第42話 双子の勇者、師匠と再会
~前回のあらすじ~
王の腹を探りたいレピからの質問に意味深げな回答を繰り返すグラウムは、クーヤイについて話す途中、彼がリリニシアや子供たちに事実を偽ったと示唆した。
掘り下げようとしたところ、王の元へ報告に向かうデギンズと別れた双子が合流する。
弟子の双子と再会し、グラウムは改めて語らいを求めた。
グラウムの勧めもあり、ヤクノサニユで一泊した後、マキューロに向けて発つことを決めた一行。
後から合流したシェリルとスウォルは、再会したグラウムに、旅での出来事を話した。
出発してまもなく魔物に襲われた時のこと、倒すべき魔物を見定める方針を定めたこと──。
「ふむ、最初は戦えなかったか」
「あぁ。震えちまって立つことも出来なかった」
「ごめん…」
廃村でのレピとの出会いや関所での戦いに魔術増幅、その条件──。
「剣に掛けた魔術が強くなる、か…。昔、マキューロの魔術師と共にハリソノイアと戦っておった時にも同じことをしておったが、消えるどころか強くなるなど…」
「じゃあやっぱり、
リエネとの出会いとユミーナ政治方針、彼女の依頼──。
「そうか、そこで初めて…」
「…はい。私は、命を…」
「姉ちゃん…遅かれ早かれ、ではあるんだけどな」
魔物の首に歓喜するハリソノイアの人々、“強者として喧伝する”ユミーナの策──。
「やはりハリソノイア人はハリソノイア人よの。そのユミーナとやらが変わり者なだけで。じゃが、ひとまずは首尾よく行ったと聞いたぞ」
「後はユミーナ様と陛下との間での話になるってよ」
「何事もなく同盟が成立するといいんですけど…」
帰路の廃村に現れた“ボロガブザリ”について──。
「なんじゃボロガブザリって」
「俺がつけた名前。姉ちゃんはなんて提案したんだっけ?」
「…火ヲモ恐レヌ異端ナル四足ノ獣」
「ダサいし長いわ」
「
「えーっと…レピさん、説明任せていいか?」
涙目のシェリルを他所に、スウォルは小難しい話をレピに丸投げした。
「分かりました。ボロガブザリには六つの特異性が認められました。一つ目が魔物同士の戦闘です」
「魔物同士で?…聞いたことないのぅ」
「二つ目…これはグラウム様と言えど知りえないかとは思いますが念のため。シェリルさんの剣とスウォルくんの盾には、彼らしか触れないのはご存知ですね?」
前置きの後、レピは躊躇いがちに続ける。
「無論じゃ、ワシも若い頃に弾き飛ばされたわ」
「これまで戦ってきた魔物…と言っても三種ですが、どれも盾に触ることは出来ていました。しかしボロガブザリに限り、触れることが出来ず、我々同様に弾き飛ばされていました。なにか思い当たりますか?」
「…それは知りえんのぉ、確かに」
グラウムは眉根を寄せ、困ったように笑いながら、申し訳なさそうに首を横に振った。
「そうでしょうね…。次に三つ目、再生が始まるまでも、始まってからも、その速度が遅かったこと」
「…二つ目もそうじゃが、単に個体差とか種族の差ではないか?」
「かも知れません。ですがこれに関しては、かねてより魔物との戦闘経験があるリエネさんからしても…」
「はい。遅く感じました」
レピの目配せを受け取り、リエネは頷く。
「どの程度掛かったのか分からんからなんとも言えんが…これまで違和感を抱くほど遅いと思ったことはないわ」
「そうですか…。四つ目、死ぬまで引こうともしなかったことについてはどう思われます?」
レピは淡々と質問を続ける。
「…そういうヤツはおらんかったのぅ。魔物とてあくまで生物、命が危うくなれば逃げおった」
「やはり…。五つ目が、
「再生に回す魔力が尽きればそこらの武器でも殺せるが…その前に逃げるはずじゃ」
「てことはやっぱりおかしいですわよね…」
リリニシアは腕を組み、難しい顔で唸った。
「最後に死体が朽ち、崩れ去ってしまったことです」
「朽ちて崩れた、か。それも聞いたことないわい。…というかもう生物じゃなかろう、そんなの。本当に魔物じゃったんか?」
グラウムが気軽に口にした言葉を重く受け止め、レピは顎に手を当てて思案する。
「遅くとも再生していたことは間違いないのですが…なるほど、“魔物ではない”可能性…。考えてもみませんでした」
「いや、冗談じゃぞ?」
軽口を真に受けられ、グラウムは困惑しながら訂正を試みる。
「もちろん承知しています。ですが言われてみれば、“魔物”という概念に厳密な定義がある訳ではありません。“魔物だから”、“魔物なら”という先入観は捨てるべきなのかも知れませんね…」
「…分かっちゃおったが、ゴチャゴチャとややこしい若造じゃのぉ」
ため息をつくグラウムに、リエネも同調した。
「我々も頼ってしまっているのですが…同感です」
「ゴチャゴチャついでにもう一つだけ。グラウム様は、“禁じられた魔法”のことをご存知ではありませんか?」
レピは微笑みを絶やさず、しかし真剣な目で、改めてグラウムに尋ねる。
「…久しいのぉ、その響き」
「知っておられるのですか!」
後から調べたユミーナや、おそらく知っているが偽っているゼオラジム王と異なり、マキューロを出て旅をして初めて得た“知っている”との回答に、レピは大きく身を乗り出した。
「なんじゃ興奮しおって。済まぬが詳しいことはなにも知らぬぞ。ただ聞いたことがある程度よ」
「いつどこで、誰から聞いたか覚えておられませんか!?」
「なぁ怖いんじゃけど。なんじゃこやつ」
これまでと違う様子を見せるレピに困惑し、助けを求めたグラウムに、シェリルは苦笑いで答える。
「レピさん、その“禁じられた魔法”を探す為にマキューロから旅に出たらしくて…」
「探す?探してどうするんじゃ、そんなモノ」
首を捻りながら向き直ったグラウムに、レピは尚も熱弁を振るう。
「目的があって、手段として探すんじゃありません!知りたいから探すんです!見付けることが目的なんですよ!!」
「お、おう…そうか…」
その熱量に圧され、グラウムは顔をひきつらせながら答えた。
「…最後に聞いたのもワシが若い頃、中身については分知らん。“そういう伝説がある”と聞いたくらいか」
「なるほど、伝説…。分かりました、ありがとうございます」
グラウムの口から得られた情報は“知っていた”ということくらいだが、レピは満足げに頷いた。
横で眺めていたスウォルが、両手を頭の上に置き、能天気な声で言う。
「さすが、歳食ってるだけあるなぁ。陛下も知らなかったのにさ」
ほんの僅かに間を開け、グラウムはスウォルの言葉をそのまま繰り返した。
「…陛下が、知らぬとおっしゃったのか?」
「そうだよ。な?姉ちゃん」
「うん、聞いたこともないって」
「…そうか、陛下が」
グラウムは一人、誰に向けるでもなく、小さく呟いた。
「僕から伺いたいことはあらかた。ありがとうございます」
深く頭を垂れ感謝を述べたレピに、グラウムはしっ、しっと追い払うように手を振り、答える。
「大してお力になれず済まぬな、お若いの」
「とんでもない。色々と参考になりました。…さて、リリニシア様」
「わ、ワタクシ?なんですの?」
急に名を挙げられ動揺するリリニシアに、レピは事も無げに続けた。
「一度、お城にご同行いただけますか?」
「どうしてです?」
「馬車、預けっぱなしじゃないですか」
「あ!そうでしたわね、明日まで預かってもらうよう伝えておかないと…」
「いえ、マキューロでは木々が邪魔になり、馬車では動きづらいでしょう。戻るまで預かっていただいた方がよろしいかと」
「そうですの?荷物以外にも見張りの方も移動中に眠れたり、便利だったのですけれど…」
名残惜しそうに唇を噛むリリニシアを、シェリルとスウォルが諌める。
「マキューロから来てるレピさんが言うんだから、聞いておこう?」
「飯は自分でで持てる分だけか。地面で寝る訓練しといてよかったな」
「食事以外の懸念ありませんの…?あ、ついでですわ。どうせ一泊するなら、城使わせてくれって頼んで来ましょうか」
リリニシアの提案にシェリルとスウォルは顔を見合せ──残り少ないかもしれない、師との時間を優先した。。
「俺は
「うん、私も」
「そうですの?まぁ一応、聞くだけ聞いてみますわ。城がいい方だけ移るんでも構いませんし」
幼馴染三人の話がひとまずの決着を見たところで、レピはリエネに視線を投げる。
「リエネさん、護衛として共に来ていただきたいのですが」
「!…いいだろう」
「あ、私たちも行きます」
レピの提案に意図を感じ取ったリエネが迷わずに首を縦に振ると、即座にシェリルも動向を表明したが、リエネがそれを遮る。
「いい、久しぶりにグラウム様とお会いするんだろう?それにお父上のこともある。心身を休めておけ」
「リエネさん…ありがとうございます」
「スウォルもだ。無理して明るく振る舞うのはよせ」
「…分かっちゃうか。甘えさせてもらうよ」
「グラウム様。我々は一度失礼いたします。
リエネは二人に有無を言わさぬ迫力で、しかし優しい声色で言い聞かせると、そのままグラウムに断りを入れた。
「うむ、承知した」
「では参りましょう、リリニシア様」
「かしこまりました。二人とも、また後で」
リリニシアで二人に手を振り、扉に向けて歩き出したところで、その扉が外から開かれた。
「失礼します、グラウム様」
「…デギンズか、ご苦労じゃったの」
~次回予告~
王への報告を終え道場に訪れたデギンズは、久々に会うリリニシアに、次いで初対面のレピ、リエネと挨拶を交わす。
やはりここまでの道中で出会ったヤクノサニユ人同様、特にリエネに対する目付きは鋭いものだった。
動じずデギンズを躱し道場を出たリリニシア、レピ、リエネの三人は、城へ向かう前に再び場所を移し、秘密の場所で密談する。
次回「国防の長と国王」
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