世界にただ一人

雨蛙/あまかわず

世界にただ一人

気が付けば俺は布団で寝た切りになってしまった。


特になにかやったというわけではない。


朝起きて仕事に行って夜帰ってきてご飯を食べて寝るという、なにもない日常を繰り返していただけ。


なにもしていないのに体が、心が壊れた。


たまにスマホを眺めてはまた寝る。


少し気が楽になってきたころ、さすがに体を動かさなければと思った俺は、気になっていたVRゲームに手を出すことにした。


適当に見つけたうさ耳少女のアバターを使い、「兎野うさの」という名前でサーバーに入った。


ここはお店ごとに遊べるゲームが違うらしい。


試しに適当にお店に入ってみる。


ゲームセンターみたいにほかの人がやってるところも見れるようだ。


先にプレイしている猫耳の女の子を見てみると、音楽に合わせて流れてくるブロックを手で壊している。


いわゆる音ゲーというやつだ。


ただ、その人はブロックを壊すだけでなく、回ったり、ジャンプしたり、ステップを踏んだり、まるで踊っているようだった。


一曲終わった後、思わず拍手をしてしまう。


楽しそうだったしやってみようかな。


でも難しそうだったし…


「もしかしてプレイしに来たの?」


悩んでいたらさっきプレイしていた人が俺に話しかけてきた。


「初めてここにきてどんな感じか見てたんだ。面白そうだけどさっき君がやってたのを見てたら難しそうでどうしようか迷ってたんだよね…」


「そんなに考えることはないよ。実際私がやったのは難しいやつだったけど、難易度調整できるし、試しにやってみるといいよ!私がやり方教えてあげるから」


「そこまでいうなら…」


俺はその子に手取り足取り教えてもらいながら簡単な曲を一曲プレイした。


結構楽しかったし、ちょうどいい運動になっている。


「教えてくれてありがとう。楽しかったよ」


「私こそ、遊んでくれる人が増えてうれしいよ!私結構やりこんでるからわからないことがあったら何でも聞いて!そうだ、フレンドになろうよ!」


「フレンド?いいけど…」


なんか流れでその場でお互いのIDを交換してフレンドになった。


念のためフレンド欄で交換できたか確認する。


名前はキャシーっていうのか。


名前の下に称号みたいなのが書いてある。


「…世界にただ一人?って何?」


「ああ、それは…」


キャシーは照れくさそうに口ごもりながら話をつづけた。


「実は私、このゲームの世界一プレイヤーなんだ」


「ええ⁉」


この人が世界一位のプレイヤー?


確かにうまかったけど、そんな人と簡単に会うなんて信じられない。


「そんなこと急に言われても信じられないよね」


「そんなことはないけど現実味がなくて…。具体的になにで世界一になったの?」


「全曲スコア一位だったり、いろんな大会で何回も一位をとったりかな。スコアボードを見てくれたらわかるし、私のプロフィールからもトロフィーが見れるよ」


言われた通り確認していくと、確かにどの曲でもキャシーの名が一番になってるし、いろんなトロフィーを持ってる。


初めてであった人が天下無双したとんでもない人だった。


「こんな人とフレンドになるなんて、なんか申し訳ないな」


「なにいってんの!こうして一緒に遊ぶ友達が増えてうれしいよ。よかったらほかのゲームも一緒にやろうよ!いやだったら無理にとは言わないけど」


「いやなわけないよ!VR自体初めてだし、もっといろいろ教えてよ!」


それから毎日一緒に遊ぶようになった。


俺の知らないゲームをたくさん教えてくれた。


布団で寝た切りの毎日が嘘みたいだ。


この子のおかげで少しだけ生きていこうと思えた。

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世界にただ一人 雨蛙/あまかわず @amakawazu1182

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