら
ではないけど、曖昧なままにして目を逸らし続けるのは不健全だ。ぼくは蓋をズラす決心をした。
※(おまけ?)
「あーバスで帰りてえなぁ…」
日曜日、部活の帰り道、俺は最寄り駅の駐輪場で重い体を引きずりながら自転車のサドルにまたがろうとしたところだった。小遣いもさっきのサイゼで大分使っちゃったし、今日バスで帰ったら明日の朝は歩いて駅まで行くことになってしまう。せっかくの休みだってのに部活の練習に駆り出されてしまった。うちの学校はテスト期間が近くなると部活が禁止されるのもあって今週は土曜だけでなく日曜も練習に潰されてしまった。今年度から新しい顧問になって部の雰囲気が引き締まって練習の数も増えて、ちゃんとした部活っぽくなってきた。俺は中学の時みたいなユルユルのやつでいいんだよなあ。俺はいつからこんなけだるけで、本気で取り組む事が出来ない感じになってしまったんだろうか。別に友達だったり他の人の言葉や行動に対して斜に構えた見方をするほど捻くれているとは思わない。ただ疲れるのが嫌なだけだ、心身ともに疲弊なんてしたくない。高校に上がってからの数か月の自分の怠惰さを省みつつ自転車を漕ぎ始めていた。
俺の最寄り駅は駅周辺は飲食店やカラオケだったり買い物が出来そうなお店はある程度揃ってるような規模感の街だ。そういう訳もあってここの辺に土日で遊びにくるウチの生徒も少なくない。月曜前の日曜夜というのもあって人の数は大分少なかったから駅前の駐輪場で自転車に乗ってからはすぐに漕ぎ始めてあっという間に家の近所にまでやってきた。最寄り駅周辺の雰囲気とは打って変わって俺の家の周りは田んぼや畑がチラホラと目について、かといって緑が多い訳でもない中途半端な田舎な様子になってくる。昔から俺は何でこんな所に好き好んで住んでいる人が居るのか分からなかった。ここの人間は田舎の村社会のようにお互いの事を知っておかないと気が済まない上、少しでも変わり者がいれば格好の噂のネタにするような陰湿な印象を俺が小学生とかいう子供の頃からでさえ感じていた。その癖、駅前だけはそこそこに栄えているからなのか一丁前に都会人気取りしている連中もいる、だから俺は昔から早くここから出たいと思っていたから中学に上がるタイミングで何とか市外の学校に行った。
「うわっ」
舗装されてたはずの道路もアスファルトが剥がれかけていてデコボコ道になっていて、そこを無理矢理自転車で通ってしまったから振動でカゴからリュックが落ちてしまった。俺は自転車をその場に停めてリュックを拾い上げた
「まじでうぜー」
疲れた状態でこういったミスをしたから無性に苛立ってきた。一旦軽く深呼吸をしてカゴにリュックを入れ直した。
「よしっ、帰るぞ」
辺りを見渡した後にペダルに足を乗せて再び自転車を漕ぎ始めた。そうした後に2人組の女の子が歩いてるのが見えた。この辺にしては煌びやかというかオシャレな格好をしているからあまりにも周りの景色から浮いていたから嫌でも目についた。
「もしかして片方は瑞樹のお姉さんか?」
瑞樹の顔を普段から見ているから知ってるけど男の俺が言うのもアレだがかなり綺麗な顔立ちをしている。おまけに少し可愛らしい顔立ちをしているから、入学した頃から女子達に少し有名になっていた。端的に言うとモテる。そしてその弟のお姉さんだからもちろんめちゃくちゃ美人だ。正直瑞樹と友達じゃなかったら俺みたいのが仲良く話してもらえる筈の無いレベルで可愛い。同級生とかだったら今頃絶対好きになって少し話しかけてもらえただけで勘違いして告白して振られてる、振られちゃうのかよ俺…。せっかくだし少し挨拶していくか。そうして俺は2人組が歩いてる方に向かった。
「お姉さんこんちわ〜」
少しスピードを緩めながらお姉さん達の後ろから声をかけた。うわ久しぶりに会ったけどやっぱめっちゃ可愛い。てかもう1人の方も美少女だな。2人とも似た服装してるけどあれかな双子コーデってやつか?やべ何か急に声かけたの恥ずかしくなってきた...
あれ?もう1人なんか見覚えあるな、多分お姉さんの友達なんだろうけどあんな雰囲気の人上の学年に居たか?まあいいか
「えっ涼介」
まさかの先に反応したのはお姉さんじゃない方だった。よく聞いた事のある声で知らない彼女に俺は名前を呼ばれたのだ。「え?」思考が止まった。そして不安に近しい感情が湧いてきた。思わず俺は顔を覗き込んでしまった、彼はまるで驚いて声も出ないというような表情をしていた。
緑の匂い @kaoru0829
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。緑の匂いの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます